表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

??日目、朝

『シオン様。どうか私を、ご一緒させてはくださいませんか…?』

 雨が激しく窓を打つ音で、唐突に目が覚めた。


「んむ……」


 何だかとても幸せな夢を見ていたような気がするが、内容を全く思い出せない。もう少し眠っていられたらよかったのにと、そう思った。


 寝起きで視界がぼんやりしていたが、目をこすりながら仰向けになると段々はっきりとしてくる。


「んん…?」


 天井も壁も丸太組だ。天井は高く、自分が立ち上がって両腕を目いっぱい上に伸ばしたとしても、指先さえ届かないだろう。


 左側の壁は手が届きそうな距離にある。その少し高い位置に埋め込まれた窓には、大粒の雨が絶え間なく打ち付けられている。太陽が隠れているので今が何時ぐらいなのかはわからないが、夜中ではなさそうだ。


 天井の中央から吊り下がった電灯が仄かに部屋を照らしているが、荒天のせいか、或いは光量が足りていないのか、部屋全体がなんだか薄暗く感じる。


 そして、自分はこの部屋にも壁にも天井にも、()()()()()()()()


「………………………??」


 ここは…どこだ?何故こんな部屋で寝泊まりをしていたんだ?コンクリート造りの建物ではないので、都会のど真ん中にある部屋ではないのかも?いや、この部屋のデザインだけで判断できることではない、か?


「あら…」


 右手から鳥の(さえず)るように軽やかな、それでいてどこか(つや)やかな声がして、そちらに顔を向ける。


「おはよう。随分とお寝坊さんね。そろそろお昼の時間よ?」


 薄手の白いワンピースを着た見知らぬ女性が、二人掛けのソファに一人で座って編み物をしていた。

 細い肩紐で服を支えており、生地が脇のあたりまでしかないので、露わになっている喉元や肩が眩しい。布が薄いのか、服の上からでも身体のシルエットがよく分かる。豊かで張りのある乳房が布を押し上げていて、くびれから腰にかけての曲線が(なま)めかしい。くるぶしの辺りまで丈があるのではっきりとはしないが、脚もスラリと長くしなやかなようだ。人の多いところを歩けば、まず間違いなく大きな注目を浴びるプロポーションだろう。編み物は形から見るに、マフラーのようだ。


 だが、それより目を惹かれるのはその小麦色の肌だ。自分が日に焼けたとしても、こんなに綺麗なチョコレートのような色合いにはならないと思える。シミも傷もない肌は、余程丁重に扱わなければと、見ている側が緊張してしまいそうな美しさだ。これだけで、先ほどまで残っていた眠気はどこかへ飛んで行ってしまった。


「まあ…昨日あれだけ頑張ったのだから、今日のところは目をつぶってあげましょう。…どこか痛むところはある?」


 親しげで、それでいてどこか労わるような声がして視線を顔に移すと、これまた目の覚めるような可憐さであった。長い睫毛(まつげ)と吊り気味の大きな目、緑色の瞳と視線が交わる。ツンと尖った鼻は筋がスッと通っていて、彫刻か何かと見紛う程だ。絹糸のような銀髪は耳に引っ掛けて、肩の辺りまで無造作に流している。その耳の先端は鼻よりもさらにツンと尖って上を向いていて、およそ日本人とは…というより、この世のものとは思えない。ファンタジー作品に出てくるエルフのイメージそのものといった風貌(ふうぼう)だ。


「…シオン?」


 浮世離れした容姿に息を吞み、エルフ(推定)の顔と身体を交互に眺めながらぼんやりとしていると、答えを促すように名前を呼ばれた。聞き慣れない声で呼ばれても耳には馴染まないが、何故だか妙に心地よい。


