おぱんつとは
このシーンが書きたかった。
ついカッとなってやった。
でも、後悔はしていない。
「『おおさか』さんが苦しみ出したのは、おぱんつ会議の不参加を表明した直後でした。つまりこのままこうしていたら、俺達も同じようになってしまう可能性があります」
ホワイトボードに書かれていた『おぱんつ会議を始めて下さい』という指示。
それを拒否したがために『おおさか』は死というペナルティーを課せられてしまったのだろう。
『おおさか』の無惨な最期が、皮肉にもこれがデスゲームだと証明してしまったのである。
「だから皆さん、おぱんつ会議を始めましょう」
俺は未だ呆然としている三人に届くように、もう一度強く告げた。
それに対し、三人は戸惑いながらも頷く。
こうして、俺達は訳も分からないまま『おぱんつ会議』という、ふざけた催しを始める事になったのだった。
何もない会議室には俺達の呼吸以外に存在する音はなく、先程から騒がしいぐらいに耳鳴りが脳を揺さぶってくる。
「それではまず『おぱんつ会議』の目的について話しましょうか」
俺は腕の震えが悟られないように、ぎゅっと手を握り込んだ。
「おぱんつ会議の目的……ですか?」
「ええ、『おぱんつ会議』だけではこの会議がどんな内容なのかが非常に曖昧ですので、まずは『おぱんつ会議とは何をする会議なのか』という部分をはっきりさせませんか?」
「成程、つまり『おぱんつ会議』の『おぱんつ』の部分について白黒はっきり付けようという訳ですね?」
俺の提案に『しんし』が真剣な表情を覗かせる。
「はい。俺はまずこの『おぱんつ会議』という文字を見て、『なんだこのふざけた文言は』と思いました。『おおさか』さんの言葉じゃないですけど、『おぱんつ大好きー!』とか言い合う会議を想像したんです。ですが、ここに至ってそんな馬鹿な話はないと思うので、皆さんの意見を聞かせて下さい」
「ふむ、ではまず基本的な部分から共通認識を得ていきましょうか。常識的だと思っている内容でも、人によっては案外捉え方に差があったりしますし、ブレーンストーミングにもなりますから、他愛もない内容でもどんどん意見を出しましょう」
こういった事に慣れているのか、『しんし』はワイシャツの袖をまくって身を乗り出し、積極的にリードを申し出る。
「まず私が思うには、この『おぱんつ』というのは女性の下着を指していると考えているのですが、ここまではいいですか?」
「えっ、そうなんですか?」
すると、早速異なる意見が飛び出した。
確かに『ぱんつ』と言っても女性の『ぱんつ』とは限らないだろう。
てっきり俺も女性の『ぱんつ』の事だとばかり思っていたので、違う意見は新鮮である。
成程、これが常識の違いというヤツか。
「『みやけ』さん、男性用の『ぱんつ』はブリーフやボクサー、トランクスといったくらいでその種類は決して多くはありません。反面、女性の『ぱんつ』はその形状から材質デザインに至るまで多種多様な物が存在しています。フリルやレースをあしらった非常に可愛らしいものが多く、一流のデザイナーによって形作られたそれは、ある種の美術品といっても過言ではなく……」
段々と語る口調に熱が入る『しんし』。
それにやや引きつつも、『みやけ』は容赦なくその言葉を遮った。
「――あっ、いえそういう事ではなく『ぱんつ』と言ったら、所謂ズボンもそうなんじゃないかと思いまして」
「…………」
男性陣が一斉に顔を背ける。
全員が女性の『ぱんつ』の事だとばかり思っていたのだろう。
恥ずかしさで顔が熱い。
そしてそこへ更なる追撃が迫る。
「ほら、パンツスタイルとか、パンツスーツとかって言うじゃないですか。だから、何も下着の事とは限らないのでは?」
……やめろ『みやけ』、それ以上俺達の羞恥心を煽るんじゃない。
仕方が無いんだ、男にとって『おぱんつ』とは女性の下着以外の何物でもないんだ。
「で、でもそれだと『パンツ』とカタカナで表記されるんじゃないですか?ひらがなで『ぱんつ』だと、とてもズボンを意味するようには思えませんよ」
と、そこで『ちゅうに』からの反論が飛び出した。
「そ、そうだ。それに『パンツスタイル』や『パンツスーツ』も、ひらがなにして『ぱんつスタイル』や『ぱんつスーツ』と表記したら、一気に変態チックになってしまうじゃないか!」
俺も羞恥心を誤魔化すように、必死になって『ちゅうに』を援護する。
「ふむ、もし仮に『ぱんつ』がズボンの事だとしたら、『おぱんつ』の『お』について説明が付かないな。まさか、『おズボン』と同じようなニュアンスで『おパンツスタイル』や『おパンツスーツ』とは言わないだろうし。……ふむ、やはり『おぱんつ』とは女性の『ぱんつ』の事で間違い無さそうですが、どうでしょう『みやけ』さん?」
そして『しんし』がそう締めくくった。
「…………じゃあ、それで良いです」
結果、『みやけ』からの視線が冷たくなったのだった。