1.高校生
1.高校生
「昨日起きた帝国主義と自由主義の戦闘により、2人が行方不明、10名の死傷者が確認されました。自由主義関係者によりますと、戦闘を起こしたのは帝国主義の鮫島九中尉であり、自由主義は防衛に徹していたとのことです。戦闘が発生した場所は自由主義の管轄下であり、帝国主義が諜報活動を行っていた疑いがあります。…」
テレビから流れる、血生臭いニュース。
そのテレビの電源ボタンを押した本人は、画面は見ていたものの、内容はほぼ聞いていなかった。
「いただきます」
真白樹。
鷹庭市立鷹庭高等学校に通う、高校一年生。男性。
両親は中学一年生の頃に事故で他界し、それ以降は叔父の支援を受けて生活している。一人暮らし。
叔父はいわゆる「土地転がし」であり、金銭的な面では何も困ったことはない。
なんなら過剰に支援を受けているため、持て余しているが、
叔父だっていつ愛想を尽かすかわからない――という考えから、無駄遣いすることは無かった。
同年代の人間と比べて幾ばくか慎重な思考回路を持つ高校生。
だが、慎重であることと、学生として真面目であるということは同義では無い。
彼は暴力が好きだった。
好きというのは語弊があるかもしれないが、
道で人とぶつかり、因縁をつけられそうになったら先手を打つ。
誰かが軟派に絡まれているように見えたら実力行使で助ける。
誰かと誰かが口喧嘩してたら力づくで止める。殴り合いの喧嘩でも然り。
つまるところ、暴力沙汰になりそうな事態に好んで向かう傾向がある。
両親がいなくなってグレたということではなく、
両親がいたころからずっとそうだったのだ。
両親が暴力を好んでいたわけでもない。
ただ、"彼"が好きなのだ。そういった事が。
勿論、通りすがりの人を急に殴るなんてことはなく、
いざこざに発展しそうな、している場所に顔を突っ込み暴れることが好きなのだ。
だが、彼は高校生になってから大人しくなった。
というのも、彼の住む地域で流れた噂が原因で、彼が暴れられなくなったからである。
『平和に過ごさないと、鬼が来る』
地域を牛耳る極道が当時中学2年生だった真白樹とその親友に組ごと壊滅させられた頃に流れ始めた噂。
噂の鬼が自分であることをつゆ知らず、いつもの朝を微睡の中過ごしていた樹は、少し憂鬱だった。
――暇だ。
よく家まで押しかけて喧嘩を売りに来た不良達が家に来ることはなくなり、
たまに道で会ったかと思えば「すいませんでした」と体を二つに折って謝罪し、全速力で逃げる。
壊滅させた極道の生き残りも一人残らず刑務所か病院送りになったせいで
樹と張り合える――樹が暴力を振るえる相手がいなくなってしまったのだ。
「ん、ごちそうさまでした」
テレビ画面に映る時刻を確認した樹は、将来役に立つかどうか全く解らない本がぎっしり入った手提げ鞄を持ち、家を出た。
高校生になってから半年。
"趣味"が出来なくなった学生は、青春を持て余していた。