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冒険者 カイン・リヴァー  作者: 足立韋護
第四章 【失礼冒険者と失われた海域】
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根城

 ローゼの指輪が青白く輝きを見せた瞬間、船が縦に揺れ始めた。波が立ち始め、ゆりかごとは程遠い荒々しい高波が船をみるみるうちに沖へ流した。水の魔導術でも見たことがない規模の魔導術であった。


「杖を使わず……? ローゼ、それはいったい────」


「待って、何か来るわ!」


 アベルの言葉を遮ってローゼが声を上げた。船へと視線を戻すと、先程まで遠かった暗雲がいつの間にか船の真上まで来ていた。すると示し合わせたように、青白い鱗と大きな牙を持つマーマンらが、船の上までよじ登ってきた。カインらは息をのんだ。まさに、アベルの仮説通りに事が運んでいる。

 船に人がいると思っていたであろうマーマンらは、暫し呆然としていたとき、板が次々に割れる音とともに船を巨大な触手が貫き上げた。おまけに船を掴むようにして、触手が張り巡らされていた。


「来た、来たぞ! 縄を引けぇぇえ! カイン! テリア!」とストガが叫んだ。


「おう!」


「ええ、任せて」


 カインは準備していた手より若干大きい泥団子を船に向かって投げつけた。一度では終わらず、何十回という回数を目にも留まらぬ早さで継続する。テリアは船にあらかじめ積んでいた土と、カインが投げた泥団子を魔導術で操り、触手と船を固定していった。巨大な生物と言えど、魔導術によって幾重にも固定された土を解くことは難しいようであった。

 その間にも、手が空いていた人員で縄を引き続け、船は沖から徐々に島へと近づいていた。


「行ける! 俺も引っ張るぞ!」


 カインが加勢してから目に見えて船が島に近づいた。船上では、マーマンらが土を引き剥がそうと銛を突いている。

 誰もが作戦が成功する、そう確信した瞬間、船が突如として真っ二つにされ、船首と船尾がすっかり天を向いてしまった。それから徐々に、海へと沈んでいった。皆は呆気に取られていたが、縄で引けたのが船尾の木片のみであったことを目の当たりにし、天を仰いだ。


「逃げられた、失敗ですか」とアベルは肩を落とした。


 しかし、カインが「ちょっと待て」と周囲を見渡すと、島の空を暗雲に覆い尽くしていた。

 それを見たその場の全員が、武器を取り出し、海と対峙した。ローゼは肩を震わせてから、短剣を構える。


「どうやら、お怒りのようね……!」


 海水が突如けたたましい水音とともに天高く舞い上がった。その一瞬だけ視界が完全に塞がった。やがて、それが収まるとムシュルオプスやマーマンは姿を現すことなく、その場は一時静寂に包まれた。


「お、脅かしただけか?」とストガが呟くが、テリアが首を激しく横に振った。


「カイン、アベル……それにローゼがいないわ」


「な、なっ……!?」


 ストガは焦ったように、海に入りながら周囲を見回すが、三人の姿はどこにもなかった。


「ふざけんなよ……こんな一瞬で、命が、あんな化け物に……! ふざけんなァ!」


 ストガは大粒の涙を流しながら海水を何度も何度も叩いた。テリアも暫し周囲を探したが、三人の気配は完全に消えていた。落胆する者、泣き崩れる者、まだ諦めずに海を眺め続ける者、各々の行動をとった。生温い雨が海面を打ち付ける音だけが、場を包んでいた。




────カインは目が覚めた。そこは蒸し暑さを覚える、薄暗い洞窟のような場所であった。


 体の身動きが取れない。何かで固定されているのだろうか、手足の自由がきかない。静かに目を瞑った。暫し時間が経ってから再び目を開けた。何かを引きずるような音と磯の匂い。海が近い洞窟だろうか。だが、どうしてこんなところに、とカインは思考にふけった。

 そうか、ムシュルオプスと対峙した瞬間、攫われたのだった。気絶したのもあの巨大な触手で強打されたせいだろう。ともなれば、ここはムシュルオプスの巣。確かに、あの巨体もこの洞窟ならば入るだろう。俺達は非常食のつもりなのだろうか。そうなると、さっきの引きずっていた音は……。


「い、いや! なにここ! 離してよ!」


 ローゼの声だ。そう直感したカインは、すぐさま手足に固定されていた土のようなものを力づくで破壊し、声のするほうへ走った。洞窟を曲がったところで、すぐにローゼは見つかった。マーマンらに台のような場所に乗せられ、土で固定されようとしていた。


「カ、カイン!」


 バカこっち見ながら呼ぶんじゃねえ、とカインは心で呟いたが、時すでに遅し。マーマンらはカインの存在に気が付いた。魔斧ドラードも手元になかったため、素手でやり合うしかなかった。銛を手にしたマーマンは、瞬く間にカインを取り囲んだ。


「おうおう、やる気満々だこと。だが、これはどうだ?」


 カインはそのまま垂直に飛び上がった。壁を蹴り、マーマンらから距離を取った。


(なんだ? 壁が妙に柔らかいというか……弾力があるというか)


 カインは地面に転がっている石を持ち、マーマンに投擲したところ見事、頭部に命中した。鈍い音とともにその場に倒れた姿を見て、その他のマーマンは洞窟の奥へと退散していった。


「ふう、体力消耗しないで済んだか」


 カインはローゼのもとへ駆け寄ると、「よっ、大丈夫か」と声をかけた。


「大丈夫じゃないわよ! どこよここ!」


「まあまあ落ち着けって。恐らく、いや確実に、ムシュルオプスの巣だろうな」


「そんな……私達、食べられちゃうの?」


「そうはいくかっての。ローゼも歩けそうだな。よし、行くぞ」


 そう言うと、カインは壁伝いに洞窟内部を進み始めた。敵の本拠地であっても、カインは臆することなく、むしろ足早なくらいに突き進む。ローゼもそれについて行くことしかできなかった。

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