2話 オークと少女と
門を潜り外に出る、ここから先に人の領域ではない。
あるのは野生と暴力と悪意のみ、ってのは言い過ぎだが気は抜けない場所だ
「なーヴィルってまだ毎日ドブさらいとかやってんの?」
が、速攻でおしゃべりを開始するミリアンダー、まぁこいつに関しては問題無いのだろうが。
「ん?ああ、筋トレ位にはなるからな。」
「またまたぁー、どうせ俺がやらなきゃ他の誰かが困るからとか思ってんでしょ!」
困る質問だ、俺的には惰性で日常を過ごしているだけなのだが。
「...俺がやったら筋トレにもなって金も手に入るが、やらなかったら爺さん婆さんが腰を痛めるだけだ。それなら俺がやったほうが得だろ。」
そう言うとニヤニヤして俺の顔を見るミリアンダー、こいつは良い奴だが他人もいい奴ばかりだと思わないで欲しい。
「.......さーーーーーーーーい...」
「「ん?」」
外じゃ聞き慣れない少女の声、思わずミリアンダーの顔を見る。
「盗賊かな?」
「バカ言うな、少女ぽい声だったぞ、いいとこ擬態系の魔物だろ。」
互いに得物に手を添えながらふざけていると先ほどよりも近い距離に声が聞こえる。
「ごめんなさーーーーーーーーい!!」
見えたのはオークの群れを連れて走る少女だった。
「ウッソでしょあんな集まる普通?」
「ああ、ただ事じゃないな。ひとまず助けるぞ。」
「りょ!」
ミリアンダーは槍を、俺は剣を構える。
先に動いたのはミリアンダー、右手に槍を持ち水平に構える。
弓のように体を引き絞り、全身の回転と共に放つ。
「いよいしょぉ!」
人間が発したとは思えない轟音と共に長さ3m、重さ10kgを超す流線型の槍。
とことん投げる事に特化した槍は紫色の雷光を纏い、オーク15体目で槍の運動量が尽き静止した。
「おおごめん!半分も行かなかったわー、後はよろ!」
「任された。」
構えた剣を地面から垂直に伸ばし掲げる。
体を半身に、大きく踏み込み渾身の一撃を用意する。
オークの群れの先頭が先程の槍と俺に気付き止まろうとするが後ろに押される。
「わぁああああああああ!!!」
少女が通り過ぎオークとの距離6m程。
5m
4m
3m
まだ振らない、大群は目と鼻の先、全てを一刀にて切り伏せるにはギリギリまで近寄らせたい。
2m
1m
少女はミリアンダーによって保護された様だ、ならもう良いな。
大きく掲げていた剣が振り下ろされていた。
ほんの少しの静寂を挟み、破壊音と共に10数体いたオークの群れは全て飛び散った。
「ふぅ...」
「ヴィルお疲れ〜い。」
「ああ。」
ミリアンダーに少女が引っ付いている、擬態した魔物かも知れないのによくベタベタ触らせられるな。
「あ、あのっ、ありがとうございます!」
「いいよいいよー人助けも冒険者の役目だからさっ」
ミリアンダーの言葉に目を輝かせる少女、怪しさの塊ではあるが見た目は純朴な少女そのものだった。
「お前の名前は何だ、どうしてこんな所にいる。」
「えっ、あのっ」
「ちょっとヴィルー、この子怖がってるじゃん、大丈夫だからねーお兄さん達冒険者だから君の味方だよー」
「あっはい!えっと、私の名前はカーラ、です。ここにいる理由は...」
突然暗い顔をするカーラ、その俯いた時に見えた首に何かの刻印の様なものが見えた。
「待て、首の刻印は何だ。」
「あっこれは...」
「ohマジか、もしや忌印?追われてたのも?」
忌印とは何らかの悪い効果をもたらす刻印、呪いとも呼ばれ魔族やドラゴンが気まぐれに放ってくる魔法だ、呪いの内容も様々で3日以内に死ぬ物もあれば運が悪くなる程度の物もある。
「...はい、お母さんの誕生日にお花を摘んであげようと思って近くの川に行ったら、赤い大きなドラゴンが居て...びっくりして転んじゃって、気づいたら忌印があって...」
話すごとに泣きじゃくるカーラをミリアンダーが慰める、子供の足じゃそう遠くまで来れまい、よって大きなドラゴンがまだ近くにいると言うことだ。
忌印の効果が魔物寄せならオークに追われていたのも納得だし、かなり高位のドラゴンの可能性がある。
「もういいぞ、お前の村はどうした。」
「えっと、帰る途中でオークに追いかけられたから分からないです...」
良かった、下手に村に帰っていたら村ごと滅ぶ可能性もあった。
ドラゴンや魔族に魔物寄せの忌印を彫られ、国ごとモンスターに引き潰された話は時たま聞く。ミリアンダーもホッとした顔をして少女の頭を撫でている。
「ミリ、依頼完了報告とこの事をレミさんに伝えに行くぞ。」
「はいよー、ちょっと急ごうか?」
「ああ、カーラを頼む。」
「あいよー。カーラちゃんしっかり捕まって口は閉じといてね、舌噛んじゃうから」
「は、はい!」
その後すぐにカーラは舌を噛んだ。