「あ、ああ…大丈夫、です。どこも、痛くは、ない。」

「そう、流石に頑丈ね。けど、流石に疲れたのでしょう。ちょっと前に一度起こそうとしたのだけれど、揺すっても叩いても、声を掛けても起きなくて」


 こんな女性が起こしに来たのならば、面食らって飛び起きそうなものだが、あいにく彼女が自分を起こしに来たという記憶はない。しかし、言われてみれば、二の腕や足腰に妙な気怠さがある。痛む程ではないが動かすのが億劫になるような、そんな重さを感じた。


 エルフ(推定)の女性は編み物を足元の籠にしまって立ち上がると、クスクス笑いながら話し続けた。


「それじゃあ、昼食にしましょうか。簡単に作ってしまうからその前に、寝坊助さんは顔を洗っていらっしゃいな」


 鈴を転がすような柔らかい声に促され、一も二もなく頷きベッドから降りる。

 立ち上がり際にちらりと目をやったが、ベッドにも見覚えはない。枕が二つに大きめの毛布が一枚。マットレスは随分と大きく、起き上がるときにはしっかりとした弾力があった。エルフ(推定)のものと思しき長い銀髪が2,3本、枕の上に並んでいる。

 …もしやとは思うが、自分はこの美人なエルフと同衾(どうきん)したのだろうか?このベッドは大の大人が優に数人は寝られそうな広さだ。シーツはしっとりと湿り気を帯びていた。寝汗だろうか?しかし、自分一人の体から出るにしては(いささ)か湿気が過剰だ。


「………………………。」


 自分がここにいる理由も、エルフ(推定)の美人との関係も、何一つ身に覚えがないのが不安で仕方がないが、彼女はそれに何の疑問も持っていないようだ。この緊張は悟られない方がよいかもしれないと思い、シオンは気持ち背筋を伸ばしながら部屋を後にした。


 --------------------------------


 部屋を出てすぐに、建物の構造を何一つ把握していないことに気づいたが、幸いにも廊下は一本道だった。部屋を出てすぐ左にまっすぐ歩くと十数歩で突き当りに着く。右手には扉があり、反対には陶器の洗面台と蛇口があった。丁寧なことに、壁には真新しいタオルが掛かっている。右手の部屋は風呂場だろうか?


 蛇口をひねって洗面台に水を溜め、水面に映る顔を覗き込むと、黒い髪とベージュの肌が目に入った。瞳は髪と同じ色で、目尻はやや垂れ気味だろうか。だが、特に目立つところのない、一般的な日本人の顔に見える。

 シオンは、水面に映るのが自分の顔で間違いないはずなのに、どこかうろ覚えというか、既視感とは逆の未視感を覚えていた。いや、顔だけではない。「シオン」という名にしてもそうだ。自分の名であると違和感なく受け入れているが、なぜか他人事のような感覚が拭えない。


 そもそも自分は、どういう経緯でひとつ屋根の下、美人のエルフと一夜を共にした(?)のだろうか。彼女の落ち着きようからして、ここは彼女の家であるか、または彼女がそれなりに長く過ごした場所であるのだろう。では、そこで寝ていた自分はなんなのか?


 シオンはバシャバシャと顔を洗いながら考える。起き抜けの自分は彼女の存在に面食らったが、彼女の方は自分の存在を当然のこととして受け止めていて、何なら親しげでさえあった。彼女が人一倍に親切で、殆ど初対面の自分にも気安く接してきた可能性もあるだろうが、シオンにはどうにも、彼女のそれは家族か恋人に対する距離感のように思えてならなかった。


 タオルで顔を拭きながら、シオンは落ち着きを取り戻そうとしてフゥと大きく息を吐いた。なんとも不可思議なことである。あのエルフにとって自分は、寝床を共にして(?)手ずから食事を振る舞うに値する存在であるが、シオンとしてはそのような扱いを受ける(いわ)れが思い当たらないのだ。何も昨晩の出来事に限った話ではない。シオンには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 何らかの事情で、親切にも一晩泊めてもらっただけであれば、ことは単純かもしれない。食後にでも、一宿一飯の恩を受けたことに感謝を述べつつ、自身の記憶喪失を明かす。そうすれば、昨晩の出来事と合わせて何かしらの説明を受けられる可能性はある。記憶喪失を悪い冗談だと受け取られる可能性もあるが、彼女は心根の優しい人のようだ。こちらが心から困惑していることを話せば、そう邪険にはされないと思う。シオンにしてみれば、先ほどの一瞬の会話があのエルフとの交流の全てだ。その一瞬の会話の中でさえ、彼女が向けてくるこちらへの労わりの感情が偽りとは思えなかった。親しみのある態度も相まって、不思議と彼女は自分の言うことを信用してくれるだろうと感じられた。


