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腐食の箱庭

私は(さかき)()()。百合丘学園の高校二年生。

春、クラス替えをしたときに、私には気になる女の子ができた。

メンヘラちゃん

クラスではそう呼ばれている。

腕にはいつも包帯がまかれている。クラスメイトの間では、その下にはおびただしいまでのリストカットの跡があると言われている。

クラスに入った時もそう。授業中、何もないはずなのに、ノートを見ながら彼女は泣いていた。そして、爪で体を搔きむしっていた。

ある時、顔にあざを作って登校してくる彼女を見た。誰もそのことには触れなかった。打撲の跡。その日、彼女はシャープペンシルで血が出るまで、指をさしていた。


彼女の心の支えになりたいな。放っておけないもん。そしてそんな彼女と仲良くしたいと、私はそう思った。

ある日の休み時間、私は(とも)ちゃんに話しかける。彼女は中学の時にできた友達だ。


「ねえ、知ちゃん。メンヘラちゃんって友達いるのかな?」

「ん-、いないんじゃない。ってか、どうしてそれを?」

「私、メンヘラちゃんと友達になりたいなって…そう思ってるんだけど」

「うえ、マジ? あんた、また。いい加減、やめときなよ」

「ううん、気になるんだもん。絶対彼女と仲良くなってみせるって」

「はあ。まあ、面白いからいいけど」

「じゃあ行ってくる」

「行ってらー」


真愛を見送った後、私は少し思い出した。真愛の起こした悪夢のような出来事の数々。

まあ、いっか。

まさかまた、あんなことにはならないよね。

なったら…………。その時はその時で考えよう。

今はあのメンヘラちゃんに友達ができるってことを生暖かい目で見つめますか。



※腐食の始まり


真愛「ねえ、こんにちは。百合ちゃん」

私は百合ちゃんに話しかける。

メンヘラちゃん。

顔にはうっすらと痣の跡がある。うん…大丈夫かな。

百合「なんだい、あんたは私を笑いに来たのか?」

冷たい声、拒絶観。

真愛「うんん、違うよ、百合ちゃん。私はね、百合ちゃんと友達になりたいって」

百合「結構だ、……憐れんでんのかあんたは。金持ちそうな身なりして、幸せですってか。消えろ」

真愛「そんなこと思ってないもん。私は百合ちゃんと……」

百合「消えろっつってんだろ!!」

私は頬に痛みを感じた。音が鳴る。

私、叩かれたんだ……。

ちょっとだけ痛いなあ。

クラスメイトが叫ぶ。

ク「ちょっと! 仲よくしようってした子を殴るの、あんた!」

ク「さいってー」

百合「ほらみろ、あんた好みの応援だ。よかったな、私を悪者にして出しにしたんだろ」

真愛「そんなこと……」

百合「いいから、消えろ、消えろ、消えろってんだよ!!」

拒絶。断絶。

でも…私は彼女と仲良くしたい。だって世界はこんなにも幸せなんだもん。

真愛「百合ちゃん…絶対に幸せにするね」

私は百合ちゃんにつぶやいた。

私は百合ちゃんの手をつかんでキスをする。

百合「なにするんだよ、気持ち悪い!!」

真愛「私、あきらめないから……百合ちゃん、絶対に友達になろうね」

百合「誰が、なるか、誰が!!」



知「ふーん、モノローグはそんな感じなんだ」

あたしは周りを見つめてみる。

ぽかんとしているクラスメイト。だって、そうじゃない。

いきなりキスすんだもん。

でも……二人…どうなるかな。

あたしはこれを眺めている二人を見る。

鷹野宮柊…広域暴力団の会長の娘。

天利率…クラスのリーダー役として知られるお金持ちのお嬢様。

かき回したいな~色々、真愛のつくる劇場はとってもロマンチックで、そして

誰よりも何よりも地獄なんだ。所詮あたしなんか……。

真愛、……あんたを殺して、あたしも死にたい。わかるかな、真愛。

劇場でヒロインは死ぬのが名作。なら真愛、ヒロインとしてあたしのために最後は死んで。

真愛……。


※戯曲の登場人

知「…で、結局ふられたんだ、真愛」

真愛「ちがうよ、ちょっと彼女はシャイなんだ…内気さんなんだよ」

知「ストーカーは皆そういうんだよ」

真愛「ひどい」


知ちゃんはいつもそう。さっぱりしてクールさんなんだ。

