会議は踊る、されど進まず
チャイムの余韻が長く尾を引き、やがて空気に溶けるように消えていった。
「おぱんつ会議を……始めて下さい……」
俺は言葉の意味を噛みしめるように、もう一度呟く。
「……ぶふっ!ちょっ、兄ちゃんそないマジな顔で言わんでや」
少し間を置いて、思わずといった感じで中年男性が吹き出した。
その気持ちは分からんでもないが、真面目な所を茶化されると、少々イラッとしてくる。
「冗談で言ってるんじゃないんですよ!ホワイトボードに書いてあるじゃないですか『おぱんつ会議を始めて下さい』って!」
「……ぶふふっ!おぱんつおぱんつ連呼せんでも分かっとるがな。『おぱんつ会議』やろ?念のため確認やけど、兄ちゃんがあのふざけた文言を書いたわけやないよな?」
「違いますよ!!」
「あー、すまんすまん悪かったって。笑った事は謝るさかい、そない頭に血い上らせんと、椅子にでも座って落ち着こうや」
「…………」
どこか釈然としない思いがあったが、中年男性の言う内容に一理ある事も確かなので、俺は言われるまま椅子に座る事にした。
それを見て中年男性が椅子に座り、続いてワイシャツ姿の男性ともう一人も自分の席に腰を下ろす。
「はい座りましたよ。で、それでどうするんですか?」
まだ納得のいかない感情が残っており、やや棘のある声で話しかける。
「せやから、さっきの事は悪かったって。仲良うとは言わんが、こないな状況なんやし、お互いに協力していこうや……な?」
しかし、中年男性は俺の声色に気を悪くした様子もなく、おどけた口調で声をかけてきた。
その姿にどこか憎めないものを感じてしまうのは、この中年男性の人柄だろうか。
「はあ……」
俺はため息を一つ吐いて、先程までの苛立ちを飲み込む。
中年男性の言う通り、これから協力していくのだから、いつまでもイラついていてもしょうがない。
「――あの」
と、そこで背後から声が掛けられる。
「さっきはすみません……でした。その、急な事で気が動転していたみたいで……」
振り返ると、先程まで俺をストーカー呼ばわりしていた女性が申し訳なさそうに立っていた。
どうやら俺達のやり取りを聞いていて、自分の勘違いに気が付いたようだ。
「あの、皆さんはストーカー……じゃないですよね?」
「だから違いますって!!」
「あはは、ですよねー」
恐る恐るといった言葉に俺が答えると、彼女はあっけらかんと笑いながら、空いている席へと座っていった。
……やれやれ。
俺はもう一度大きく息を吐いて気持ちを入れかえる。
何はともあれ良かった。
彼女のあの様子を見るに、どうやら誤解は解けたようだ。
もともと社交的なのか、彼女は席に座ると他の人にも取り乱してしまった事を謝罪していた。
「……それでその、あまり良く分かってないんですけど、結局ここってどこなんですか?」
そうして女性はひとしきり謝罪して回ると、改めて俺に聞いてくる。
「いえ、実はですね――」
そう切り出し、俺は他の三人にしたのと同様の説明を行っていった。
といっても話せる事など特に何もなく、この場にいる五人がほとんど同じ状況であると再確認しただけっだったが。
なお、『おぱんつ会議』に対する彼女の反応については
「……ふざけているんですか?」
という、冷たいものだった。
俺が言い出した訳じゃないのに、どうしてこんな冷たい視線を向けられなければならないのか。
……解せぬ。