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人生の退職代行会社〜新しい人生へようこそ〜  作者: 地野千塩


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人生の退職代行会社と死後のSNS代行(3)

 SNS上では退職代行会社も賛否両論らしい。否定派では自分で辞められない、挨拶できない、辞め癖がつくという意見が多い。メディアも数社からアンケートをとり、退職代行の印象などを報道し、やたらと否定的な意見も目立たせてはいたが、実際、姉は辞め癖がつき、ジョブホッパーになってしまった。


 果たして綺咲も、全面的にあの退職代行会社を信頼して良いかは疑問が残るものの、トークアプリで連絡していた。


 既読はすぐについたが、一日経っても返信はなかった。


 その間、綺咲はあの転職代行会社の評判もSNSで見ていた。熱心なアンチもいて、広報の百瀬亜論に誹謗中傷をしているアカウントもあった。


 一方、熱心なファンもいた。特にメンタルヘルスに問題がある界隈では、自殺の後始末をする終活サービスが魅力的に見えたらしい。署名を募ったり、グループを作ったりして、あのサービスを復活させて欲しいと熱心に頼んでいた。その熱量がヲタクっぽい。そこらのサラリーマンよりよっぽど生命力がある投稿が目立ち、綺咲も苦笑するほどだ。


「しかし、この百瀬亜論の歌や踊り、ふざけていて腹立つ……」


 SNSで退職代行会社の情報を調べていたら、百瀬亜論のダンス動画も頻繁にタイムラインに上がるようになり、イライラとしてきた。これから自室で生配信をしようと思ったが、あの音楽はダサいし、歌も上手くない。広報のくせに、キレキレのダンスを踊ってネットで配信している理由も全く解せない。


 ついイライラとし、その気持ちをSNSで発信してしまった。どうせいいね!も反応が無いだろうと思ったが、意外と伸びてしまい、百瀬亜論から引用コメントも届いた。これでまたいいね!も増え続け、いわゆるバズってしまった。通知もいっぱい来るが、楽しくない。


 自室のベッドの上で寝転びながらSNSを見続けたが、努力して配信した結果はしょぼく、退職代行会社へに批判的なコメントはバズった。フォロワーも少し増えたぐらい。それでもインフルエンサーになれるぐらいの数にはならず、返ってモヤモヤが濃くなってしまう。


「解せない。なんか理不尽じゃん……」


 SNSの理不尽さを身をもって実感してしまったが、今度はトークアプリの方にあの退職代行会社から返信がきた。


「嘘!?」


 飛び上がって確認すると、現在、自殺幇助にあたるような終活サービスは無期限中止だと言うが、特別にメニュー提供する事は可能だという。担当の高野マナという社員からの返信だ。


 すぐに詳細を教えて欲しいと返信を打つと、今度はすぐに既読がつき、返事も返ってきた。もう夜の0時近いのに、社員はいつ休んでいるのだろうか。


「詳しい内容は本社ビルで直接カウンセリングします、か。一時間五千円。場所は……」


 返信を読み上げる。場所は関東の某県のベッドタウンの街だった。確か駅前は商業施設が多く、人口も多い。綺咲の家からも電車で一時間ほどでつく。遠い距離ではない。すぐにカウンセリングを予約し、日程も調整。明後日の午後十時に出エジプト社の本社へ出向く事に決まった。


 すぐに地図アプリで出エジプト社の外観をチェックしてみたが、見た目は普通だ。一階はコンビニ、二階は喫茶店や美容院があるビルの七階が本社らしい。


 あっけないぐらい普通だった。ネットでは派手に活動して見える退職代行会社だったが、リアルでは、ちゃんと普通の会社に擬態し、街中に隠れているらしい。


 そうしてあっという間に当日になった。また退職代行を使い、仕事を辞めてきたという姉と、そんな姉に動揺する両親で家の中は相変わらずだったが、無視して、大学の定期も途中まで使い、あの退職代行会社まで向かう。


 ついた駅は、人口が多く、栄えた郊外都市だった。駅周辺は多くの商業施設があるが、今は平日の午前中だ。サラリーマンや通学途中の人は少ない。主婦や綺咲のような女子大生風の若者も少なくない。それに今日は晴れだ。梅雨の合間だったが、今日は傘が要らない。ピカピカに晴れていた。


 綺咲は地図アプリを頼りに目的のビルへと向かう。飲食店街を抜け、ごちゃごちゃとした細い道に入ると、目的のビルは見つかった。周囲は似たようなビルも多く、このビル自体は、そう目立たない。地図アプリを使っていても、少し迷ってしまうぐらいだった。


 一階のエレベーターに乗り、七階を目指す。あっという間に七階まで到着し、オフィスの入り口まで到着した。


 ここにきて緊張してきた。確かにここで間違いは無いだろう。ちゃんとインターフォン横に小さく「人生の退職代行会社・出エジプト社」と書いてある。


 唾を飲み込む。軽いノリで来てしまったが、綺咲の中には、自殺へのプランは特に決めていない。ノープランといえよう。そんな軽いノリで来てしまっていいものか?


 姉に感化され過ぎていたのかもしれないが、もし、人気のインフルエンサーに転生できるのなら……。


 もう来てしまったのだから、逃げようはない。もう一回唾を飲み込むと、インターフォンを押す。


 すぐに男の声で返事があった。トークアプリで連絡をとった女ではなさそう。チャラチャラとし、南国の楽器のような軽い声だった。


「はい。出エジプトです。お名前とご用件をどうぞ」


 綺咲は再び唾を飲みこみ、名前やトークアプリでカウンセリング予約した事を説明した。


「では、ご案内します。扉から入って、三番目のお部屋にどうぞ。第一カウンセリングルームとなっております」


 男の声は不自然なほど明るい。


「ようこそ、出エジプト社へ」


 その声がやたらと耳について仕方ない。


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