ねえ、ジョー。今日のメアリの報告は?
王立学園の第三食堂は、広々としたスペースにゆとりのある座席配置となっており、クラシックなピアノの旋律が流れていていかにも優雅な空間を演出している。
そんな一角、女生徒達が黄色い声をあげて遠巻きに見守るのはこの学院で王子と囁かれるほどの容姿を持った男子生徒とその友人である。
金髪、碧目でふわふわとした天然パーマの髪がまるで天使のようですらある。
女子生徒は彼が、その隣に座る茶髪、黒目の爽やかな顔立ちの友人の耳元に顔を寄せ何事かを囁いているのを見ては遠巻きに囁きあい、あるいは卒倒して、人の波がさざめいていた。
「ねえ、ジョー。今日のメアリの報告は?」
天使のような微笑みで、砂糖菓子を詰め込んだような愛らしい相貌とは裏腹に、他人が盗み聞ぎできないほどの低いーー話しかけられているジョー・マーカスでさえ聞き取りにくいほどの―ーわずかな声音でひっそりとルカ・ハニエルは隣の幼馴染の友人に尋ねる。
その仕草は愛らしく小首を傾けている角度も、弧を描く口元も、垂れ下がった眦でさえ一瞬の隙もなく邪気のなさを演出していた。
まさか彼が友人に一人の女子生徒、メアリ・ジェーンを見張らせているとはこの開放的な食堂の中でさえ誰一人として気取らせることはないだろう。
なにせ彼は用意周到であり、些末な事柄でさえ念入りに準備を欠かさないのだ。
現に彼らの選んだ席は配膳の列から遠く離れており、食堂の出入り口からも遠く、食堂の角、壁一面のガラスに囲まれたちょっとした東屋のようなスペースである。遠巻きに眺めるにはいいが、近づきがたい。
話しかけられているジョーのほうは笑顔が引きつっているものの、彼も彼でルカとの付き合いは長く気心は知れているし彼の仄暗い本性も知っているのだ。
「ええ、彼女の友人の一人に聞き込みをしたところ、彼女の好みは、レオ・ギルベルトのようなツンデレと称される性格らしいですね」
「ふうん、レオ・ギルベルト、ね……」
レオ・ギルベルトはメアリ・ジェーンの幼馴染だ。何かとメアリに突っかかっている様子は以前から何度も目にしている。まさかあれがメアリの好みだったとは。ルカはその端正な顔を口元だけわずかに歪ませて考えを巡らせた。
「じゃあ、参考にさせてもらおうかな」
ルカ・ハニエルはツンデレに擬態することに決めたのだった。




