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第39話【決意】

 ある程度覚悟して臨んだものの、凛凪りんなさんの過去は俺の想像していた以上に暗く過酷なものだった。


 人の勝手で生み出され、自分たちの役に立たないと判断したら容赦なく捨てる......今すぐにでも凛凪さんを利用した連中をぶん殴ってやりたい気分だ。


「それから......凛凪さんはどうしたの?」

「はい。もちろん霧津木むつぎさんに舞菜美まなみさんのことを問いただしましたが、彼は何も教えてくれませんでした。でも周りの方たちからの話ではやはり――」

「.......」


 興奮剤の過剰摂取をしていたということは、行為の最中にオーバードーズを起こし、そのまま――そう判断するのが妥当か。


 いくら人間より病気にかかりにくい体質の錬成人間ホムンクルスでも、なってしまえば関係無い。

 錬成人間は不老不死の存在でも何でもない、俺たちと同様、限られた命の期間を生きている。

 黙っていると、凛凪さんは続きを語り始めた。


「舞菜美さんと唯一交流のあった私が邪魔だったのでしょう。霧津木さんは私を店の地下室に監禁し、記憶を消そうとしました」


 なんとなく、あのゲス野郎ならやりそうだ。

 凛凪さんを見る奴の目は、自分より格下の、物を見るようなさげすみの視線だった。

 今後を考えたら、躊躇ちゅうちょなく倫理に反する行為を平然とやってのけるのが容易に想像つく。


「72時間が経過した時。記憶が消えたと思って霧津木さんがやってきたところを......」

「隙を突いて逃げ出した、と」

「なので部屋に戻っている余裕もなく、着の身着のまま、無我夢中で逃げ続けました」


 いろいろなことが頭の中で繋がってきて、頷く。

「ですが、プラーナの補給が完全ではなかったためでしょうか。早い段階でまたプラーナ切れに陥ってしまい」

「辿りた着いた先がこの家の近所。あの電柱の下ってわけか」

和人かずとさんに拾っていただき助かりました。そして記憶があることを黙っていて申し訳ございません」

「そんな謝らないでよ。俺だってもしも自分が錬成人間で、72時間プラーナ切れを起こしても記憶が消えないって気付いたら絶対誰にも言いたくないし」


 口では都合良く錬成人間の人権の保障を謳っていても、常識を覆す発見の前にはそんなもの無いに等しい。

 また錬成人間の存在を快くないと思っている側からしても、凛凪さんのような事例は危険。 最悪、命さえ狙われかねない。

 今後この話は外はもちろん、家でもあまり話さない方が良さそうだ。


「ありがとうございます」

「......何、してるの?」


 力無く優しく微笑んだ凛凪さんはゆっくり立ち上がると、クローゼットを開いて自分のリュックを取り出し、着替え等を詰め込みはじめた。


「私の居場所があの人たちに発覚されてしまった以上、もうここにはいられません」

「いや、ちょっと待ってよ。落ち着いて」

「ですが今回の件は千里ちさとさんの時とは話が違います。このままでは和人さんや周りの方々にもさらにご迷惑をかけてしまいます」


 あの感じでは確実に、下手をするともっと直接的かつ強引に、凛凪さんを奪い返そうとしてくるだろう。例え第三者を巻き込もうとも。


「和人さんもわかっていただけたと思いますが、相手は自分たちの利益のためなら手段を選ばない......あんな人たちのために、私の大好きな人たちが傷ついてほしくないので す......ですから――」

「凛凪さん」

「はひッ!」


 自分のことよりも相手のことをまず心配する彼女が愛おしく、後ろから肩に手を乗せ、こちらへと向かせる。


 「俺言ったよね? 凛凪さんを絶対家から追い出すようなマネはしないって」

「これは私の意思です。和人さんは何も悪くありません」

「また屁理屈を言う。そういうところ、可愛くないよ?」

「今は冗談を言っている場合では――んッ!?」


ちょっと落ち着いてもらいたくて、思わず凛凪さんの唇に人差し指を立て蓋をしてしまった。


「......目の前で家族が困っていたら全力で力になって助ける......それじゃダメ?」

「家族......」

「違う?」

「......いえ、そんなことは」


 俺の生活の中にすっかり入り込んだ、俺の大切な存在。

 他に形容できる言葉が無くもないが、今はこれが一番しっくり来る。


「はい......私は和人さんのお手伝いさんでその......家族です」

「うん。よく言えました」

「子供扱いしないでください。私だって立派な大人です」

「でも中身はまだ生まれて二歳の子供でしょ?」

「うぅ......今日の和人さん、優しいのか意地悪なのか、なんだかモヤモヤして嫌いです」


 いつもの見た目相応の大人っぽい雰囲気から、いまみたいに拗ねた子供みたいに頬を膨らませてむくれたり。

 凛凪さんといると、本当に毎日が飽きない。

 だが、今回のようなヘビーな案件はさっさと肩を突けるに限る。


「ここは大人に任せておきなさい。大丈夫。一応手は打っておいたから」

「え、もうですか?」


 凛凪さんが驚くのも無理はない。

 手というか予防策というか――咄嗟に思いついた判断だったが、何もないよりかは確実に効果は発揮できる。

 あとは相手の出方次第――だな。


「......無茶なことでは、ありませんよね?」

「俺がそういうことする奴に見える?」

「見えます」

「はっきり言うね」

「先程のお返しです」


 おかしいな。凛凪さんが来てから無茶らしい無茶なんてしたことあったか?

 記憶を辿る俺の手を、凛凪さんが両手で優しく包み込んで、呟いた。


「......約束してください。絶対に危険なことはしないと」

「こっちこそ。また千里の時みたいに黙っていなくなるのは勘弁してね」

「いなくなったりはしませんよ。だって私は、和人さんの『家族』ですから」


 少し前の俺にとっては、安易に触れてほしくない、棘を含んでいた禁句。

 でも今は、聴く度に胸の奥が幸せで熱くなる、魔法の言葉。

 幸せを運んでくれたお姫様を、どうにか早く完全に悪い夢から解放させてあげたい――彼女の微笑みと温もりが、その気持ちを強く後押しさせた。

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