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超視力!

超視力___270度の男

作者: 栗色マロン

朝8時の上り列車ホームは、いつもながらに人で溢れかえっていた。


私は6号車まん中の扉の列に並んだが、すでに前方には人垣ができており、おそらく今日も座れることはないだろう。そうしている間にも、人は増えていく。


「課長すいません、電車が遅延しちゃって。朝礼ちょっと遅れます。」

列の先頭にならんだ若い男が、申し訳なさそうに電話で謝っている。


「三角関数ってまじムズイんだけど!この問題全然わかんなくねえ?」

すぐ後ろにいる二人連れの女子高生は、対照的にえらくテンションが高い。


「上りホームに電車が参ります。危ないですから、黄色い線まで下がってお待ちください。」

人々は一斉に、電車が入って来る方向に視線を向ける。


その時、私は見た。

一人の男が、背負ったリュックから長寸の刃物を取り出すのを。


その男はどの列にも並んでおらず、ただ一人後方の壁にぴたりと背を付けている。

人々は皆、電車の方に顔を向けているため、誰一人として男に気づくものはない。


男は刃物を手にしたまま、ゆっくりと人々の列に近付いてくる。

薄気味の悪い笑みを浮かべながら、一歩また一歩と。


そして歩みを止め、列の一番後ろにいたスーツ姿の若い女性に狙いを定めて向き直ると、手にした長寸の刃物を高く振り上げ、、、、


―――


私はホームに入って来る電車を正面に捉えつつ、手に持っていたビジネスバックを男の顔に向かって投げ放つ。


バックは見事、男の顔面に命中。

男は顔をのけ反らせて倒れるとともに、長寸の刃物は音を立てて男の手から転げ落ちる。

「カランカラン」


「何の音?」「あれ日本刀じゃない?!」「やべー通り魔か?!」

降車した人々で更に溢れかえったホームは、一時騒然となる。

そんな光景を横目に、私はゆっくりとビジネスバックを拾い上げ、静かに電車へと乗り込む。


先程まで後ろにいた女子高生達が、私を横目でチラ見しながらヒソヒソ話しをする。

「あの人だよね、犯人にカバンぶつけたの。」

「でもおかしくねえ?電車が入って来るまで、ずっと前見てたよねえ。」


電車の扉が閉まり、そしてゆっくりと動き出す。

ホームに残った女子高生達は、まだ私を見ている。


―――


私はいたって普通のサラリーマンである。

皆と違いがあるとしたら、有効水平視界が角度270°であることくらいだろうか。


一般人の視野角は180°前後と言われている。

私のそれは角度270°。ほぼ真後ろまでを、正確に視ることができることくらいだろうか。


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