『しんし』
「それでは、『おぱんつ会議』は女性の下着、所謂『おぱんつ』に関する会議という事で宜しいでしょうか?」
「「異議なし」」
「異議……ないです」
一つ目の議題が満場一致により可決された。
議長のとしての役割を無事にこなせているようで、ホッと一息。
しかし、まだまだ会議は始まったばかりだ。
「『しんし』さん、続きをお願いしても宜しいでしょうか?」
俺が促すと、『しんし』は「はい」と返事をして次の議題に移っていく。
「さて、『おぱんつ』が何かを定義できたところで、次はもっと掘り下げてみましょうか。そこでまず、私が皆さんに問いたいのは『おぱんつ』とは一体なんなのかというものです」
……うん?どういう事だ?さっきの話と何が違うんだ?
『しんし』の言葉に首を捻る。
疑問に思ったのは他も同じらしく、『ちゅうに』が手を挙げた。
「あの、さっき『おぱんつ』は女性の下着を意味する『おぱんつ』だって、みんなで決を取りましたが……」
「いえ、そういった表面上のものではなく、もっと本質的で根源的な……そう、あなたにとっての『おぱんつ』とは一体何なのか。私はそれが聞きたいのです」
『しんし』の発言に皆が一斉に考え込んだ。
『おぱんつ』とはなんなのか……か。
考えた事もなかったな。
いざそう問われてみると意外と浮かんでくる言葉は少なく、いかに自身が『おぱんつ』に無頓着であるかを突き付けられたかのようだ。
成程、深い。
「……えっと『みやけ』さん、あなたはどうですか?」
皆が黙ってしまったので、会議を進めるべく、俺は唯一の女性に水を向けた。
「私、ですか?」
「ええ、女性の『おぱんつ』なのですから、この中ではあなたが一番思い入れがあるのではないでしょうか?」
「……まあ、いいですけど」
そう言って、『みやけ』は少し嫌そうな顔をしながら話し始める。
「でも、いくら女性だからって自分の下着について語る事なんてありませんからね?強いて言えば、可愛いのを履きたいといったぐらいで、実際は好きなメーカーで選んだり、あとは上が気に入ったから一緒に下も買うというのが殆どです」
「ふむ、成程。『みやけ』さんにとっての『おぱんつ』とは、視覚的情報、つまり見た目を重要視したファッションだという事ですね」
『しんし』が真剣な目を向ける。
「そう言われれば、確かにそうかもしれませんが……」
「例えばですが、一般的に女性は意中の男性に見られる事も想定して『おぱんつ』を選んだりするとも言われますが、その辺りはどうでしょうか?」
「そうじゃないとは言いません……が、その、全部が全部そうだというわけでもないです……」
……なんか、だんだんとセクハラをしている気分になってきた。
しかし、嫌々ながら恥ずかしそうに話す『みやけ』が可愛いので、俺は『しんし』の発言を止められず、成り行きを見守る事しか出来ない。
……ん?
良く見たら『ちゅうに』も興味深々で『みやけ』の様子を窺っているじゃないか。
成程、あいつは同士だったか。
「では、今はどうですか?あなたのその可愛らしいパジャマの下には、そういった『おぱんつ』が存在するのですか?」
「…………はっ?」
突然の発言に一瞬思考が止まる。
あまりにも自然に言うので聞き逃しそうになったが、『しんし』は今とんでもない事を言わなかっただろうか?
「あなたは今、どんな『おぱんつ』を履いているのかと聞いているんです」
だが、俺達の動揺を置き去りに、『しんし』は再びそれを口にした。
その口調や表情は険しく、彼の発言が真剣そのものだという事が窺える。
「ちょ、ちょ、ちょっと何を言い出すんですか!!」
「これはとても重要な事なんです。答えて下さい、あなたの『おぱんつ』が何なのかを!」
「な、なんですか一体!もう、誰かこの人を止めて下さい!!」
狼狽える『みやけ』。
しかし、それでもなお『しんし』は止まらず、身を乗り出して『みやけ』に問い正したのだった。
「今!どんな『おぱんつ』を!!履いているんですか!!!?」
「…………」
熱く言い放つ『しんし』の姿に、俺は一つの確信を得た。
たぶん、他の二人も同じ結論に達していると思われる。
こいつ、ただの変態だ…………と。