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冒険者 カイン・リヴァー  作者: 足立韋護
第四章 【失礼冒険者と失われた海域】
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覚醒のカイン

────────カインは目を醒まし立ち上がった。


 魔斧ドラードの赤と青に明滅する脈動は、カインの脈動へ伝わり、交わった。


 身体の筋肉は巨大化し、上顎には長い犬歯が生えた。毛髪は地面まで伸びきる。短く切り揃えていたはずの爪も、長く鋭く変異する。

 まるで人間と獣とを融合させた、そんな姿であった。


「あんま出るんじゃねえよ。使うときに出してやるから引っ込め」


 俯きつつそう呟くと、変異は収まり、ほぼ元々のカインへと姿を戻した。一連の様子を眺めていたムシュルオプスが、甲高い鳴き声を上げながら、カインの真横から触手を伸ばす。

 その瞬間、カインの瞳孔はまるで山羊のように横長になり、触手を片手で捕まえた。それからもう片手の爪を伸ばし、魔斧を一瞬浮かせてから、その間だけで触手を切断してみせる。その鮮やかな断面は赤色の液体を噴射しながら、カインの手中から離れていった。

 魔斧を手に取ったカインはその場で踏ん張ってから、並みの動体視力では到底追えない速度で、洞窟天井まで跳躍した。すぐに天井を足場に使い、床、左右の壁と洞窟内を自由自在に跳び回り始めた。


「あ、あれが、カイン? アベル、あれって」


「いや、あんな芸当見たことありませんよ。いったいどうなっているんだか……」


 アベルとローゼは唖然としつつも、事の行く末を見守るしかできないでいた。

 翻弄されたムシュルオプスはがむしゃらに触手を振るい執拗に追い回す。カインの瞳は猫のような縦長の瞳孔に変異した。空中で体をよじらせ、壁を使って跳躍し、触手を全て避けきった。

 ムシュルオプスの真上にまで跳んできたカインは、右手に握りしめる魔斧ドラードを両手に持ち直した。ぐぐぐと強張らせると身体中の筋肉が隆起し、頭髪がまた伸び始める。

 体を反転させ、天井を足場にし、両足で強く踏み込んだ。


 垂直落下した勢いのままに、ムシュルオプスの巨躯を────真っ二つに両断した。



 真紅の血飛沫が洞窟中に降り注いだ。

 神獣と畏れられた存在は、肉塊と成り果て、再び動き出すことはなかった。




────暫くすると、カインの身に起こっていた変異はなくなり、元の姿に戻っていた。


 その頃には、アベルも歩ける程度には回復していた。

 落ち着きを取り戻した三人は、輝く球のもとへやってきていた。その間に、気絶している間のことをカインは説明した。


「カインの話が本当なら、これがカインをあんな姿に……興味深い」


「この球はただ間を取り持ってくれただけな気がする。俺とこのドラードのな」


「でもその斧は、さっきの話だとかなり古い秘術の儀式場から見つけたものなんでしょ? 名前を呼ばれたって……カインってじい様だったの?」


「ガキ扱いされるよりはいいが、ジジイ扱いもイマイチだな。さすがにそんな昔から生きちゃいねぇよ」


 ぶつくさ言うカインをよそに、アベルは思考にふける。


「カインの歳より、あの儀式場の年代はもっと遠い過去のものでした。ただ気絶しているときに見た光景も、千獣の儀の内容と合致しています。ドラードという名が出たのも偶然ではないのでしょう。ただなぜこの球が干渉し、過去の光景と獣の力が呼び覚まされたのかは、まったくもって不明です」


「釈然としないわね。それしてもこの球、さっきより眩しくない?」


 近づいていて気付かなかったが、改めて見てみると明らかに輝度が上がっているように見える。薄暗かった部屋全体がくっきりと見える程度には、明るくなっていた。その時、三人の背後で声が聞こえた。


「やはりここだったね」


 三人が振り返るとそこには、にやけた面構えが特徴的な男、クリスが立っていた。どこかを泳いできたのか、全身から水が滴っている。突然の意外な来訪者に三人は訝し気な視線を向けるが、貼り付いたような笑みはその視線すら跳ねのけるようであった。


「おや、せっかく助けに来たというのに、ずいぶん冷たい扱いだね」


「お前、ここにどうやって来た。なんでここを知ってる」


 クリスがその問いに応えようとしたとき、耳をつんざくほど巨大な地鳴りが響き渡った。洞窟内は激しく揺れ動き、立っているのがやっとなほどであった。


「話はあとにしたほうが良さそうだね。ついて来るんだ、出口へ案内しよう」


 クリスはそう言うと緑色のマントを翻し、足早に区画の出口まで向かっていった。残った三人はついて行くしかなさそうだと、渋々クリスのあとを追う。クリスの言う出口へ向かっている最中も、地鳴りは断続的に複数回起こっている。


「僕は独自にこの島を調査していたんだよ。君たちはあのムシュルオプスを釣ることに成功したけれど、僕は巣に帰ったところを狙おうとしていたんだ」


 そういう探知が得意なのがうちにいてね、とクリスは笑って見せた。ローゼは渋そうな表情を見せる。その横で、アベルが前のめりになりながら、クリスに尋ねた。


「討伐の目的が同じだったことはわかりました。自分らを助けに来たというのは?」


「あれは有名人のストガとテリア、他にも数人いたね。君たちのお仲間が僕らに懇願してきたのさ。”きっと巣に連れていかれた。巣の場所を知らないか”と」


「それで、教えてやったのか」




「うん、言ったよ。”巣なんて知らない”ってね。もちろん嘘さ。僕はその時すでに巣の場所を知っていた。現にここにいるからね」



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