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エピローグ【これから...】

「店長。売変の追加分の書類、ここに置いておきますね」

「はいよー」


 本格的な夏の行楽シーズン到来を前に、店には本部から売変指示のFAXの嵐。

 店長デスク横に溜まっていく大量の書類が、書き入れ時直前を知らせる風物詩と化し ている。


「もー! なんであいつら毎回FAXで小刻みに送ってくるんスか! バカなんっスか!」

「しがない中間管理職でしかない俺に訊かないで」


 売り場にある売変商品を片っ端から抜いてきた有坂さんは、戻って来るなり口癖のように本部への不満を漏らす。

 それを俺と一ノ瀬さんは苦笑で迎える。

 その繰り返し。


「まぁ人手は足りてるからさ。早ければ今週いっぱいで終わるでしょ」

「確かに。クセ強で扱いに憎い連中がいなくなった代わりに、ウチには未来有望なたねちゃんが入りましたからね」

「未来有望だなんて。そんな」


 あだ名で呼ばれて照れる凛凪りんなさん。

 レジ前で接客をこなしながらラベラーで売変商品の値段を貼り変えている姿は、もはや新人とは呼べない風格を醸し出していた。


 凛凪さんが店に復帰したのは、ほんの一週間前。

 匿名の人物からのSNSでの嫌がらせが無くなり、同時に久世くぜたちのコンカフェが秋葉原から撤退したことを機にアルバイトを復活させた。


 その後、奴らがどうなったかまでは把握していない。


 唯一懸念していた霧津木むつぎも、あれ以降俺たちの前には現れずにいる。

 久世の変わり身の早さからすると、霧津木はもしかしたらもうこの世に存在しない......かもな。


 因果応報。


 奴が道具だと酷い扱いをしてきた錬成人間ホムンクルスたちと同様の末路を辿っていたとしたら、少しは舞菜美まなみさんたちの気が晴れるだろうと思いたい。


「短期から長期に変わってマジ助かるよ。これで私の仕事が少しは減ってくれる」

「お手柔らかに頼むよ。バイトリーダー」

「いえ。もっと皆さんの役に立ちたいので、ガンガンいこうぜ! でお願いします」

「お、わかってるッスねぇー」


 ムードメーカーの機嫌の取り方も完全に学習した凛凪さん。

 末恐ろしいというか何というか。


 久世たちの行方はわからないが、あの件から少し経った頃。店に俺宛に荷物が届いた。

 中身は凛凪さん......いや、『星崎栞ほしざきしおり』の身分証明書。

久世が店に訪れた時に『彼女に渡したい物がある』と言っていたのは、おそらくこれのこと。

 凛凪さんをおびき出すつもりで切ったカードは、結果的に俺たちとの縁を切るためのカードに使用された。

 こちらこそ、あんな連中との付き合いは今後一切無いことを願おう。


「有坂さん」

「ほぇ?」

「今まで散々合わせろって言ってた俺の彼女のことなんだけど......今年中には会わせてあげるよ」

「そうっスか......!? え.......どういう風の吹き回しっスか!?」

「吹き回しも何も。会いたいんじゃないの?」


 驚き困惑の表情で詰め寄られる。


「いや、そうですけど......何か彼女さんとありました? 誕生日きっかけで結婚が 決まったとか?」

「いろいろだよ。あと結婚は飛躍しすぎ」


 凛凪さんと自分の気持ちに正面から受け入れることを決めた俺が、どうしてもまず最初にやらなければいけないこと――それは『設定上の同棲の彼女』の処遇。


 いきなり職場の皆にカミングアウトするのもおかしいので、ここは間をとってその座に凛凪さんに入ってもらうことにした。


 ゴーストから実体へ。

 存在しない彼女から、存在する彼女へ――だ。 ここまでの行動に踏み切れたのは、この人が俺の愛する人ですと胸を張って宣言したい気持ちからに他ならない。

 凛凪さんにはこれからは日陰でなく、日向を堂々と歩いてほしい。


「有坂さんも彼女さんを見ればきっとビックリすると思いますよ?」

「なんで一ノっちゃんが知ってんの? ......そういやてんちょーのミサンガと今日の種ちゃんの髪留め......デザイン同じじゃね?」


 『しまった!』という表情で助けを求める一ノ瀬さんだが、時はもう遅い。

 ――コイツはこのあと仕事どころじゃなくなるぞ。


「え、え、え、え、え、えッ? もしかしててんちょーの彼女さんって......」

「ふふ......それは一体誰のことでしょうか?」


 二人の間を挙動不審な動きで行ったり来たりする有坂さんに、俺の彼女は、横髪をふわりと掻き分け、悪戯な表情かおでそれを楽しんでいた。



(了)

 最後まで読んでいただきありがとうございます!

 一言でも良いので何か感想をいただけると嬉しいですm(_ _)m

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