知「で、唇から血が少し出てるよ、真愛。いいの」

真愛「気にしないよ。仲良くなるためにはたまにはそういうこともあるんだよ」

知「うんうん、経験者は語るってね、あんた、なんの経験してんの」

真愛「色々だよ、色々…ね」


……色々ね。そう、本当に色々、私はその色々の生き残りといってもいい。

真愛に愛されればどうなるか…


知「で、今回のターゲットのメンヘラちゃん」

真愛「百合ちゃん」

知「どうやって落とすの」

真愛「誠意だよ、誠意」

知「本当にあんたってのは……。じゃああたしは適当にしますか」

真愛「するって何を?」

知「いろいろだよ」

真愛「邪魔する気?」

知「アシストする気」

真愛「そう……」

真愛は頭にはてなを浮かべてジト目であたしを見てくる。

知「ほんとだよ。真愛、あたしがいつだって約束を守るっての覚えておいてよ!」

真愛「鶏が三回鳴いたとしても?」

知「なんのはなし?」

真愛「なんでもないよ。宗教の授業だ…聖書の準備しないと」


真愛はロッカーに向かっていく。

じゃあ、あたしはあたしで動きますか。


※ナイトの陰謀


宗教の授業なんて…何を勉強するのかしら?

私は理解できないけど。

…でも、もっと理解できないことがったわ。

榊さん。

いきなりメンヘラさんにアプローチをするなんて、何を考えているのかしら?

劣悪な家庭環境で育った彼女…野獣のような攻撃性、

キリストがいるとしたら彼女かしら。


~天利率の独白~


教師の言葉

「キリストは食事をしたいと思われた。しかし、イチジクの木には実がなっておらず、そこでキリストはイチジクを呪い、実が実らないように呪われた。イチジクは枯れた」


「いいですか、イチジクが呪われたのは、それは神の言葉を聞いても実りをもたらさないからです。神の言葉を聞いても心で受け止めることができない、そして、なんの実りももたらさない者は神の国に入れない、死ぬということなのです」



だったら神なんて必要ない。私がいればそれでいい


~鷹野宮柊の独白~


聖書の言葉

預言者エリシャは、バアルを信じる預言者と名乗る者たちを皆殺しにした。



そうでなくっちゃ


~知の独白(授業を聞いていない)~


教師の言葉

「敵を愛しなさい。剣と剣がぶつかりあってもそこには恨みしかありません。大切なのは敵をも愛する心なのです」


真愛は静かに聖書を読んでいる。

聖書の中では死の天使がラッパを鳴らしていた。


宗教の授業が終わった後、あたしはさっそくクラスメイトに話しかける。

知「あのさ、今日の事件、覚えてる?」

ク「真愛さんの件ですわね」

ク「覚えていますわ…まさか殴るなんて」

ク「それにキスなさるなんて……」

知「だよね~。それと、ぶっちゃけメンヘラちゃんってどうなの? みんなはどう思ってる?」

ク「ちょっと行き過ぎですわ。いるとクラスが陰気になるんですの」

ク「攻撃的ですわ」

知「ほんとはわかってるんじゃない。あいつがいるとクラスの空気が悪くなるって」

ク「そんなことは!」

ク「ですわね……」

鈴「ほんと……そうですわ。嫌になっちゃうんですの、妙な痣つくって…それに陰気な空気。この私立の中に入ってきた異物。皆さんもそう思わないかしら?」

ク「……そうですわね」

ク「ほんとに…」

知「それに、思わない。クラスメイトの真愛が彼女にたぶらかされてんだよ、なんとかしないといけないんじゃないかな~」

鈴「何で彼女はそんなことするんですの?」

知「あいつは資本家だから、弱い人間は助けないといけないっていう親の意向だよ」

鈴「そうですの…」

知「で、その弱みに付け込んでるのが、彼女ってわけ…わかるかしら?」

鈴「……それは、いけませんわね」

あたしは鈴が乗ったことで、唇がひくひく浮かぶのがわかった。

あたしはそうナイトなんだ。ナイアルラトホテップが化けたナイトだけど。

知「じゃあ、わかってるよね」

鈴「ええ、わかりましたわ」

あたしは笑った。

真愛…あたしはペテロじゃなくてユダだよ。

でも、今は忠実にあんたのこと愛しているから。


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