 問題となるならば、一晩どころではない長い期間、自分が彼女と共に過ごしていた場合だ。状況証拠から見れば、こちらの方が可能性が高いとシオンは睨んでいる。

 妙齢の男女がひとつ屋根の下、同じ寝床で夜を過ごした(?)のだ。仮に昨晩は何もなかったとしても、寝床を共にするだけの関係を彼女と築いていた、と見るのが自然である。


 自分が彼女の立場であればどうだろうか?

 数か月、下手をすれば数年を共に過ごした女性が、ある朝突然すべての記憶を失くしていたら?

 大変寂しい思いをするだろうな。何とか世話をしてあげたいと思うだろうな、とシオンは考えた。だが、もし彼女も同じ考えならば、記憶のない自分に対してあれこれと世話を焼く彼女に対して、申し訳なくて居心地がよくないだろうな、とも思った。


 それに、だ。どのような関係であれ、自分が相手に向けているのと同じだけの感情が相手から返ってこないと、人の心は傷ついてしまうのではないだろうか。あの短い会話から思うに、あのエルフはシオンに対して一晩の相手に向ける以上の感情を抱いている。だが、シオンには彼女の親愛の情に報いる自信もなければ、親切の代償に差し出すものにも心当たりがなかった。


「…だとしても、正直に話す以外にない、か」


 水面に映る自分を見ながら、誰にともなくつぶやく。

 そうだ。相手に対して申し訳がないとか、返せるものがないだとかは、あくまで自分の都合なのだ。記憶がないことを隠して誤魔化そうとするよりも、まずそのことを告げてから今後の行動を話し合うのが誠実というものだし、巡り巡って相手のためにもなるだろう。

 目が覚めてそばにいたのが筋骨隆々で強面の大男で、手に持っているのが編針ではなく刃物や鈍器であったなら、シオンはもう少し慎重に考えただろう。だが、相手が見目麗しい若い女性であったので、正直に話してもそう物騒な展開にはならないと高を括っていた。

 万に一つもないとは思うが、何も覚えていないと告げることで刃傷沙汰になったとして、相手が女性であれば取り押さえたり逃げたりすることは、それほど難しくないだろう…。


 --------------------------------


 部屋に戻ると、エルフの女性の姿がなかった。不思議に思って辺りを見回すと、右手の扉から物音がする。扉を開けるとそこは厨房で、彼女は質素な無地の赤いエプロンを着け、鼻歌交じりで鍋に向かっていた。


「~♪~♪」


 こちらに背を向けていて表情は伺えないが、ゆったりとしたリズムに合わせてユラユラと頭を振り、鍋の中身をかき回している。大層機嫌がよいのが伝わってきた。


 厨房の中央には木製のテーブルが置かれている。テーブルには一家族分の食事を配膳するのに十分な広さがあるが、椅子は向かい合わせで二脚しか用意されていない。

 シオンは一瞬迷ったが、向かって左側の椅子に腰掛けた。椅子を引くときに彼女は一瞬だけ振り返ってにこやかな顔をこちらに向けたが、特に何も言わずに鍋に向き直った。


 (しばら)くの間、鍋を煮込むコトコトという音と、窓に雨が当たるコツコツという音、そしてエルフの鼻歌がセッションしていた。シオンとしては、食後どのように話を切り出すかを考えるのに必死なので、エルフから声をかけられないのは有難かった。


 程なくして、二人分の昼食がテーブルに置かれた。白身魚とキノコ、麦、黒い木の実を動物の乳で煮込んだリゾットのようなもので、食欲をそそる匂いがする。


「…いただきます」


 両手を合わせてからスプーンを手に取り、一口目を頂く。

 見た目の印象よりも塩気があったが、とても美味しい!


