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65歳の爺さんが電動キックボードに乗って異世界に行く(短編)神無 悟(10歳)1970年大阪万博

作者: MRT2O

「65歳の爺さんが電動キックボードに乗って異世界に行く」の2023年に第3部を書き始めて未完になった第1話を2025年大阪万博開催を期に短編にしたものです。

神無 悟(10歳)1970年大阪万博


1970年5月 時間は6時半過ぎ。


ここは兵庫県神戸市○○区の四軒長屋の角の2階建の1階の玄関は2畳ほどの土間に自転車が置かれている。

少年は、高さ30cmの貧相な上り框に腰掛け22cmの運動靴に足を入れ立ち上がりコンコンと運動靴の爪先を土間を叩き履く。

少年は、自転車の脇を歩き扉を開けて振り返り心配そうにしている家族に精一杯の笑顔を向けて「行ってくる」と言って玄関扉を開けて元気よく飛び出した。そして、ギュ一トと瓢箪形の御守りを握りめる。


家から少し離れると歩幅が短くなり、トボトボ歩き始め「ふーっ」と深くため息をつく。背負った大きく膨らんだ草臥れたナイロン製のナップザックと首から腋に掛けた傷が目立つウルトラマンの水筒が急に重くなった様に感じて更に歩く速度は遅くなる。


少年の脇を楽しそうに話しながら同級生が追い越して行く。

突然、第六感が働く。

少年は小さくジャンプして、振り返り「ひさちゃん、またー、あかんで」

久一はうんこ座りから顔を上げて「バレたか」と笑いをながら「さとるは、膝カックンでったい掛からへん。あの時から変わったな一・・・・・・」


悟は,あの時の光景を白黒テレビを見ている様に脳内に蘇る。

2年生の夏休みに関西を襲った超大型台風の影響で悟の家も浸水した。

家族総出で浸水した家の片付けてしていると、ひさちゃんが来て「船が転覆しているから見に行こう」と誘われた。自分は許しを求める目で父を見ると父親は額の汗を拭いながら「行って来い、危ないことするなよ」の声にチビット嬉しくて「うん」と大きな声で答えてから玄関土間に停めていた24インチの自転車を三角乗りで海岸まで行った。

海には、数十M先に転覆した漁船の船底と更に遠い所に貨物船の船底が大波に洗われていた。

コンクリート造りの桟橋に台風が残した波が先端にぶつかり波飛沫が上がる。


この時は確か自分は,桟橋に行って上がる波飛沫を避けて遊んでいたら白い波が少しずつ大きくなって行くのを他人事の様に見ていた。

どこまで大きくなるのか期待し何故かワクワクしている自分がいた。

次の瞬間,数メートル大波が桟橋と自分を覆い被さろうとしている。


ゆっくりと流れる時間の中で波が自分に落ちて来る見て『アカンわ』と思うと同時にズボン括り着けた瓢箪形の御守りを強く握りしめた。

すると瓢箪形の御守りが光り羊に乗った、お不動様が飛び出し落ちてくる大波を大太刀で切り裂いた。

不動明王が纏う眩しい光が目に入り、我にかえり『あれ,大波は?・・・助かったのか?』お不動様が振り返り脳に直接言葉が届いた。


『童の母は覚えておらぬが,大戦時に落ちてくる数多の焼夷弾と周りの火を太刀で切り捨てた、因果よう、その息子にも太刀使うとは。

童よ、助けた対価として運を貰った。元々少くない『運』をただ一振りしただけで貰うのは過分か。

然るに,童の潜在能力を覚醒させる。童の運が(1)でもその能力を使いこなせば寿命迄は生きることが出来よう。去らば、童よ』


光を纏ったお不動様が消え握りしめた御守りも無くなっていた。悟は今起きたことが信じられなくてただ海を見ていた。


突然、右肩を掴まれ振り返るとトラ柄のシャツを着た知らないオバちゃんが「波にさわれたと思って、あれ濡れてへんな変やな。なんでや」と言った。

今あった事を何となくしゃべたらあかんと思って「ありがとぉ」と言って、逃げる様に駆け出した。

ひさちゃんの「さとる・・・」と言う声を無視して家に走って帰った事を思い出した。


その後、感が鋭くなり、何か考える度に頭の中の霧の様な現れて頭がモヤモヤしていたが無くなり、本の内容は写真の様に記憶出来る様になった。

初詣で買って貰った御守りの瓢箪の中を見ると干支の動物が見える物だが、1年生の時に御守り売りの白髭のお爺さんから『童はこれ』と渡されたものは羊に乗ったお不動様だった。

