此処はどこ、私はあの子
2025年改稿
キィィィィィ――――――――――ンッ……。
金属が強かに打たれたような、高く澄んだ音が耳を貫いた。 鼓膜を突き抜け、脳みそを震わせるその刺激は、不思議と心地良かった。だんだんと去り行くその音に導かれ、私は意識が醒めゆくことを自覚する。
そして、ぱち、と。
まぶたを開けたのだ。
――が。
(なんだこの締めつけ!?)
まず襲ってきたのは、内臓がぐっと押し込められるような腹の苦しさだった。背中が勝手に反る。とてもではないが、身体をかがめていられない。視線まで引っ張られるように、上を向かされた。
服、か? いや、サラシにしては妙に骨っぽい硬さが点在している。ごつごつしていて、圧があちこちで違う。おいおい、これは……。
(こんな拷問具じみたものを身に着けた覚えは、さすがにないんだが!?)
腹を締め付けられると呼吸まで苦しくなるんだな、と痛感した。起きぬけにこれはつらい、とつい顔が歪む。幸いにも、いや、不幸かもしれないが、脚は床に触れていた。立っていたらいたで、ふらついてたかもしれないが、膝下が汗でべったり張りついている感触が気持ち悪い。
……だが、それ以上に、空気が……嫌だ。周囲の沈黙。冷たい視線。 首の裏に感じるちりちりとした不快感に、引っ張り出される記憶がある。
昔、授業時間の始業から終わりまで立たされて。担任の気の済むまで、見せしめに説教を食らったあの時間。 濡れ衣だと、担任以外は全員知っていた。それでも私に救いはなかった。それどころか、クラス全員の目が、絶えず私を監視していた。――あの空気にそっくりだ。まるで吊るし上げられているような、そんな空間に私は置かれているようだ。
あの時に似ている。この場の空気も、理由に心当たりがないことも。強いて違うところを挙げるならば、何ひとつ状況が分かっていない。
目の前には、こちらを見下ろすイケメン。
その背後には、守られるように佇む儚げな美女。
さらにその二人を囲むように、顔面偏差値の高い男性陣が数人並んでいる。
圧がすごい。なんだこの布陣。
しかも、全員の服装が異常にフォーマルだ。
女性は、ウェディングドレスではないが、お色直しでよく見るような絢爛なカラードレス。 男性陣もそれに合わせた、儀式用としか思えないセレモニースーツ。
ここ、絶対ラフな格好で来ていい場所じゃない。
というか、私がなんでここにいるのかも分からない。
……もしかして、私は、
とんでもなく格式高い式典にでも、闖入 してしまったのではないだろうか。