「美味しい?」


 こちらの表情から察したのか、彼女が悪戯っぽく尋ねてきた。


「すごく美味しい!」


 答えを聞いたエルフがにっこりと笑うので、シオンはやや気恥ずかしくなり、慌ててリゾットを口に運んだ。反射的に答えてしまったが、偽らざる本音でもあった。


「よかった。メトリウオをこんな風に使うのは初めてだけど、気に入ってもらえて。シオンは、焼いた魚の方が好きでしょう?」


 メトリウオとは魚のことだろうか?言われてみれば、自分は焼き魚の方が好きな気がするが、どうにも自信がない。彼女はシオンが自分でもはっきりと自覚していない食の好みも把握しているのだろうか?疑問が湧いてきたが、余計なことを言って不信に思われるのは避けたいので、口いっぱいにリゾットを頬張ったのにかこつけ、シオンは黙って首を縦に振った。


「ふふ…」


 エルフが目を細める。彼女は自分の皿には手を付けず肘をつき、組み合わせた手の上に顎を乗せてシオンが咀嚼するのを眺めていた。一見育ちざかりの子供を見守る母親のような仕草だが、その視線に熱っぽいものが含まれていることにシオンは気付いた。自分と彼女は、一宿一飯などという刹那の関係ではないのだろうと、察するに余りある。


「えっと…た、食べないんですか?」


 あなたは、と呼びかけそうになるのをすんでのところで踏みとどまり、シオンが尋ねた。名前を言い淀むのは当然不自然だが、名前で呼び合う間柄では他人行儀な呼び方は心証を損ねると思ったからだ。記憶のことはこの後で明かすにしても、(いたずら)に彼女の不安を煽るのは忍びないという理由もあった。


「食べるわよ。けど、シオンが食べているのを見るのが楽しいんですもの」


 好意と上機嫌を隠そうともしない声色に、シオンは頬が紅潮するのと同時に大いに恐縮した。

 同じ部屋にいるだけで姿勢を正したくなるような美人に好意を向けられて悪い気はしないが、彼女にここまで言わせるような人徳が記憶を失う前の自分にあるとは、到底信じられなかったのだ。目を合わせるのも恐れ多く、シオンはまたリゾットを掻き込んだ。


「昨日あれだけ身体を動かしたのに、朝食も抜いてしまったから、お腹が空いたでしょう?おかわりもあるから、好きなだけ食べてちょうだいね」

「は…う、うん、ありが、とう。うん…」


 はい、ありがとうございます、と答えそうになって、畏まった言い方では不自然かもしれないと慌てて言い直し、歯切れの悪い話し方になってしまった。

 皿からエルフに視線を移すと、相変わらずにこやかにこちらを眺めている。特に不信がっているようには見えない。もしかしたら、記憶を失う前の自分もこんな話し方だったのかもしれない。


「外はこんな天気だし、シオンも疲れが残っているでしょうから、今日は家でゆっくりしましょうか?」


 穏やかな声に頷きながら、シオンは彼女の弛緩した雰囲気に安堵していた。

 なんとなく、この女性は何が起きてもうろたえたりしないだろうという安心感があった。人を見る目に自信があるわけではない(というか、目の前のエルフ以外に知っている人間などいない)が、彼女にはそう思わせるだけの落ち着きがある。

 自惚れかもしれないが、彼女の鷹揚な態度は今までに自分と過ごした中で培われたのかもしれない。そう思うとシオンは少し自信が出てきて、元気におかわりを頼むのであった。


 --------------------------------


 二人の皿が空になり(彼女は結局シオンが食べ終わるまで料理に手を付けなかった)、「後片付けは自分がする」というシオンの申し出をエルフがやんわりと断り、洗い物を済ませた彼女が食後のお茶を二人分用意したところで、意を決してシオンが口を開いた。