それからは、もう一度お不動様のいる御守りを期待して自分の干支でもない御守りを買って貰っている。

・(意識が戻り久一の声が聞こえる)


あの時から変わったなー、感は良くなるし成績がオール1から3年生になったらオール3になって、「サトルお―い聞けえますか?サル、サル」と言いながら悟の頭にツッコミを入れる。悟からしたら算数、体育以外「5」を取る出来るけど人見知りの悟は目立ないよう「3」になるようにしていた。


悟は、ハッとして物思い耽っていた事に気が付いて「痛いな、名前の間のトを抜かしてサルと言うな」

久一は笑いながら「自分の身長が120cmチョットしかないから頭を叩くのに丁度良いんや、それにこまいからサルで良いやろ」

悟は160cm超える久一を身上げながら「ひさちゃんは4月2日生れ、自分は3月31日生れの早生れ、まる1年違うからや,1年後には平均身長の143cmなるんや」

久一は首を横に振りながら悟に「自分は肉も魚もたべられへんからむ―リ」

悟は顔を真っ赤にして「うるさいわ、ゴリラ」。

久一は悟の背中を押しながら「チンタラ歩いたら集合時間に遅れるやろ」

悟は足を突っ張って抵抗するが久一の力には勝てず二葉小学校に着くと

「ゴリラはサルより強いんや」と大笑いする。


校庭には大型バス数台がガソリン臭い排ガスを撒き散らし、悟は気分が悪くなり始めた。5年生の同級生が『太陽の塔,日本館・・・』どうとか言っている。

悟の担当の先生が点呼が済み生徒を見ながら「全員いるわね,アイウエ順に乗・・ 」 久一が真っ直ぐ手を挙げ大声で「生先」「大田君、何か」

「先生、神無がバスに酔うので、窓際の席に頼みます」

先生は神無の顔を見て『神無は前回もひどい車酔いでゲロの匂いで酷い目にあった。今も排ガスの匂いで顔色も悪い,でも神無だけ特別扱いできないわ』

先生は生徒達を見ながら「車酔いしそうな人は手を上げて」

男女6人が手を挙げる。「では神無君と手を上げた6名は先に窓際の席に座って、

後はアイウエオ順に座って下さい」


悟は窓を開け座る。久一が隣にドンに座る。悟はすまなさそうに「久ちゃんありがとぉ」久一はニコニコして「昨日、自分の母ちゃんお菓子を一杯持って来てな『悟が車酔いするから面倒を見てくれ』と言われたんや。これぐらい楽なもんや。もうかったし」


「自分は万博で何に見るんや、俺は人間洗濯機や。ビキニのお姉ちゃんの胸が水が渦巻いて揺れるやで」排ガスで気分が悪くなった悟るは,から元気を出して「リニアモーターとでったいアメリカ館の月の石や」

バスが出発する揺れを感じながら、久一が「知っとぉか?この前のテレビでエスカレータは右側に立つのがマーナー・・」

悟は、久一のしゃべりを適当に相槌を打ちながら物思いに耽る。


悟は三日前から遠足で怖い事が起きそうな気がして、行きたくないと家族に何回も言っていた。

家族は悟が何時も酷い車酔いするのが原因で行きたくないと思って、母は酔い止め薬や悟が好きなお菓子を用意した。父は遠足の前日に三宮そごう地下の悟の大好なピロシキを仕事を切り上げて買ってきて『遠足に持っていき』と普段は笑わない父が笑顔で言った。姉は二葉をモテーフとした校章を2個を使って四葉にして『これは四葉のクローバや幸運の印や。開衿シャツ胸に着けたる。』

