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第1話後編

「こら!時間になっても帰ってこず、一体どこで道草くってたんだ!」

「ご、ごめんなさい・・・。」

こっそりと孤児院に帰ってきた俺は先生に一瞬で見つかってお叱りを受けていた。

「全く、お前という子は・・・って、誰だい?その後ろの人は?」

「後ろ?」

言われて初めて振り返ってみる。そこには何故か晴さんがいた。

「晴さん!?なんでここに?」

「いや、さっきの答えをまだ聞いていないから。」

「あの、どちら様?」

先生だけが状況に追いつけず混乱している。

「初めまして。あなたがここの先生ですか?」

「そうですけど・・・。というか、本当に誰なんですか?」

「おっと、自己紹介が遅れました。オレの名前は晴。旅をしているしがない画家で魔法使いです。本日は、蒼をオレの旅に連れていけるように説得と交渉に来ました。」

「は!?」

先生は素っ頓狂な声を上げて目を丸くしていた。そりゃそうだ。俺だって驚いた。晴さんはそんな俺達を置き去りにしてどんどん話を進めていく。

「蒼は外の世界に興味を持っています。彼の心はいろんなものを知りたがってる。事実、蒼はオレの魔法を見て、空を飛ぶ魔法をすごいと言ってくれた。そんな彼を見捨てたくない。」

そこまで聞いて、ふと疑問に思った。

「待ってください。思ったんですけど、どうして晴さんはそんなに俺に執着するんですか?」

なんで今まで気にしてなかったんだろうと自分でもびっくりした。晴さんも不意を突かれたように目を丸くした。

「うーんそうだな。正直オレにもうまく説明できないんだけど、ただ一つ断定できる理由があるとすれば、君のことが気に入ったからだよ。なんだか昔のオレに似てるっていうか・・・。」

「え?」

「まぁ、その話はオレの中で整理ができたら話してあげる。とにかく、オレとしても君と旅ができたらきっと楽しいと思う。だからもし蒼がオレの邪魔をするかもって思っているなら、そういったことは気にしなくてもいい。君の純粋な願いを聞かせてほしい。だからもう一度聞くよ。君はどうしたい?」

「俺は・・・。」

この機会を逃せば、もう外の世界を見ることはできないかもしれない。そう思ったときには心はもう決まっていた。

「不安だけど、もっといろんな世界を見てみたい。俺の知らないこと、もっと見てみたい。このチャンスを逃したくない・・・!お願いします、連れて行ってください、晴さん!」

「そうこなくっちゃね!ということで先生。この子は貰っていきますね。書類や手続きが必要ということでしたら今日ももう遅いですし、明日また伺いますが。」

「私はそのほうが助かりますが、蒼は良いのかい?私は旅をしたことがないからよく分からないけど、ちょっとの覚悟でできるもんじゃないよ。」

「・・・確かにそうかもしれないけど、それでも俺は行ってみたい。ずっと夢だった。外の世界を見てみたいって思ってた。覚悟はちゃんと出来てる。」

先生は少しだけ考え込むような姿を見せた後、観念するようにため息を吐いた。

「はぁ。分かった。そこまで言うなら行ってきな。」

「先生・・・ありがとうございます!」

「話はまとまったみたいですね。」

「はい。蒼のこと、よろしくお願いします。」

「わかりました。じゃあ、また明日ね。蒼。」

そう言って、晴さんは去っていった。


翌日、晴さんは本当に来てくれた。

俺は外の世界を見られるという期待や興奮と新生活に対する不安とで昨夜はとても眠れなかった。荷造り(といっても、持っていけるような物はあまり持っていないけど)をしている今も少しだけ頭がぼんやりしている。眠ってしまわないようになにか考え事をしよう。俺はふと、昨日からのことを考えた。昨日だけで、俺の中で何かが変わった。俺にはお金も度胸もない。こんな俺にはチャンスだって巡ってこないって思ってた。俺だけが逃げるわけにはいかないとも思ってた。だけど昨日晴さんと出会って、そんなことはないって思えた些細な出会いが俺を変えてくれた。それってきっとすごいことだ。きっと感謝してもしきれないだろう。

それにしても、まさか先生があっさり快諾するとは思わなかった。先生は自由時間があるとはいえ、俺達が外に出ることをよく思っていなさそうだったのに。

荷造りを終わらせて部屋で待っているとノックが響いた。瞬間扉が開く。晴さんと先生が顔をのぞかせる。

「蒼、お待たせ。手続きも終わったから、そろそろ行こう。」

「うん。」

二人に連れられて外に出る。すると、孤児院の仲間たちが見送りに来てくれた。

「蒼兄ちゃん!行っちゃうの?」

「蒼、ワタシたちのこと忘れないでね!」

「もちろん。みんなも元気でね。」

そう言ってみんなのの顔をちゃんと見る。あれだけこの孤児院を出たいと思っていたのに、いざ今までの住処や一緒に育った仲間と離れるとなったらやっぱりさみしい。沁み沁みした気持ちで仲間たちに挨拶をしてると、先生が近づいてきた。

「本当に行くのかい?外の世界には綺麗なものもあるかもしれない。でもそれ以上に危険だってたくさんある。」

その言葉でやっと気づけた気がした。今まで俺は、この場所が閉鎖的だってずっと思ってた。だけどそれは俺達がちゃんと先生に「思われていた」からなのかもしれない。俺はそれを勝手に鎖だと思っていたのかもしれない。どうして知ろうとしなかったんだろう。

「・・・それでも、俺は行きます。」

「そうかい。ならそんなにしみじみせずにしゃんとしな。覚悟を決めたからにはちゃんとやりとげるんだよ。それでも、さみしくなったら遊びにおいで。いつでも歓迎するよ。」

「・・・はい!」

もう一度覚悟を決めて、晴さんのもとへ急ぐ。

「お別れはもう大丈夫?」

「はい。少しさみしいけど大丈夫です。でも、いつかまた会いに来たいな。」

「そうだね。その時はオレが連れてってあげるよ。いつか来るその日のために、そろそろ出発しよう。今日からよろしくね。」

そう言うと晴は再び箒を取り出して俺に向かって手を差し出す。

「あ、そうだ。一緒に旅をするからには敬語は使わなくていいし、晴って呼び捨てにしてよ。」

「わ、分かった。よろしく、晴。」

「よし!じゃあ出発しようか!」

その言葉を合図にしたように、俺は晴の手を取った。晴は俺を箒の後ろに乗せてふわりと上昇し、前進する。やがて俺達は街を出た。

これが俺の世界旅行の始まりの話だ。


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