「話しておかなければならないことがあります」


 軽く湯気の立つカップを両手で包みながら、エルフの顔を見た。彼女は何も言わず、薄い微笑みを崩すこともなく、こちらを静かに見つめ返す。


「実は…その…」


 何を言うべきかは理解している。だが、どうにも口が重い。

 この数十分ではっきりと確信した。彼女が天性の男たらしでない限り、どうやら自分は彼女と(ねんご)ろな仲であるらしい。これまでの自分への態度は、赤の他人にしては親切が過ぎる。だが、今の自分には親切の礼に返せるものもなければ、そもそも親切にされる所以も記憶にない。


 このことを彼女に伝えるのは、厚遇を受けた身としては躊躇(ためら)われるものであった。いずれ露見するのであれば今すぐにでも告白するのが筋だとしても、なかなか踏ん切りがつくものではない。


「えっと……」


 シオンが言葉を探して口をパクパクさせている間も、彼女は穏やかな表情を崩さない。そのことが返ってシオンを焦らせ、言葉を余計に詰まらせるのだった。


「じ、実は…」

「あなたが自分の名前と顔以外に何も覚えていなくて、目を覚ましたらここがどこなのか、私が誰なのかもわからなくなっていた、ということを話したいの?」


 おもむろに彼女が発した言葉によって、シオンの心臓は不自然極まりない動きをした。人は心臓が裏返って血液が逆流すると死ぬというが、シオンには走馬灯を見る余裕もなかった。


 シオンはまず自分の耳がおかしくなったことを疑い、続いて彼女以外の何物かが勝手に自分の心を代弁した可能性を考えた。だが、部屋の中には自分と彼女以外に人の気配はなく、また彼女の口が言葉に合わせて動いていたので、それが目の前の彼女から発せられたものだと確信せざるを得なかった。


「えっ…あの…えっと…」

「そうなんでしょう?それとも、『話しておかなければならないこと』というのが、他にもあるの?」


 彼女は至って平静そのものだ。多少のことでは動じないだろうというのは事前の見立て通りであるが、記憶がない事実を気取られているとは露にも思わなかったシオンは、目に見えて酷く狼狽した。


「それはえっと、その、通り、なんですが、えーっと…」


 目を白黒させるシオンにクスクスと笑い、エルフは続ける。


「大丈夫よ、全てわかっているから。まずは落ち着いて、深呼吸をしましょう」


 彼女は両の手のひらでこちらの両手を包みながら、シオンをなだめた。ほっそりとした指は見た目以上に暖かく、シオンは別の理由で動悸が激しくなりそうだったが、言われるがままに息を吸って吐いてを繰り返すうちに、少しずつ落ち着くような気がした。


「安心なさって。あなたが記憶を失っても、私はあなたを家から追い出したり、逆に家を出て行ったりはしないわ」


 シオンとしては自分が一人になる心配をしていたわけではないのだが、落ち着き払って告げられることで安心するのも確かだった。


「だって…」


 先ほどひっくり返った心臓も、少しずつ元の動きに戻りつつある。今はむしろ、この女性に見つめられながら手を握られている状況の方が、心臓の負担になっているかもしれない。


「あなたが記憶を失うのは、今日が初めてじゃありませんもの」


 一度裏返った心臓はもう一度裏返ることで元の位置に戻るから、結果として自分は死なずに済んだのだろう。とっ散らかった思考の中で、シオンはそう結論づけた。

ふと思い立って書き始めた見切り発車的な作品です。全12話前後で完結予定。


エッチ目な表現を入れたいのでR-15にしていますが、直接的な描写はギリギリ避けた作品にしたいと考えています。

直接的な描写(ガチのスケベシーン)を使わない方がムラムラしませんか?僕はムラムラします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