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冒険者 カイン・リヴァー  作者: 足立韋護
第四章 【失礼冒険者と失われた海域】
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レプリカ

「ちょ、カイン、もっと慎重に進まなくて良いの?」


「ムシュルオプスに捕まる直前、アベルが先に職種に絡めとられてるのを見た。あいつも、さっきのローゼみたいな状況になっていないとも言えねえ」


 ローゼは思わずアベルが喰われる絵面を想像した。青ざめたローゼをよそに、カインは周辺の警戒を怠ることなく進む。二人とも丸腰のままであるため、できる限りの会敵は避けたかった。

 ローゼからマーマンの銛を使えばいいとも言われたが、カインの経験上慣れない武器の使用ほど危険なものはない。それに自らの拳が何よりの凶器であることを、カインはよく知っていた。ローゼは納得いかないといった様子で、銛を抱えるように持った。


 からん、とカインの足に何か当たった。それは紛れもなく、人骨であった。カインはローゼを一瞥するも、特別飛び上がるでもなく、淡々と状況を理解しただけのようであった。

 冒険者としては初心者であっても、こういう修羅場はいくつかくぐり抜けているか。とカインは、ローゼがこの緊迫に耐えうることを確認した。


 地面に転がる人や魚、獣の骸は徐々に数を増やしていき、それはこの洞窟の主に近づいていることを意味していた。


「カイン、そろそろよ……。どうするつもりなの?」


「もし俺の斧がすぐ見つかれば、それ使ってぶった斬る。なければ、アベルだけソッコーで見つけて、トンズラだ。巣さえわかっちまえば何度でも来られるからな」


「私、私はどうすれば良いの?」


 カインは改めて周囲に視線を向けてから、ローゼに向き直った。


「お前の魔導術の正体がわからん限り、作戦の立てようもないだろ。ここで説明してくれんならまた話は違うがな」


「こ、これは……」


「だったら、その銛でマーマンを引き付けてくれ。それで十分────」


 ローゼは振り返って進もうとするカインの肩を、指が食い込むほど強く掴んだ。ため息交じりに振り向き直したカインに、ローゼは指輪を見せつけた。近くで見るそれは、繊細で美しい装飾が特徴的であり、青白く輝く宝石は美麗を通り越した、魔性ともいえる魅力を放っていた。




「これは”ピカルスの指輪”────”レプリカ”のひとつ」




「ピ、ピカルス……七神の? それに、レプリカってお前、人を馬鹿にするもんじゃねえよ!」


「信じられないのも無理はないわね。神々が使った武具や装飾品の模造品……幻想魔導術と同様、おとぎ話程度にしか考えられていない」


「幻の品だぞ。そんなもの、信じろってほうが無謀だ」


「これは私の国の、国宝だったものを、私が持ち出したの。一人の人が持つには大きすぎる力だから、封印されていたのだけどね。だから、あまり話したくはなかった」


 ローゼは寂しげに指輪を撫でた。かつて、自らの王国から逃げ出した姫君であれば、それがもし国宝であり、門外不出の品物であったとしたなら、あり得ない話ではない。一般人たるカインやその他大勢が知ることがないのも頷ける。

 カインは、頭を切り替えた。今はその自称レプリカだったら何ができるのか。それが最重要である。


「それがレプリカだろうと関係ねえ。じゃあ、お前には何ができる」


「水と風を使った元素術をいくつか、魔力消費なしに使えるわ。魔導術の知識が皆無の私でもそれができる。それがこのレプリカの能力」


「無限迷宮で見たあの水の刃と、高波を作り出したあれか。魔力消費なしって……撃ち放題なのか?」


「あとは、風の防壁を作り出せるわ。でも、これらの元素術は時間を置いて使わないと、段々威力が弱まるの。これで戦える……?」


 カインはただ強く頷き、ローゼの肩を軽く叩いた。


「言いづらかったろうに、話してくれてありがとうな。全力でついてこい。俺も全力で戦う……!」


「ええ……!」


 二人は再び壁伝いに歩き出す。マーマンに出くわすこともなく、それに何かの意図を感じながらも、進み続けた。地面に転がる骸が、とある地点でぴたりとなくなっていた。時折、悪臭が鼻をついた。強い鉄のような臭い。これの正体が、かつて戦場を経験してきたカインには理解できた。

 カインらが通ってきた通路を突き当たって、左側へ進むとだだっ広い区画が現れた。


「ここが神獣様の台所ってとこか」


 カインとローゼがその区画へ入り込むと、その情報量に圧倒されてしまった。一度に様々なものが確認できたため、整理と理解が追い付かなくなかったが、一つずつ認識するしかなかった。


 まずは中央奥に、巨大な眩く輝く球が浮いている。それに群がるようにして、ムシュルオプスと十数匹はいるマーマンらがこちらに視線を向けて待ち構えていた。その横にはマーマンらに取り囲まれるようにして、アベルが横たわっていた。目立った外傷はなく、まだ意識が戻っていないだけのようだ。

 地面には無数の骸やまだ食いかけの肉片が無造作に転がっていた。悪臭の原因はこれであった。


 この待ち構えられていた状況は、ローゼを助けた際に取り逃がしたマーマンが情報を持ち帰り、ここで待ち伏せをしていたのだと、カインは理解した。優れた連携、アベルの仮説は全て合致していたのである。そう思い、アベルへ視線をやると、気絶していたはずのアベルは薄目を開け、幾度となく目配せをしている。その方向を凝視すると、肉片に交じって魔斧ドラードやアベルの杖、ローゼの短剣があった。


「ローゼ、風の防壁で足止めしてから、できる限り水の刃で援護してくれ。その間に斧を取り戻す。アベルは起きてる、解放してやればこっちのもんだ」


「覚悟はとうにできてるわ。任せなさい」


 カインは前傾姿勢になり、ローゼが詠唱を開始したところで全力疾走した。

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