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冒険者 カイン・リヴァー  作者: 足立韋護
番外編 焔の章
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散りゆく赤

 クリスは思考を巡らすより先に、体が動いた。防戦一方となっている生き残りを助けなければならないと、死体の山を踏み抜き、壁のような陣形をとる敵へと容赦なく雷の魔導術を放った。


「いけっ!」


 鋭い雷光が陣形の一部を崩した。援軍到着を知った敵軍の猛攻の手は若干緩んだ。その隙に防戦一方となっていた仲間達は一時後退し、すがるような眼差しをクリスらに向ける。


「援軍! 助かった!」


「四人だけか? 他の援軍はどこに!」


「クリス、マーク、イスリ! ミラ先生も!」


 聞き覚えのある声にクリスは振り返る。その赤毛、その赤いローブを見て、深くため息をついた。この戦場に来て初めて笑みがこぼれる。


「レイ!」と喜びのあまり三人は叫んだ。



 レイが隊列を外れてこちらへ向かった。



 その刹那────レイの眉間に矢が突き刺さった。

 矢尻が左右に振れ、レイは膝から崩れた。



 クリスは時が止まったような感覚に陥った。



 もし本当に幻想魔導術があり、時間操作が出来たなら、この瞬間をいくらでも書き換えたいと願った。しかしそんなもの当然なく、都合よく発現するわけもない。

 無情にもレイは白目を向き、泡を吹いてその場に倒れこんでいく。隣に立つマークは強張った体のまま硬直し、イスリは髪の毛を振り乱してレイへと駆け寄った。


「あ、あ……あ」


 クリスは意味のない言葉を漏らすことしかできなかった。頭がふらつく。過呼吸のあまり胸が痛む。手は震えるどころか、脱力してしまい上がらない。全ての理解が及ばない。


「レイ! レイィィ……ああぁッ!」


 イスリはレイの亡骸を抱え、大粒の涙を流している。そこに寄り添うミラは、それからもいくつか飛来する矢を風で弾きながら、イスリへと呼びかけた。


「レイの分もあなたが生きなきゃダメよ! 強くなりなさい! 今! ここで!」


 酷な言葉に聞こえたが、それが正しかった。怯んでいた敵も指揮を取り戻し、様々な罵声をこちらへ浴びせながら突撃し始める。援軍はいまだ到着せず、傷ついた味方を頼ることもできない。クリスの中に、冷え切った感情が溢れ始めていた。


────クリスの頭を過った。一年生の頃、山岳地帯の向こうから来た国民を差別する上級生がいた。


 マークもレイも言い返せたし事実魔導術の腕も上級生顔負けであった。そうなれば差別の対象はイスリに変わった。いじめと呼ばれる行為が横行していることを、クリスが気付くのに時間はかからなかった。


 教師らが帰宅後の夜に校内の中庭で行われる陰湿ないじめであった。人に向けては危険、使用禁止とと言われる魔導術を平気でイスリへと放っていた。もしイスリに魔導術の腕がなく、最低限の防衛ができなければ大怪我を負うほどのものだった。


 イスリは持ち前の気の弱さと優しさで、決してやり返しはしなかった。加減を知らない上級生はとうとう、イスリの頭に杖を向けた。


 その瞬間、クリスの目の前は白く包まれた。クリスの記憶はそこで途絶える。


 のちに話を聞くと、魔力暴発により上級生らは皮膚を大火傷する怪我を負った。イスリは魔導術による防衛を行っていたため怪我はなかった。何がどうなったのか、記憶になかった。




 ひとつ覚えているのは、冷え切った感情が止めどなく溢れた、ひどく冷酷な感覚だけであった。




「────この、感覚は……」


「クリス! ダメです!」とミラが叫ぶも、聞こえないのか、クリスは頭を抱えその場にうずくまるのみであった。


「あ、あ、ぐァァァッ!」


 クリスの周囲の砂が揺れ動き始めた。

 クリスを取り囲んだ敵の集団は、身動きが取れないクリスへ容赦なく剣を振り下ろした、が見えない壁のようなものによって弾かれる。代わりに手にひどい痺れが起こり、弾かれた剣をそのまま手放した。

 続け様にパシッパシッと弾けるような音が群発的に鳴り響き、その度に敵騎士が体を痙攣させてその場に突っ伏した。やがてクリスを中心に青白い光と共に円形の半透明の膜が音もなく広がった。


「この魔力量……尋常じゃない。学校の時は、無意識に加減していた……?」


 ミラがそう呟くと、敵騎士の間で悲鳴が巻き起こった。目を凝らして見たマークは、生唾を飲み込み後ずさった。


 膜を通り抜けた敵騎士は、血も流さず鎧ごと黒ずんだ炭になっていた。その炭はひと吹きの風で脆くも崩れた。膜は半径十メートルほどまで広がったところで霧散したが、クリスを取り囲んでいた隊はもれなく全滅していた。地面の雪もすっかり溶けきってしまっていた。

 異常に気付いた敵騎士団長の号令により、敵騎士はみるみるうちに後退していく。ふとマークが後ろを振り返ると、味方の援軍がやってきていた。


 仰向けで倒れたクリスは薄れゆく意識の中、雲がかかった星空を見上げ、一筋の涙が頬を伝った。

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