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冒険者 カイン・リヴァー  作者: 足立韋護
第四章 【失礼冒険者と失われた海域】
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大海の深淵

 カインはクリスの前に立ちはだかった。青筋を浮かべ、クリスに今にも掴みかかる勢いで詰め寄る。


「てめえ、他人をコケにすんのもいい加減にしろよ。どんな思いで、ストガやテリアがお前に縋ったと思っていやがる! 冒険者のプライド捨てでも俺達を助けようと────!」


「待ってくださいカイン! 彼は、今ここで助けに来てくれています。何か事情があったのでは」


 アベルに視線で促されたクリスは、静かに頷いた。


「この場所は位置的に島の内部と言っても良いんだけれど、出入り口は海に深く潜ってからでないと来られない。この近海にはマーマンが多いから、水中で戦えない人が潜っても餌になるだけだよ。それに泳ぎが上手くないと息が続かない程度には深い。だからその条件を満たす僕が来た、というわけさ」


 カインは、顔を背けながら「や、ややこしい言い方すんじゃねえよ。勘違いしちまうだろうが」と口を尖らせた。クリスはカインの肩に手で軽く叩いてから、洞窟内部を進んでいった。

 暫くしてから、思い出したようにクリスがぽつりと呟いた。


「あの人から聞いていた通りだね。カイン・リヴァー、君は熟考しない癖がある。長寿草の影響で、まだ精神的に不安定な部分がある」


「あんだと?」


「長所でもあるんだけど、短所も目立ってしまうんだよ。他にも様々、君はまだ不足している。これは僕の知り合いが言っていたことなんだ。でも、本当に的中しているよ」


 珍しく長く話すクリスに、三人はまたも訝し気な目線をその背中に送る。


「僕は君と会うたびに、君のその”足らず”を突いていくよ。嫌がらせと思うかもしれないけれど、必要なことのようなんだ」


「てめえ偉そうに。なんでそんな俺につっかかんだ!」


 クリスは突然振り返った。

 その表情は、いつも携えている笑みではなかった。射貫くように鋭い目つき、碧眼がこちらを見つめる。カインは生唾を飲み込み、睨み返す。


「あの人との約束なんだ。僕はそれに従っているだけだよ。カイン・リヴァー」


「あの人……?」


「一口には言えないけど、恩人、師匠とも言うべき人かな。さ、もう出口だよ」


 クリスは前方へ振り向き直し、歩みを進めた。クリスが案内した場所は、洞窟内で水たまりのようになっていた場所であった。そこをよく見てみると、水たまりは深くまで続いていた。ここから外海へと通じているとクリスは告げると、先に行ってしまった。


「クリス、意味深長な奴だな」


「敢えて勘違いされるようにしている、そんな気がするわね。あんな言い回し、しなくてもいいもの」


「ええ、まだ自分らが知り得ない巨大な何かが、世の中には潜んでいるのかもしれません。クリスといい、あの輝く球といい」


「もういい。とにかく、脱出だ」


 三人は水中に身を投げた。暫く泳ぐと、一気に視界が広がった。外海へと出られたが、見上げると水面はかなり遠くにあった。ローゼが自らの手を指差して何かを伝えている。カインは咄嗟にローゼの手を掴むと、ローゼは頷いた。


 それに続いてカインの手をアベルが掴んだ。連なった二人を確認すると、ローゼは”ピカルスの指輪”を海底にかざした。次の瞬間、海水が揺らいだ感覚があったと思えば、上に引っ張られているような感覚があった。何かの魔導術を放っているようである。


 ローゼはそのまま海底に向かって魔導術を放ち続けると、ぐんぐんと水面に近づいてきた。なぜか水面に大きな影があったが、生物のようではない。漂流物か何かであれば浮きとして使えるため、ローゼはそこを目指した。


 この時、カインは思い出した。船が沈没した際、この手の感触と同じ人間が助けてくれたのだと。よく考えてみれば、大斧を担ぐカインを引っ張って泳ぐには相当の泳力がなければ不可能であった。しかし、ローゼの魔導術をもってすれば、カインを助け出すことも容易である。


 三人は水面に顔出した。息も絶え絶えの中、周囲を見回した。

 驚くべきことに、近くに巨大な船が停まっていたのである。水中から見えた影とは、この船の影であった。

 こちらの存在があらかじめ伝えられていたのか、すぐに船の人間に引き上げてもらうことができた。


────暫く息を整えていた三人だったが、目の前に立つ大きな影に気が付き、顔を上げるとストガが顔面を涙と鼻水で濡らしながら抱きしめてきた。


「お前らぁ! 生きてたのか! 生きてたのかァ!」


「ストガなんでここに! 汚ねえよ! くっつくな!」


「まあまあカイン、それほど心配してくれていたんですよ」


「カインよ、神獣は倒したんだろうなぁ?」


「おう、真っ二つにしてやったぜ」と得意げに笑った。それを見たストガは満足げに頷く。


 近くにいたテリアも、安堵した様子で近づいてきた。


「お三方、ご無事のようで。本当に良かった」


「私達探すために、あのクリスに頼み込んでくれたみたいね。お陰で助かったわ。ありがとう」


「いえ、わたくし達はできる限りのことをしたまで……」


「でもどうしてここにいるのよ? 私達以外の冒険者も、参加者はほとんど乗ってるんじゃない?」


「ええ。まずお三方が神獣に殺されたのではなく、捕らえられた瞬間を見ていた方がいまして、殺してないなら、巣に持ち帰ったんじゃないかと仮定しました。それから、優秀な冒険者が集まっているクリスさん達を探して、巣の場所を聞きました。何か情報があればと思ったのですが、ただ、知らないとだけ……」


「ああ、あいつもそう言ってたな」


「成す術なしと諦めたところで、浜辺に戻ると、この船が島に上陸してきていたのです。今回のクエスト依頼主、ベルロイシュ・コングラウス卿ご本人を乗せた船が」


 テリアが指差した先を見ると、甲板に四十代半ばから五十代だろうか、聡明そうで、人当たりの良さそうな男が船員らと談笑していた。ミュウファの話していたベルと呼ばれていた男が目の前に立っている。


「なっ……ムシュルオプスを倒したと報告してないんですよ? 自らが襲われる危険すらあるのに」


「それでも、自分のクエストで起きた事故だからと、わざわざ来て下さいました。それで島の冒険者達はほぼこの船に乗船していたところで、島が地鳴りを起こし始めたので、一時的に沖に出ていたところだったのです」


 甲板をよく見ると、クリスも乗船していた。向こうも視線に気づき、目が合うとにっこりと笑みを向けてきたので、カインは渋い顔をして視線を逸らした。

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