陽炎
ただ短いものが描きたかった.
それはアスファルトの上でステーキを焼けるほど暑い日のことだった.
上京したての若い男は, 東京の街はこんなにも暑いのかと嘆いていた.
男はシャツの袖で額の汗を拭いながら, 住宅街の路地を抜けて坂道を下る.
すると, 踏切の向こうに青年倒れているのが見えた.
「おうい, 大丈夫か.」
男は声をかける.
青年はフラフラと立ち上がり,
「少しでいいから水か何かを頂けませんか.」
と返した.
青年の足元は陽炎で揺らめき歪んで, 靴さえ見えない程だった.
「日蔭で待っていて下さい. すぐにそちらへ行きますから.」
男は水筒を取り出しながら青年の元へ急いだ.
踏切がカンカンとなり始め, 徐々に下がっていく.
まだ大丈夫.
男は低くなった踏切を潜り, 青年の元へ急ぐ.
男と青年が目を合わせた時, 足が止まった.
「お前は.」
踏切が閉まる.
汽笛が鳴り響く.
衝撃音と厭な音.
ふと男はアスファルトの上で目を覚ました.
日に当たって倒れたからか気持ちの悪い夢を見たなと思いながら体を起こす.
「おうい, 大丈夫か.」
踏切の向こうから青年が声をかけてきた.
暑さでやられている体に水分が欲しい.
「少しでいいから水か何かを頂けませんか.」
男はそういいながら立ち上がった.
男の足元は陽炎で揺らめいていた.