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人生の退職代行会社〜新しい人生へようこそ〜  作者: 地野千塩


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人生の退職代行会社と就活と終活(2)

「確かに喪服みたい……」


 奈緒はスーツを買いに着ていた。家の近くにショッピングモールにある服屋で、店長にはスーツが並んでいる。いつも服を購入する店とは明らかに違うが、この店で間違いないはず。


 店長のマネキンも黒いスーツを着ていた。かろうじで女ものと男ものの差は分かるが、全部同じに見える。喪服っぽいし、この店が一瞬葬式会場に見えた。たぶん、奈緒の目の錯覚だろうが。


 確かにピンク色のシャツや派手なデザインのネクタイも一部置いてあったが、基本は黒い。紺色のスーツもあったが、遠目には黒と大差ない。靴もカバンも全部黒い。店内にはクラシック音楽も流れていたが、お葬式で流れていても不思議ではなさそう。


「いらっしゃいませ、お客様」


 女性店員が近づいてきた。向こうも黒いスーツ姿だ。ピンク色のシャツにショートパンツ姿の奈緒とは全く違う雰囲気だ。


「バイトの面接とかで着られそうなスーツってあります?」

「そうですね、こちらの……」


 店員に勧められるままに試着してみた。元々痩せ型の奈緒に合うサイズはあまりなく、パンツやスカートも少々ゆるい。


 最後にジャケットを羽織り、一式着てみた。鏡で確認したが、全く似合わない。


 工業製品になった気分。ネジとか、鉄板とか、歯車とか工場で大量に作られるもの。


 このスーツも工場で大量生産されたものだろう。海外の安い人材を奴隷にして作られたスーツ。先程の店員も時給で働くバイトかパート。奴隷が生産し、奴隷が売って、奴隷が着るスーツ。


「スーツって嫌い……」


 そんな事を考えていると、居心地が悪くなり、脱ぎ始めた。就活とは良い工業製品になる事なのかもしれない。みんなと同じスーツを着る。みんなと同じような志望動機。違いは学歴の差のみ。学歴という戒名を得る為、時間と金を浪費する。立派な戒名を印籠とし、一日八時間以上の修行をすれば来世(老後)は極楽浄土に行けると信じながら。しかも全部一人でやらないといけない。誰かに手伝っても貰えない苦行。


「やっぱり私も大量生産された奴隷?」


 試着室の鏡は、暗い顔の奈緒がいる。こんな黒いスーツを着ていたら、葬式気分は拭えそうにない。


 そうは言ってもインフルエンサーを続けていくのも不満があり、結局、スーツ、カバン、パンプス、ストッキングまで買って帰ってきた。ものの見事に全部黒い。部屋に置いておくだけで葬式気分になるそうで、クローゼットに押し込むと、少しは気分が良い。


 適当にバイトの求人も見ていた。おそらく、来年、本格的に就活を始めた時は、もっと葬式気分になりそう。自由もモラトリアムも個性も全部殺して、立派な工業製品とし、内定をもらう就活。確かに葬式のような暗いスーツはピッタリかもしれない。


 そんな暗い気持ちだったが、SNSを漁っていたら、合同企業説明会の案内が出ていた。就職、転職組だけでなく、大学一、二年生や高校生も自由に参加できる合同企業説明会らしい。年齢制限などもなく、学生向けの相談ブースや氷河期世代向けのセミナーなども同時開催されるらしい。場所はホテルの宴会場で、規模も小さくはないらしい。Amazonのギフトカードなども抽選で当たるらしい。


「へえ、ちょっと行ってみようかな?」


 何よりスーツは着用しなくて良いという。履歴書は一部必要らしいが、バイトやパートを募集している企業もあるらしい。


 という事で奈緒はこの合同企業説明会に参加する事にした。


 一応履歴書も用意した。スマホで作り、写真もコンビニで印刷した。


 写真を撮るために一応スーツを着た。またスーツを着て憂鬱になりそうだったが、仕方ない。


 いつもだったら自撮りは加工してSNSに流す。それも今回は辞めた。履歴書用の照明写真は加工は基本的にNGらしい。


 おかげで無表情な照明写真が出来上がった。一応アプリで背景などは調整してみたが、写りが悪い写真だ。SNS用に撮った写真と雲泥の差がある。


「まるで遺影みたいな証明写真……」


 証明写真を履歴書に貼り付けてみたが、目は死んでいた。口元もへの字になり、葬式に飾られていても、全く違和感がない。そんな暗い写真だった。


 こんな写真つきの履歴書は、三途の川を渡るために交通手形になるのだろうか。学歴や資格は来世で幸せになる為の戒名。その先は極楽浄土か地獄かはわからない。


「地獄かもしれない……」


 遺影のような照明写真を眺めながら、とても極楽浄土へはいけない気がする。一日八時間以上の修行とお布施(税金)を取られながら、輪廻転生という蜘蛛の糸を待つ。しかしその先も極楽浄土かわからない。永遠に成仏できず、福祉や社会保障を食い潰す浮遊霊になってもおかしくない。インフルエンサーを失敗したら、確実にそうなる未来が見える。


 果たして合同企業説明会には蜘蛛の糸が垂れてくるだろうか。それとも、極楽浄土はお断りだとお祈りメールが来るだろうか。そもそも成仏自体出来るだろうか。


 履歴書の照明写真を見つめながら、祈るような気持ちだった。

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