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人生の退職代行会社〜新しい人生へようこそ〜  作者: 地野千塩


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人生の退職代行会社と復讐代行会社(3)

 今日は仕事休み。パートでも一応有給は出るので、権利を行使したまでだ。


 念入りに化粧をし、髪も整えた。復讐代行会社に行くためだ。度の入っていないメガネもかけてみた。復讐代行会社は寿司屋の近くにあり、一応変装風にした方が良い気はする。


 最後にハンドクリームをたっぷりと塗る。今日は仕事がない。心なしか手は元気そうに見える。それでも手の皺やシミ、色素の薄い爪は年齢を隠せず、仕事で受けた悪い念を吸収しているように見えた。


 外はもう夏が近く暑い。日焼け止めも一応塗ってあるが、あまり意味はなさそう。


 バスに乗り、寿司屋の近くで降りる。いつものバスだったが、仕事がないだけで気分は軽い。これから復讐代行会社に行くとは思えないほど、千花の口元は緩んでいた。


 バスを降りたら地図アプリを頼りに、目的地に向かう。寿司屋は飲食店街にあるが、そこから歩いてごちゃごちゃとした雑居ビルの中に目的地があるらしい。


 雑居ビルは派遣会社も多く入っているらしい。日本は派遣会社が世界で一番多く、非正規労働者の使い捨てや中抜きの役割を果たしているとも言われている。


 そんな派遣会社もある。何も生産していないのに、中抜きや手数料などで生き延びる会社がある。ゾンビのような会社だ。


 日本は一度レールから外れると、成仏できない。来世という幸せな老後が来ないらしい。短期離職の輪廻転生を繰り返すか、底辺職地獄で幽霊達の洗礼を受けるか。あるいはゾンビみたいな派遣会社に頼るぐらいしか選択肢がない。千花のように結婚、出産という事情でレールから脱線しても同じだ。日本社会の構造が見えてしまい、千花の怨霊化は天井が無い。もう顔はすっかり般若だ。


「あれ?」


 そんな事を考えていると、前方に女がいた。その女の顔には見覚えがある。夫の不倫相手だった。


 夫の不倫相手はいわゆる大企業に勤める正社員だ。愛人やっている以外は社会的な地位もあり、年収も高い。


 そんな不倫女がなぜ? この辺りに?


 今は平日の午前中だ。不倫女は仕事しているはずだが、有給なのだろうか。


 少し不倫女の後をつけてみた。全く気づいていない。以前、不倫の証拠を集める為、探偵事務所に頼んだ事があったが、案外尾行は気付かれていないらしい。不倫の罪悪感も全くないらしいから。まさか探偵や奥さんにバレているとは、考えてもいないと探偵が言っていた。


「へぇ……」


 その不倫女の背中を見たが、確かに何の罪悪感も後ろめたさ無いらしい。足取りも軽やか。ニコニコと笑顔で自動販売機のコーヒーも買っていた。


 さらに千花の怨霊化が進んだ。自分は我慢してつまらない仕事をし、家庭を守っている。子供は独立したが、育児も家事も全部押し付けられた。夫には家庭を守るためにパート以外するなと言われた。


 それなのに、不倫相手も勝手に退職した亜由子も楽しそう。我慢なんてしていない。一方、千花はずっと我慢中。狭い洗い場で汚い食器を洗い続けている。まるで籠の鳥みたい。そんな三十年間。


 当初の目的を忘れそうな千花だった。怨霊化は止められなかったが、不倫女は千花と同じ目的地へ入っていった。


「嘘……」


 復讐代行会社のあるビルに入っていく。ビルは他に派遣会社や障害者の就労支援事務所などが入っていたが、それらに不倫女の用は無いだろう。


 だとすれば復讐代行会社に用があるのだ。職員か顧客かは不明だったが。


 生ぬるい風が吹く。千花の薄くなってきた前髪を揺らしていた。


 急に怨霊化が止まってきた。もし、不倫女も復讐代行会社を利用していたら、自分も同じ穴の狢か。


 心底嫌悪していた不倫女と同じ事をしようとしていたと思うと、急に覚めてきた。そもそも亜由子に強い恨みもない。亜由子が消えても、復讐されても、生活への不満は全く解消されないだろう。


「単に幸せそうな人が憎いのか……。自分が満たされていないから……」


 怨霊化している原因がわかったら、復讐代行など馬鹿馬鹿しい。すぐにトークアプリから今日のカウンセリングをキャンセルした。急なキャンセルだったので返金されなかったが、それで良いかもしれない。


 結局、千花はバスに乗って自宅に帰ってきた。夫から連絡もあり、今日は出張で帰って来れないという。


 今日も回鍋肉にしようと思ったが辞めた。たまには寿司でもとってみるか。長年、働いいるが、賄い以外お寿司は食べた事がない。賄いもバックヤードで急いで食べるので、美味しいと思った事は一度もなかったが。


 あの店の寿司はやめておこう。他のチェーン店の寿司屋で頼んでみた。


「たまには美味しいもの食べてもいいでしょ……」


 代金は決して安くなかったが、寿司を食べていると、怨霊化は完全にストップした。


 今日は少しだけ自分に甘くしよう。そうしたら、呪詛の言葉も出てこない。

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