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冒険者 カイン・リヴァー  作者: 足立韋護
第四章 【失礼冒険者と失われた海域】
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対ムシュルオプス戦

 突如動き出したカインらの動きに合わせるように、マーマンらも銛を構えて前進を試みる。しかし、見えない何かに阻まれ、その歩みは押し返されていた。マーマンらは困惑してから何度も試すも、その場から身動きが取れずにいた。ローゼとカインは視線を交わらせ、頷き合った。

 風の防壁。通常の元素術は微細な元素らをかき集めてそれを操る。しかし”レプリカ”となれば、話す次元が異なる。神々が使う武具・装飾品────”神器”。そしてその模造品────”レプリカ”。模造と言えど、その力は人知を超えたものであると伝えられている。


 小を寄り集め大と為す元素術とは似て非なるレプリカの力、それは無から大を創り出す創造の力であった。風がひと吹きもないこの洞窟の中で、膨大な量の風を瞬く間に創り出してみせた。

 カインは皆の武器を回収しながら、その光景を見て思い返した。思えば、僅かな一滴の水すら枯渇したあの無限迷宮において、水の刃を創り出していたのである。どうやら、このローゼの言うレプリカの話は本当だろうと。


「おらぁ! 今度はこっちが相手だ!」


 カインはドラードを一振りしてから、風の防壁に突っ込んでいった。ローゼは「合図くらいしなさいよね!」と悪態をついてから、防壁を解いた。すぐさまマーマンらがそれに気づき、半々に分かれてカインとローゼに向かった。ムシュルオプスは、何か思惑があるのだろうか、中央奥、巨大な球体の前に鎮座したままである。


 ドラードで一閃、マーマンらを真一文字に斬り伏せたカインは、ローゼをちらと横目で確認する。苦しげではあったが、水の刃で持ちこたえているようである。カインはドラードを乱暴にローゼに向かって投げ、そのままアベルの元へ走り出す。弧を描いた魔斧は、マーマンの群れの一部に激突し、マーマンらの注意を引くにも十分であった。


「気が利きすぎるのを、過保護って言うの! 任せろってのよ!」


 気が散っている間に、水の刃によってマーマンらを両断して見せたローゼは、ふんと荒く鼻息を鳴らした。

 アベルの周りを囲んでいたマーマンらを殴り飛ばしたカインは、アベルを担ぎ上げ、ローゼの元へと駆け出す。


「アベル、大丈夫か」


「ええ、食べられる寸前でしたが」


「肝が冷えること言うなよ」


「それよりカイン、ムシュルオプスが……!」


 カインが振り向くと、今まで鎮座していたムシュルオプスが長い触手を鞭のように振るいながら、動き始めたのである。頭部が横たわらないように、触手を器用に洞窟内の壁に貼りつかせ、まるで自らが壁にでもなったかのように宙に居座った。


「な、なんだありゃ」


「隙間もない。まるであの輝く球を守っているような……」


 カインとアベルはローゼと合流するも、出入り口は無数の触手によって塞がれてしまっている。


「ハッ、囲って食っちまおうってか。上等だよ。アベル! ローゼ! 俺の背中にお前らの武器背負ってっから持ってけ!」


 二人は即座に武器を取り戻し、ムシュルオプスと相対した。


「カイン! 作戦は!」とローゼ。


「敢えて言うなら、その時の最善を尽くす。それだけだ!」


「そんなぁ」


「あまり根性論は好みませんが、こういう時は気合いと根性がものをいいます」


「アベルまで……」


「さ、神獣様狩ってさっさと帰ろうぜ」


 ムシュルオプスは壁に張り巡らせた触手をカインらに突撃させ始めた。前後上下左右、全方位からの攻撃はカインらを殴打し続けた。弾力がある触手だったことが救いであったが、それでも間違いなくカインらは消耗し始めた。カインの斬撃により数本の触手を切り倒し、ローゼとアベルで触手の攻撃を阻害していたが、元より船を沖へ送る際に魔力をほぼ使い果たしていたアベルは、膝を折ってその場で屈した。


「ここは湿気も多い。攻撃的な術の多い火の元素術が使えません。それにもう魔力も残り少ないです。カイン、出入り口を強行突破できませんか!」


「このゲソ、弾力があって一本斬るのでも相当な力が必要だ。それを一度に何本もってのは、さすがの俺でも無理がある。だから────」


 カインは咄嗟にムシュルオプスの本体に突貫した。あらゆる触手の攻撃をすり抜け、その眼前でドラードを構えたところで、ムシュルオプスはその巨体を上下に反転させた。突如、カインの目の前が真っ暗になった。じんわりと眼球がひりひり痛む。


「カイン! 下がって!」


 遠くからローゼの声が聞こえたが、何も見えない間に巨大なものが体に巻き付いた。振りほどこうにもそれは張り付くようにして、動かない。

 カインは唯一自由の利くドラードを持たない左手を口の奥に突っ込み、嗚咽した。幾度か繰り返すと、自然と涙が溢れだし、やがて視界が元に戻った。そして、自らの危機を察する。触手に捕まり、宙づり状態になっていた。

 洞窟内の至る箇所と、自身の体が黒いことから墨を吐かれたのだと納得した。


「カイン! どうすれば良いのよ!」


 ローゼは風の防壁で自分と、倒れかけのアベルを守ることで精いっぱいであった。カインには魔導術の知識はなかった。白兵戦における兵法、奇襲の鉄則などでは、この場をどうにかすることは不可能と判断した。カインは、アベルに打開のヒントとなる情報を与えた。


 触手さえ解いてくれれば、イカ墨を喰らってでもムシュルオプスを叩き切れること。ローゼが無制限に水と風の元素術を使用できること。いま頼れるのはローゼとアベルの二人だけということ。そして策を講じることができるのは、アベル一人だけだということ。


 アベルは、力の入らない膝を杖で何度も殴りつけ、奥歯を食いしばり、その場で立ち上がった。




「ローゼ、その風────借りますよ」


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