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冒険者 カイン・リヴァー  作者: 足立韋護
第四章 【失礼冒険者と失われた海域】
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島の鳴動

 今度はざわつきどころでなく、どよめきが場を包んだ。「ご、五十だとぉ?」とストガは訝しげにカインを睨みつけ、それから確認するようにアベルへと視線を向けた。アベルは深々とため息をつき、短く頷く。


「その通りです。カインは今年で五十歳。見た目は十八の若造に見えますがね」


「そ、そういや、傭兵時代に”撃滅の烈兵”と呼ばれた傭兵隊長の話を聞いたことがある。小柄だがそれは猛烈な攻めで数々の敵部隊をなぎ倒したとか。全身鎧で身を包んだ出自不明の大剣使いだったそうだが、そいつ名前は確かカイン……」


「そう呼ばれたこともあったな。引退後も大剣使ってたら、色んなとこで逆恨みで襲われっから斧に変えたんだっけか」


 カインの胸倉から手を離したストガは呆気にとられたまま、地面に座り込んだ。ローゼも例外なく驚愕していたそんな折、テリアが立ち上がり、杖をカインへ向けた。魔導術師が他人へ杖を向ける行為は、戦士が切っ先を向けていることと同義である。


「まさか、秘術の使い手ではないでしょうね!」


「んなわけあるか! 俺は武器を振ることしか能がねぇんだよ、いいから杖降ろせ」


 テリアが眉をひそめながらアベルへと視線を向けた。 


「はい、その通りです。この方は武器を振るう以外、能がありません」


「いやいやなんでいちいちアベルに確認すんだよ! それにアベルも言い方考えろ!」


 カインはその小柄な体を精一杯動かし、不満げに皆を見回した。


「カイン、やはりこういうことになりますから、あまり正体を晒すような真似は自重してください」


「あんまり小僧だのなんだの言ってくるもんだから」


 口を尖らせたカインは拗ねるようにして、焚き火のそばに座った。


「秘術でも何でもないのに、その若さってどういうことなの?」


 カインがふてくされながらその理由を口にしようとした瞬間、突如、木々から鳥類が一斉に羽ばたき始めた。その場にいた冒険者らは一斉に立ち上がり、皆引き締まった表情で暗い木々が生い茂る森を見つめる。カインは耳をすましてみるが、足音らしきもの聞こえない。その代わり、地響きのような音と共に、地面が鳴動し始めた。まるで獣の咆哮を何倍にもしたような、そんな轟音であった。


「地震……?」とローゼが汗を拭う。


「生き物の声のようにも聞こえますが、それにしては巨大過ぎます。カイン、どう思いますか」


「どっかにドデカイモンスターでもいるんじゃねぇのかとも思うが、どこから聞こえてくるのかまるでわからねぇ」


 テリアが何らかの詠唱を終えてから、そっと地面へ手を触れた。


「まだ遠いですが、足の早いモンスターが走り回っています。眠っていたモンスターが起きてしまったのでしょう。一度浜辺へ出た方が良いかと」


 テリアへ異論を唱える者はいなかった。一同が浜辺へ避難したところで、同じ考えに至ったのか遠方に別の冒険者らを見つけた。カインがよく見ると、見覚えのある緑色のマントと金髪が目に入った。それは間違いなくクリス一派であった。向こうはこちらに気付くどころか、大量の狼のようなモンスターと交戦しているようであった。


「カイン、どうしますか? 彼らなら退けられるかと思いますが……」


「ちっ、いけすかねえ野郎だし、あいつらでどうにかできるとも思う────」


 そう言いながら、カインは魔斧ドラードを地面へと落とした。


「────が、船上であいつらには世話になったからな。俺は行くぜ」


 そういうとカインは尋常ではない脚力で、浜辺を一気に跳躍して行った。背後で砂を被ったストガが青筋を立てて叫びながらカインを追いかける。アベルやテリアなど残った冒険者も、呆れた様子で後に続いた。

 カインが到着した頃には、クリスの取り巻きの冒険者は想像以上に傷ついており、疲弊しきっていた。当のクリスは笑みを崩さないまま、足場も変えず、自らに襲い掛かってきた狼を確実に短剣と素手で仕留めていた。


(取り巻きの連中は砂に足を取られて上手く立ち回れてない。それに比べて狼どものほうは砂地に慣れている。おまけに星明かりだけじゃ視界も悪い。こりゃ苦戦してるな)


「おや、カイン・リヴァー。生きていたね」


 こちらに気が付いたクリスが、首根っこを掴んだ片手で狼を絞め殺しながらにこやかに手を振ってきた。カインはふんと鼻を鳴らしながら、手頃な位置にいる狼へ向かって思い切り駆け出した。

 カインは狼の反応速度をも超えた速度に乗ったまま、拳をその脳天に叩き込んだ。砂が舞い上がる中、続けてカインはその狼の足を掴み上げ、遠方で別の冒険者と相対していた狼へとぶつけた。その間に飛びかかってきた狼の顔面に真横から蹴りをお見舞いし森の中まで飛ばす。それからも次々に狼を一掃していく。


「あいつ、確かクリスさんとアビシアの宿舎で話してたガキだろ」


「な、なんつぅ滅茶苦茶しやがる」


 アベルらが到着する頃には、狼は壊滅していた。少数となった狼は森へと逃げ帰っていた。傷ついた冒険者らであったが、一派に治癒を得意とする神聖魔導術の使い手がおり、皆を治療して回っていた。


 そんな中、クリスがカインに歩み寄ってきた。カインは何故かその姿に妙な違和感を覚えた。下半身に合わせるように上半身が付いて来ているような感じがした。だが歩き方自体は自然なもので、ほんの僅かな違和感だったのでそんなことは頭の片隅に追いやり、今は目前で見下ろしてくるクリスに集中することにした。

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