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引きこもりのチビ令嬢と呼ばれた私が、小さな幸せを掴むまで  作者: ぷよ猫


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【閑話】04 傲慢な姉ベティの劣等感と後悔

姉のベティ視点のお話です。

『ハリーを譲って、シャノン。わたくしたちは、愛し合っているの』


 妹のシャノンが昔から彼を慕っていることは知っていた。もうすぐ婚約するのだということも。それなのに、こんなにひどい要求を突きつけたのは、きっと虫の居所が悪かったからだ。

 三年ぶりに会った妹は、艶めいた大人の女性になっていた。以前と変わらぬ簡素なワンピース姿だというのに、全身から幸福のオーラを発していたのだ。 

 姑の奸計で離婚危機だったわたくしは、カチンとなった。この姉を差し置いて幸せになるなんて、と。醜い嫉妬心。とにかくムシャクシャして、自制が利かない。

 だから心にもないことを言ってしまった――。


 我ながら傲慢だという自覚はある。皆から「美しい」とチヤホヤされて育てば、当然のことだ。妹や弟のことは可愛いけれど、やっぱり自分が一番大切。傍若無人に振る舞うのは、相手が家族だからという甘えがあるのだと思う。

 

『そんなにチビだと、嫁のもらい手がないわよ』

『こんなとこにも手が届かないの?』

『もうちょっと、まともなドレスを着なさいよ。恥ずかしいじゃない』


 小柄な妹を揶揄うのはいつものこと。

 シャノンはわたくしに何を言われてもニコニコと笑っていた。


『ベティお姉様は、スタイルがよくていいわね。きっと玉の輿よ』

『う~ん、こうしてジャンプすれば手が届くわ』

『これから仕事だからドレスは必要ないの』


 いつだって、こんなふうに明るく言い返してきた。

 今回も「愛し合ってる? 冗談はやめてよ。ハリーは私と結婚するんだから、そんなはずないじゃない」と笑い飛ばされて終わるものだと思っていた。

 ところがシャノンときたら呆然としている。その意外な反応にちょっとだけスカッとしたのは事実だ。妹は悪くない。完全に八つ当たりだ。姑に対するイライラをぶつけてしまった。

 そのあとも部屋に駆け込んできた両親に、いかに自分がハリーの妻としてふさわしいのか力説したり……。

 離縁の理由にミスリルの利権が絡んでいると知ったお母様は早くも諦め顔になっていて、もしもの時はハリーの妻になれば、この先安泰だという打算がチラッと頭をかすめた。でも本気じゃない。わたくしは夫のアダムを愛しているもの。


『ひどいわ、シャノン。わたくしとハリーは愛し合っているのに引き裂くの?』


 噓泣きして被害者ぶってみせたけれど、どうせすぐバレる嘘だ。ハリーが否定するに決まっている。

 必死に隠していても彼がシャノンを好きなことは、あの瞳を見れば一目瞭然だ。クリントン家のあの兄弟は、恋心が顔に出るのでわかりやすい。

 ちょっとやりすぎたから、あとでお父様に叱られるだろうなとは覚悟していた。

 でもまさか肝心のハリーが王都へ行っていて、シャノンがわたくしの言い分をまるっと信じていたとは予想だにしていなかった。


 シャノンには、付与魔法師としての才がある。わたくしには、ないものだ。

 我が家が窮地に陥った時、王都で学生生活を送っていたわたくしには、まるで危機感がなかった。卒業まであと数か月。今更、退学を迫られるわけでもなく、倹約するように通達されただけだったからだ。誰かに侮られるような惨めな思いはしていない。

 ある日シャノンから下着(ドロワーズ)が送られてきた。温熱効果を付与した見本品だという。寒い日が続いたので着用してみると快適だったため、冷え性に悩むクラスメイトの令嬢に親切心で一枚プレゼントした。


「ベティ様の魔法は素晴らしいですわ!」


 お気に召したらしく、あれよあれよという間にヴェハイム帝国にまで販路が広がった。

 魔法を付与したのはシャノンだが、わたくしは彼女の誤解を解かなかった。自分から言い出したことではないし、一度広まった噂を訂正するのは面倒だったから。

 ちょうどこの頃、なかなか進まなかったアダムとの婚約が決まったこともあり、本当のことがバレて自身の評判を落とすのも嫌だった。

 あれがハーシェル家の商品であることには変わりないのだし、「学業との両立は大変ですのよ」と適当にあしらっておけばいい。

 わたくしは家族に対して、ファレル侯爵家の援助を受けられたのは自分のお陰だと、あたかもこの家の救世主のように振る舞っていた。


「さすがベティお姉様ね! 援助のお陰でタウンハウスを手放さずに済んだんですって」


 嫁入り前に家族水入らずで過ごそうと領地に戻れば、シャノンが抱きついてきた。

 既に彼女は付与魔法師として日銭を稼ぎ、王都の貴族学院ではなく地元の学校に通っていた。それが貴族令嬢にとって、どれほど致命的なことか。現にシャノンの評判は『領地に引きこもるチビ令嬢』と芳しくない。

