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冒険者 カイン・リヴァー  作者: 足立韋護
番外編 焔の章
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仲間たち

 番外編 焔の章



 グラントより遥か北に位置する雪国、ティルカノーツ。


 その南西部の町キルシカにクリス・エヴァランスは生を受けた。後に”紅焔のクリス”として畏れられるその男は、元来優しく、人から好かれ、表情豊かな男であった。そんな穏やかな性格であったクリスは、父、母、妹と四人で暖かな家庭に暮らしていた。


 ティルカノーツは、険しい山岳地帯の内に出来た巨大盆地に首都ティルカシカを中心部に置き、山岳地帯までの広大な平地に村や町が点在していた。この巨大盆地の端から端へ移動するには、徒歩で三日はかかる。馬車は雪道に適しておらず、移動手段について行商人をしばしば悩ませた。


 山岳地帯には柔らかな雪が降り積もっていた。大挙して奇襲するには一晩で越えられる山岳地帯ではなく、かといって大勢が夜営できるような安穏とした地帯でも勿論なかった。結果としてこれらの山々は天然の要塞の役割を担っており、建国以来、首都ティルカシカは隣国からの襲撃を一度たりとも受けたことはなかった。

 至って、平和な国だったのである。


────建国から百年と十三年。ティルカシカの王城は、一人の男”紅焔のクリス”によって陥落する。死者七十八名。死傷者にすると百名を優に超えた。彼が直接手をかけた死者は総て王族、貴族、駐屯兵・衛兵含む軍事関係者のみであった。

 王城陥落の報せをもってしても、山岳地帯より外側の領地が侵されたのみで、山岳地帯を越えた侵略はなかったという。




────クリスは十歳の頃、魔力量の多さと魔力操作の器用さから、魔導術の才能を見出された。キルシカにある小さな魔導術学校で基礎を学び、十八歳になると家から出て、単身、首都ティルカシカへと移り住む。目的は他でもない、本格的な魔導術を学び、魔導術師となるため。


 くちなし色(少し赤みがかった黄色)のローブに身を包み、白い石造りの廊下を歩きながら中庭の噴水を見つめるクリスは、突然耳元で声をかけられた。


「クーリース! 何ぼーっとしてんだよ!」


「え? ああごめん、ボーッとしていたよ。それで、何の話をしていたっけ?」


 苦笑いするクリスの前に立つのは、茶色いローブに身を包んだ同年代の若い男であった。茶色の短髪が特徴的な、人の良さそうな雰囲気を放っている。


「だからよ、俺ら十八でここティルカシカ魔導術師学校に入ったろ? あれからそろそろ、一年経つんだぞ。魔導術師試験も昨日合格したし、今年も終わったらあと一年で卒業ってわけだ」


「そうか。随分と早いものだね」


 ティルカシカ魔導術師学校は三年制学校である。二年生の初学期から魔導術師試験への受験資格が与えられる。合格すれば卒業を認められ、三年最後の試験にも合格できなければ、次年度へ留年という形となる。留年の学費はそれまでのものから数倍高額になり、ここで大概の生徒は辞めていくのである。


「お前は卒業したら、もちろん王室専属魔導術師を目指すんだろ。今や俺らの中、いやこの国でも指折りの魔導術師だ」


「ひとまずはキルシカに帰るよ、それからゆっくり考える。そう言うマークはどうするんだい?」


 マークと呼ばれた男は自らの胸板を叩いた。


「もちろん、国を出るさ。ここの魔導術師ギルドはへっぽこだろ? だからもっと大きい国の魔導術師ギルドに入って、そこで活躍するんだ! まあ……何するとこなのかわかんないけどな」


「目標があるって良いことだよ。応援してる」とクリスは微笑んで見せた。マークが満足げに頷いたところで、クリスの上着のポケットから真白い何かが素早く飛び出してきた。クリスの体を縦横無尽に走り回り、やがて肩へ乗った。粒のような黒い瞳と、短い毛並みが特徴の丸っこい生物であった。その短い桃色の脚には金色に輝くアクセサリーが付けられていた。


「おや、ピルス起きたんだね」


「ミィ!」とピルスと呼ばれた生物は返事をした。ピルスがクリスに体をこすり付けると、体をよじらせながら笑った。


「こら、くすぐったいよ。やめて」


「それ見つかったらまたミラ先生に怒られちまうぞ。隠しとけ隠しとけ」


 そんな二人は、遠くから呼ぶ声に気が付いた。


「おーい! クリス! マーク!」


 その張りがあり高い声の主は、廊下の先で手を振っていた。赤色のローブと赤毛が特徴的な女子であった。赤毛は肩ほどで切り揃えられ、活動的な印象があった。その横で静かにお辞儀をしている女子は、対照的に、深緑色のローブと胸元まで伸びる黒の髪が特徴的であった。

 魔導術学校の生徒らは、自らの地毛の色や得意な元素術をモチーフにしたローブを身に纏うことが一種の習慣となっていた。全員同じ格好であるから、遠目から見ても分かるようにという慣例からだという。


「おはよう、レイにイスリ」


 互いに歩み寄ると、突然、赤毛のレイはクリスとマークの肩を一発ずつはたいた。


「痛っ! なにすんだよ」


「あたしらを置いて先に魔導術師になったりするからよ」


「試験は一緒だったような……」とクリスは苦笑いした。


「でもあたしとイスリは落ちちゃったのよ! それなのになんであんたらは合格してるの? 同じ授業を同じ時間受けてるのに!」


「レイちゃん、私達のペアはいつもの癖で、模擬戦闘試験を本気でやりすぎて会場少し壊しちゃったでしょう? 多分、あれが原因だよ」


「うぐ、はしゃぎすぎちゃったのはあるけど、でも実力は────!」


「レイ、イスリ、僕も君達の実力はわかっている。そこらの魔導術師より君達が優秀なこともね。大丈夫、卒業までに何回も試験は残されているから、きっとそこで通るよ。はしゃぎすぎなければ、ね」


 レイは鼻の穴を広げて、息を荒げた。クリスは「ごめんちょっと意地悪だったね」と笑いながら謝った。


「クリスさん、マークさん、レイちゃん、もう授業始まっちゃうよ」


 三人は中庭にある時計を見て、顔を引きつらせた。どたばたとその場から駆け出し、教室へと向かうのであった。

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