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人生の退職代行会社〜新しい人生へようこそ〜  作者: 地野千塩


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人生の退職代行会社と復讐代行会社(2)

「ははは、えー、井中さんって自分の事、呪縛霊とか言って面白い。そんな人だったんだ」


 鈴木萌のピンク色の髪が揺れる。萌によると、大学内でピンク髪が流行っているらしい。


 今日も千佳花は仕事。今日は雨のせいか比較的、客は少なかった。おかげで一緒に皿洗いをそている大学生バイト・鈴木萌と話す時間があった。


 あの更衣室の一件以来、なぜか萌に気に入られ、よく話す仲になった。萌によると、千花がいろいろと面白いらしい。


「そうかしら。私は毎日がつまらない。こんな底辺職を三十年も続けているのよ」


 ケラケラ笑う萌にイラッとし、千花はそっけなく言い、洗った食器を乾拭きしていた。


「でも、ここのオーナーは優しいし、子供さんが熱出した時とか融通きいたんじゃないですか?」

「確かにはそうだけど」

「底辺職なんて闇バイトみたいのを言うんですって。あとカルトの教祖とか、詐欺師とか。派遣会社みたいに中抜きする会社とか。井中さんがいなかったら、外国人のお客さんもお寿司食べられないよ〜」


 きゃっきゃと冗談を言う萌。最初はイライラしたが、その若者らしい素直さは悪くない。千花は萌は手なづける事にした。気の強い大学生バイトやフリーターは扱いにくくて好きじゃないが、萌なら上手く使えそう。


 萌に亜由子の悪口(※事実無根)を吹き込み、一緒になって「指導」していた。萌は若者らしい素直さで飲み込みがよく、実に千花の思い通りに動いてくれた。


 呪縛霊の手下の式神といったところだろうか。こういった事は過去にも何度もやっていた。オーナーの知り合いの引きこもり男が来た時も、生活保護でパチンコをしているとか、客のストーカーをしているとか悪口を吹き込み、若いバイトは式神としてよく動いてくれた。


 日に日に亜由子の表情が曇ってきたが、罪悪感はない。本人すら式神を操っている呪縛霊の存在には全く気づいていなさそうで哀れ。


 この日本では「新卒カードを使って正社員になって一生安泰」というレールから落ちると、非正規&底辺職の地獄が待ち受けている。そのレールは出産や育児、介護でも簡単に脱線する。病気や災害でもそうだ。一生順風満帆にレールに乗っている人は案外少ないかもしれない。


 そして大抵の非正規&底辺職はストレスの多い職場だ。そうでなくても何のスキルもつかない。成長もしない。毎日同じ事の繰り返しの籠の中。正直、新しく入ったパートやバイトをいじめても何の罪悪感もない。むしろ楽しい。それこそが呪縛霊の役目ではないかとも思うぐらい。きっと地獄でも罪人を「指導」する鬼とかいるはずだし。


 しかし、千花の思惑はそう簡単には続かなかった。カルマの清算があった。報いを受けた。


 亜由子は退職代行を使って辞めたらしい。しかも退職代行経由で「井中さんと鈴木さんに虐められので退職します」という連絡が来たらしい。仕事終わり、オーナーに呼び出された、萌と共にこってりと絞られた。今まではそんな事はなく、音信不通になったり、黙って消えるバイトやパートばかりだったから、余計に立場が悪くなった。


