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冒険者 カイン・リヴァー  作者: 足立韋護
第四章 【失礼冒険者と失われた海域】
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慟哭と嗚咽

「俺とシェリスは、グラント東部のルーシャ高原って秘境にある小さな村出身だった。そこには、老いを遅らせる”長寿草”、人並外れた怪力が手に入る”怪力の果実”が人知れず自生している土地でもあった」


「そんなもの聞いたことがないわ」


 カインは自嘲気味に鼻で笑った。


「そりゃあ、な。みんな知ってたら大騒ぎの代物だ」


「でも、ルーシャ高原……確か、王室魔導術師のダリウス様と並ぶ、二大魔導術師ニッヒル様の故郷よね。昔、戦火で滅んだっていう」


「ニッヒルは俺の幼馴染だ」


「い、いやいや! 二大魔導術師と言えば大陸最強と謳われる二人よ? そんな簡単な!」


「ああー脱線しちまった。まあそんな貴重なもんが自生してる土地、誰だって欲しがる。んで見つけちまった権力者が一人いた。名をランドルフ・ドレイク。現グラント王、そして王室魔導術師ダリウス。当時は王子とその側近程度だったんだろうがな」


 ローゼはあまりの大物ぞろいに呆気に取られてしまった。


「ランドルフは最初こそ金で買おうとしてきたが、村の人間はそれらが悪用されることを知っていたから、無視を決め込んだ。それに腹を立てたランドルフは、ダリウスと私兵団率いて、問答無用で村を焼き討ちした」


「そ、それで?」


「結果、村は私兵団に占領された。ダリウスは元素術の使い手だが、裏では秘術……中でも人間を操る呪術の使い手だった。いくら怪力の果実を食べていたとしても、村の人間は手も足もでないまま、次々と”不動の呪い”に掛けられた」


 ローゼは生唾を飲み込んだ。カインは視線を海から逃さず、淡々と話した。


「その呪術はその名の通り、掛けられた人間の全てが不動になる。行動も意識も、老化も生き死にまでも全てが停止する」


「何て非道なことを……!」


 ローゼは感情的に声を荒げたが、カインはそれでも淡々と話し続けた。


「ガキだった俺とニッヒルが酒造に隠れていたとき、親父達が最後の悪足掻きで放った火が長寿草の草原に広がった。ランドルフ達が焦ってる間に、俺達は呪いにかけられたシェリスだけは抱えてなんとか逃げ延びた。長寿草で造られたリキュールを水と間違えて持ち出した”せい”で俺はこんな姿だし、それと知らずに自生する怪力の果実をガキの頃から勝手に食ってたからこんな怪力になってた」


「でも、でもそれがなんで妹、シェリスさんを殺す理由になるのよ」


「最初は解呪の方法も探したさ。だが秘術に関する書物ですら希少なのに、不動の呪術の書ともなれば、一介の傭兵なんかじゃ決して見つけられない。手がかりを掴めばどこへでも足を運んだが、無理だった。あのニッヒルですら見つけ出せない。その間もシェリスは生も死も許されず苦しんでる」


「そんな……」


「いっそのこと……俺はシェリスをこの怪力で首を締めたが、殺せなかった。ナイフで刺そうとも、あいつの体は鋼鉄がごとく硬い、刃が弾かれる。斧で叩いてもみたし、毒物も試した。だがあいつは死なない。生きてるんじゃない、死ねないんだ。苦しみ続けるくらいなら、それがたとえ死ぬことだとしても、楽にさせなくちゃならない」


「もしかしてそれが、冒険者をする理由?」


「ああ。冒険者は色んな所へ行けるうえに、情報が手に入る。だから俺は冒険者をしてる」


 カインはゆっくり立ち上がると、海を眺めたままローゼへ改めて声をかけた。


「長くなった。ありがとな。たまにこうやって話さないと、この気持ちを忘れそうになるときがあるから、助かった」


 カインはそのまま海へと飛び込んでいった。そこから逃げるようにして、深く深く潜っていった。ローゼもそれを追いかけようとしたが、既に目の届かない場所まで行ってしまっていた。

 そんな折、ローゼの横から声が聞こえた。


「カインの話を、聞いてくれてありがとうございます。カインは、たまに過去を語らないと耐えられないようで」


「アベル……」


「慟哭し、嗚咽を抑えながら妹の首を締めるあの姿を────自分は未だ忘れることはありません」


 ローゼは鼻をすすりながら、目尻に溜まった涙を拭った。


「自分にはとても計り知れない。最愛の家族をどう殺すか考え続け、試し続ける。その激情と復讐心は……」


 二人は潮風を浴びながら、暫し足元に打ち寄せるさざ波を見つめた。

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