始まりは突然に
気分が乗ったので初投稿(大嘘)です。
――う、うん?
重く鈍い頭が徐々に覚醒していき、脳の奥に残っている芯のような眠気が取れていく。
いつの間に寝てしまったのだろう。
何かの作業途中だったのか、俺は机に突っ伏すように眠っており、腕が痺れて感覚が無くなっていた。
「痛ててて……」
麻痺した腕を顔の下から引っこ抜くと、止まっていた血が一気に流れ出し、ジンジンとした信号を脳に送り始める。
「ったく、あともうちょっとで、ミケちゃんの下着を剥げたのに」
覚えている記憶を手繰り寄せるが、今、俺の手の中には何も残されていなかった。
ミケちゃんというのは、過激な下着姿が話題の、今をときめくネットアイドルの事だ。
先程まで俺は、そのネットアイドルの家にお呼ばれしていて、めくるめく爛れた夜を過ごしていたのである。
その証拠に彼女の魅惑的なショーツの質感が、ありありと脳裏に焼き付いている。
あれは、夢だったのだろうか?
「くそっ、ふざけんな……」
俺は、誰に言うでもなく悪態を吐いた。
……実際、夢だったのである。
冷静に考えれば、ミケちゃんと何の接点もない俺が彼女の家に呼ばれるはずもなく、必然的にめくるめく爛れた夜が、文字通り一夜の夢であった事を示している。
やるせない。
行き場を失った血液が某所に立てこもり、バリケードを築いていたが、その事が余計に虚しさを感じさせていた。
「はぁ、寝直すか」
俺は、ようやく感覚の戻ってきた腕を使って上体を起こし、今度は良い所で邪魔をされないよう、ベッドで眠る事にしたのだった。
――と、そこで気が付いた。
ここが全く知らない場所だという事に。
「………………え?」
窓も扉も無い密閉された空間。
そこは光源も無いのに、辺りを見渡すのに十分な光量が存在するという摩訶不思議な一室だった。
当然、先程まで俺が眠っていた机も自分の物ではなく、良く会議室とかで見るような、ただの長机であった。
いや、ここは本当に会議室なのであろう。
長机は『コ』の字に配置されており、そして、どこの席からも良く見えるよう、正面には大きなホワイトボードが備え付けられている。
窓が無い事と、光源が無いのに明るい事を除けば、誰もがイメージしやすい会議室だと言えた。
……全く意味が分からない。
完全に覚醒した頭は、昨夜、自分がきちんとベッドに入って就寝した事を思い出している。
なのに、俺が今いるこの場所は、自分の家ではなくどこかの会議室だ。
いや、百歩譲ってどうやって自分の家から移動したのかはいい。
俺が夢遊病を発症したのかもしれないし、誰かに誘拐されたのかもしれない。
しかし……
しかし、光源もないのに明るいこの空間は一体何なのだろうか?
俺の知る限りこんなテクノロジーは存在しないし、よしんば存在したとしても、どうして俺はこんな場所に連れて来られたのだろうか?
一体何故、俺はこんな場所に居るのか?
この場所は一体何なのか?
……異常だ。
明らかに異常な何かが起きている。
そう、例えるなら昨今のホラー系のマンガなどに良く見られるような現象が、今、俺の身にも起きているのだ。
「落ち付け……落ち付け、俺…………」
大きく息を吸って、深呼吸を一つ。
段々と速くなる脈拍を、なだめるように自分に言い聞かせていく。
「そうだ、マンガだ。マンガならこういう時……」
俺はマンガの知識を手繰り寄せながら、この状況を打破する何かが存在しないか、部屋の中を観察していく事にした。
……たぶん、現実逃避している面もあるのだろう。
自身を取り巻くこの状況が、マンガか何かと同じだと思わなければ、正気を保っていられそうにない。
しかし、そうやって周囲を見渡した結果、様々な情報を得る事ができたのも確かである。
新しく分かった事は、次の四つ。
一つは、俺が上下ともにウェットという、寝た時のままの服装をしているという事。
一つは、この部屋に出入口が存在せず、出る事はおろか、どうやって部屋に入ってきたのかも分からないという事。
一つは、俺と同様に寝間着姿の人間が四人、長机に突っ伏して眠っているという事。
そして、極めつけは……
ホワイトボードに、大きな文字で『おぱんつ会議』と書かれている事だった。