高台の木の下で待っててくんね?
メアリは学園の花壇の土をいじりながらため息をついた。
ルカ・ハニエル、家同士の政略結婚相手は今まで全く接点はなかった。
最近になって急に冷たい視線を送ってくるし、暴言をはくし、つらい。
かといって他の人には笑顔で優しく、私の友人と仲良く話していることもあれば、侯爵家の美人で有名な令嬢と仲睦まじくしていることもある。
もしかして今はやりの婚約破棄というものに近づいているのではないだろうか。
そのうち真実の愛に目覚めたとか言われて一方的に悪者にされる可能性すらある。
夕日によって花壇にはメアリの長い影が落ちている。その影に新たなる影が近づいた。
「なあ、メアリ」
振り返らずとも声でわかる。
幼馴染のレオだ。
レオは運動部だからまだ部活は終わらないだろう。
水飲み場が近くにあるから休憩がてら様子を見に来たのだとわかる。
「部活終わったら高台の木の下で待っててくんね?」
メアリが振り返ると逆光でレオの表情はよく見えなかった。
そんじゃあと用件だけ言ってレオは走り去っていく。
汗で張り付いた運動着が夕日に照らされてオレンジ色に染まっていた。
メアリが時計を見るともうあと五分ほどで部活の時間が終わるところだ。後片づけにとりかかる。