「本当、腹立つ。退職代行なんて使うなんて」


 オーナーに怒られた後、萌と共に女子更衣室に戻り、千花は呪詛の言葉を吐く。呪縛霊らしい悪い念に満ちた表情で。


「井中さん、仕方ないですよ。退職代行は合法です。うちら、悪霊退治されちゃった感じですね。退職代行はお局エクソシストか?」


 萌はそう笑うと、着替え、さっさと帰ってしまった。これから彼氏とデートなのだという。怨霊化しつつある千花に萌も参ってしまったらしい。


 ふと、ロッカーを見る。亜由子のロッカーもそのまま。私物も入っていたが、それを見るだけで千花の顔が般若と化す。怨霊化まったなし。


 オーナーから亜由子のロッカー荷物を片付けるように立野凛に指示しているのを耳にしていたが、怨霊化中の千花は、冷静な判断を失った。


「みんな我慢して好きでもない仕事をしているのに。あいつだけ退職してずるい。不幸になればいい」


 呪詛の言葉は相変わらず。亜由子のロッカーの私物は乱暴にゴミ箱に投げ捨てた。バサバサという音が響く。


「ああ、スッキリしたわ」


 口ではそう言ったが、別に何も嬉しくはない。かえってモヤモヤするし、退職代行会社というのもふざけている。


 家に帰り、夕飯の支度を終えると、退職代行会社について調べてみた。千花が想像している以上に色々代行会社があるらしい。その中でも出エジプト社という退職代行会社は、かなり変わった所で話題だった。


 退職代行だけではなく「人生の退職代行会社」と自称し、終活ビジネスにも手を出しているらしい。自殺志願者に遺書の代行や遺族への連絡サービスを提供しようと炎上。自殺幇助に当たると各方面からお叱りを受け、そのサービスは無期限休止中だという。


 他にも広報の百瀬亜論という男はネットでも有名人。インフルエンサーという存在らしい。四十すぎのコメディアン風のルックスだったが、動画サイトでは歌って踊っている。宗教もネタにした歌詞で絶賛炎上中だという。


 夫は仕事で遅くなると連絡が入った。どうせ不倫相手の家に行くのだろうが、それをいい事に変な退職代行サービスについて調べてしまう。何よりこの会社の経営成績は年々上がっているらしく、世の中には想像以上にクズが多いらしい。


「退職代行を使う人間なんて。辞めますも言えない人なんて、ねぇ……。クズだわ」


 亜由子を「指導」していた事を棚にあげ、口からまた呪詛の言葉が漏れる。


 ちょうどその時。あの変な退職代行会社が新しい動画をアップしていた。


「うん? え、何で山下さんが踊っているわけ?」


 驚いた。新しい動画では亜由子が踊っていた。


「退職代行サイコーです♪石の上にも三年なんて嘘♪三日でやめよう♪三日で復活♪神もそうした♪合わない仕事は鬱になるから♪新しい人生へ行こう♪」


 平成風アイドルポップにふざけた歌詞がのっていた。この会社の新曲らしいが、亜由子はキラキラの笑顔で踊っている。しかもダンスはキレキレで素人の癖にうまい。元々美人だった亜由子は動画映えもていた。


「は!? 何これ!?」


 式神と共にいじめ抜き、辞めさせたのに、どういう事だろう。動画の亜由子は楽しそう。自由そう。幸せそうで、さらに千花の顔が般若化した。


「なんなん、コイツ。あり得ない」


 千花の怨霊化は止めらなかった。今すぐにでも藁人形を持って打ちに行きたい。


「藁人形か……」


 退職代行会社があるのなら復讐代行会社もあるのはないか。


 ピンときた。千花は復讐代行会社があるか検索してみた。すぐに見つかった。しかもSNS上ではあの変な退職代行会社を叩いていたので、余計に人事じゃない。


 復讐代行会社は「ファラオの誓い」という名前らしい。一体何の意味かは不明だったが、公式ホームページを見る限り、数々の実践もありらしい。しかも値段も安い。本社ビルは千花が働いている寿司屋にも近い。歩いて十分ぐらいだ。


 これは何かの運命だろうか。亜由子を呪えと耳元で悪魔が囁いている気がする。


 食卓には冷めた夕飯。今日は夫が好きな回鍋肉にしたが、ゴミ箱に全部捨てるとスッキリした。


 すぐに復讐代行会社・ファラオの誓いの会員登録をし、公式トークアプリも入る。トークアプリから色々と入力し、カウンセリングの日付けが決まったら、予約は終了。あっけないものさった。


 本当は夫の不倫相手にも復讐したいところだったが、今は亜由子を呪うだけで十分だった。


 また亜由子の動画を再生して見た。SNSで話題になっているらしく、再生回数も伸びていた。


 幸せそうな亜由子の顔。まるで水を得た魚のよう。イライラする。


「恨めしや……」


 そう呟くと、千花の怨霊化は全く防ぎようになかった。

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