兄は親がいない時に『他校生徒に因縁つけられたらこのナイフで脅かせ』刃渡り10cmのナイフを渡たされた。中学生の頃は成績優秀なのに番長していた、兄ちゃんらしいなと悟は思った。


『怖い事が起きるとしたらバス事故やろか?自分に巻き込まれて。久一、先生、友達が怪我するのは嫌や』

悟は、毎年、初詣の屋台で買うズボンに括り付けた瓢箪型の御守りをギュと握りしめる。この瓢箪型の口から中を覗いても羊が居るだけでお不動様はいない。

『もう自分をお不動様は助けくれない。お不動様、自分はええからみんなを助けて、お願いやから、お願いやから・・・』


後ろの席から「寒いから窓を閉めて」久一が振り返り「お前ら寒いのとゲロ臭いのどっちええんや」と怒るように言うと文句が聞こえなくなった。

久一の声で悟は我に返り「ごめんな」と誰に言うのでなく小さな声で言った。

悟は,昨日はよく眠れなかった事と酔い止めの効果でいつの間にか寝ていた。

久一に揺り動かされ、気が付いた。久一が「着いたで、自分、ゲロは叶ったのは初めてとちゃうか?顔色は悪いけどな」

悟は焦点が合わない目を擦りながら窓の外を見ると太陽の塔が見えた。「・・・うん、初めてや、ひさちゃんが色々してくれたおかげや。ありがとぉ」

久一は照れながら「よし、人間洗濯機を見に行くで」悟は青い顔で「うん、いこか」

悟は『良かった無事に着いた、ゲロもは叶なかったし。何より感がはずれて良かった』そう思うと少し元気が出てきた。

サンヨー館は意外に空いて,すぐに人間洗濯機の展示場に着いた。

実演していたが人間洗濯機は首から下は紙で覆われていて肝心な部分は見えなかった。

悟は、どおりで人が少ない訳だと思った。久一は「テレビに騙された」とブツブツ言う。

まだブツブツ言う久一を一緒にリニアモーターカーを見て、アメリカ館で1時間ほど並んで悟たちは人を掻き分けて月の石の前にいる。久一は「ただ石やん」と言ってまた宇宙船を見に行った。

悟は、月の石を見ながらアポロ11号,月,38万キロなど宇宙に思いを巡せいると、

突然、月の石を中心にボールぐらいの白い光が現れ、脳は瞬間的に危機を感じてお不動様の3つ目の加護の潜在能力が覚醒し悟の思考速度が何倍も早くなる。


引き伸ばされた時間の中で白い光は渦を巻きながら少しづつ大きくなって行く。

悟は、叫ぶ様に声を出す。

「でったいアカンやつや,クソ」『3日前から感じていた(嫌な感じ)は、この事か』

「死ぬのか?イヤや一、でったいイヤや一、母ちゃん」『お不動様はおれへん,お不動様から貰った命を無駄に出来ひん』「諦めへんぞ一一,アカン自分で何んとかするんぞ一一」

瞬きより短い時間の中で出した声は、初めて引くバイオリン様にギィと高い音にしか周りには聴こえない。

悟は足に力を入れて後退りしようとしたが白い渦の吸い込む力が強くて逃げられない。次は後に思い切り倒れてみる。体重が20kgの悟は,吸い込む力には勝てない。

白い渦が悟の大きさになった瞬間「アカン一一」と言う声を残して悟は渦に吸い込まれた。


月の石を取り囲む人の喧騒だけが響いた。

(終)

もしよろしければ読で頂ければ幸いです。

第1部 65歳の爺さんが電動キックボードに乗って異世界に行く(https://ncode.syosetu.com/n5950gi/)

第2部 65歳の爺さんが電動キックボードに乗って異世界に行く(オデリア大陸編)

(https://ncode.syosetu.com/n6919hb/)

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