 わたくしは、妹の飾り気のないワンピースと骨董品を売り払ったあとの殺風景な邸内を目の当たりにして、ようやく我が家の苦境を実感できたのだった。

 同時に、一歩間違えばアダムと婚約できなかったかもしれないと背筋が凍った。

 近年でこそ貴族の恋愛結婚が増えているが、基本は政略結婚だ。恋人同士とはいえ、没落しかけた伯爵家との縁談をアダムの父親であるファレル侯爵が許すはずはない。

 そこでやっと気づいた。なかなか進まなかった婚約が急に認められた理由……わたくしが助けたのではない、シャノンに救われたのだ。


「ベティお姉様、ご結婚おめでとうございます。これ、プレゼント」


 門出の日、差し出されたのは見覚えのある小ぶりのガーネットの指輪だった。わたくしのクローゼットに残っていたものの一つを売らずに取って置いてくれたらしい。正直、持っているのを忘れていたほど、あまり愛着のあるものではなかった。


「ありがとう」


「実はベティお姉様の指輪に結界魔法を付与しただけなの。ごめんね、新しいものを買えたらよかったんだけど余裕がなくて。ファレル侯爵領は遠いでしょう? せめて旅の安全を祈って、最強の魔法を付与したからね」


 こういう子なのだ。売れば気の利いた髪飾りの一つも買えただろうに、自分のことよりも相手のことを優先させてしまう。

 この時のわたくしは、結界魔法の付与がどれだけ大変なことなのかも、このためにシャノンが魔力切れを起こして倒れていたことすら知らなかった。だから、どうせ付与するならアダムにもらったダイヤモンドの指輪がよかったのにな、などと呑気に考えながらお礼を言っていたのだ。最低の姉だ。

 このシンプルなデザインの指輪を選んだのも、つけっぱなしでも邪魔にならないようにとの心遣いだったと、あとから身に染みて感じた。

 事実、姑に避妊薬を盛られたり、嫌がらせをされるようになってから外したことはない。これがゴテゴテしたエメラルドの首飾りだったり、大ぶりのダイヤモンドの指輪だったら、自分の身を守れなかっただろう。わたくしは火炎や雷の攻撃魔法は得意だが、防御系は使えない。

 感謝しなくてはならない。いえ、感謝している。けれど、妹よりも劣っているような敗北感に苛まれ、素直に言葉にできなかった。

 

 

「ベティ様、なんだか不味くないですか? ハリーさん、しばらく留守みたいですよ。早いとこ謝ったほうがいいですって」


 あのあとすぐに侍女のアビーに諫められたけれど、その気になれなかった。何せ、わたくしは今まで謝ったことなんてない。もしお父様に叱られたとしても、すぐわかる嘘に騙されるほうが悪いと反論するつもりだった。だって、あの二人は相思相愛でしょう? 愛を信じないなんて相手に失礼だ。


「大丈夫でしょ。お父様がハリーに直接確認するみたいだし」


「だといいんですけどねぇ」


 アビーが間延びした声で答えた。 

 シャノンとはギクシャクしているものの、忙しいのかあまり顔を合わせることはない。まあ、ハリーが戻ってくるまでの辛抱だ。そう高を括っていた。

 そんな生活を続けるうちにアビーが「旦那様がシャノンお嬢様の嫁入り支度をしているみたいですよ」と耳打ちしてきたので、とうとう二人の結婚が決まったのだと思った。ドレスや装飾品を買い揃えているらしい。コソコソしているのは、わたくしに水を差されたくないのだろう。


「もう邪魔なんかしませんよーだ」


 近々発表されるはずだから、心から祝福しよう。おめでとう、って声をかけよう。散々意地悪したけれど、これでも妹の幸せを願っているのだもの。

 

 わたくしがお父様に呼ばれたのは、シャノンが出立する前日の晩のことだった。

 

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