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冒険者 カイン・リヴァー  作者: 足立韋護
第四章 【失礼冒険者と失われた海域】
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振り返りの焚き火

 周囲は完全に夜の帳に包まれていた。カインとアベルは、二人を合わせて十人いる冒険者らと焚き火を囲んでいる。ルーダ島に流れ着いた時から誰ひとりとしてその場から離脱することはなく、既に見知っていたローゼや竜殺しのストガ、土の申し子テリアも同じ焚き火に当たっている。皆濡れていた衣服は既に乾いていた。昼間の騒動から一転して、虫の声と波の音が聞こえ、皆の表情からはすっかり緊張が抜けていた。

 とりあえず皆一通り自己紹介をし、一晩は協力関係を築こうという話し合いのもと、この場にとどまった。


「ねえ、妙に連帯感あるけど、あんたらここの人達と仲間だったりするの」


 ローゼがカインとアベルに投げかけると、それを聞いていたストガが豪快に笑った。


「嬢ちゃんもしかして冒険者成りたてホヤホヤかぁ?」


「な、なに! 馬鹿にしないでよ! それにおじさんには訊いてないんだから!」


「お、おじ……! テメェ喧嘩売ってんのか!」


 アベルが「まあまあ」となだめてから、頃合いを見てカインが口を開いた。


「冒険者ってのはトラブルが普通なんだ。だから元々組んでたパーティが散るなんてのもザラにある。ってことは、見ず知らずの冒険者と一時的に手を組んで一緒になるなんてのもよくある話だ」


「でも前にその魔導術師から、知らない奴と手を組むなって叱られたばっかだけど」とローゼは不満げにアベルを指差した。


「時と場合によりますよ。細かく言えば、今回ここにいる冒険者は名の通っている方ばかり。だから信用に足る。また、経路も移動手段も一緒。であれば経費の計算も簡単。同じクエストを受けているから、分け前も依頼主の判断で決まる。ざっくりそんなとこです」


「改めて説明されると、まあ、確かに納得ね……」


 ローゼはひとつ頷いてから焚き火に枝を放り込んだ。テリアがそんなローゼに声をかける。


「女性でわたくしのように冒険者をしている者は多くはありません。あなたはどうして冒険者をしているのですか?」


 カインら含めて、その問いかけが気になったのか、自然とローゼに視線が集中した。最初は口をつぐんでいたが、その空気に耐えかねたのか、小さくため息を漏らしてから、ぽつぽつと話し始める。


「────私、とあるエルフの国の王族だったのね」


 周囲が一瞬ざわつく。


「エルフの国って三つあるんだけど、その一つの国の王族。でも、とあることで親と大喧嘩しちゃって。婚約相手とも破談、まあこれは興味なかったから良いんだけど。王族の階級から貴族階級に落とされたの」


「え、それって……」とテリアが口に手を当てる。


「そ、実質勘当されたってこと。その時にエルフの国なんて煩わしいとこいるのやーめたって逃げ出して、人間の地で元々好きだった古物商を始めたんだけど、エルフ相手だと価値がわからないだろうって、吹っ掛けてくる人間が多くて。それでそれも煩わしくなって、なら自分で集めちゃえってことでトレジャーハントのついでに冒険者業やってるってわけ」


 皆が頷く中、カインが気になっていたことを口に出した。


「お前、前に迷宮で会った時、変な詠唱してなかったか」


「変な詠唱? 気になりますね」とアベル。


「あれは……ふん、隠し玉だからそう易々と教えないわよ」


「ああ、それもそうか。悪かったな」


「ま、まあ謝らなくてもいいけど……」


 皆が身の上話に花を咲かせる中、アベルは少しだけ安堵していた。カインとローゼが、前回迷宮で出会った時や、港町アビシアで会った時と比べて、この空間の空気感のおかげか定かではないが、落ち着いて話ができている。二人とも一度ヒートアップしてしまうと手が付けられなくなる性分なのは十分わかっていた。最悪、この場からどちらかが離脱してしまうことも考えられた。それ故の安堵であった。


「アベル、だっけ。あんたはなんでカインと冒険してんのよ」


 アベルはカインを一瞥してから、表情を和らげた。手に持つ杖をきゅっと握りしめ、ローゼを見つめ返す。


「自分は、カインに助けられたんです。この人は命の恩人であり、そして冒険者としての師でもあります。その恩返しが半分、修練が半分といったところですか」


 カインは「やめろい!」と照れ臭そうにアベルを叩いた。

 ローゼは思わず、こんな子供にと言い返しそうになったが、思い返してみれば自らも迷宮においてカインに助けられた身であった。それを思い出し、さすがに言えないと口をつぐんだ。


「それより俺ァ、小僧、カインって言ったか。お前について知りたいところだぜ。お前いったい何者なんだ」


 ストガがずいと身を乗り出して顔を向けてきた。カインは「小僧じゃねえ!」と地団駄を踏むと周囲の冒険者は笑った。


「カイン、あまり言いふらすことでもありませんよ。厄介ごとを招くだけです」


「わかった。それじゃあストガ、一つヒントを教えてやる」


「生意気な……! まあいい。教えてみろ」


 カインは得意げにストガへ顔を近づける。


「俺はグラント国内、周辺領土まで巻き込んだ内乱に傭兵部隊の隊長として参加してたんだよ」


「カインさん、それってあのグラント王政派とグラント王政反対派が戦った”グラント大内乱”のことでしょうか」


 大人しい様子であったテリアが珍しく身を乗り出して訊いてきた。


「その通り」


 それを聞いた途端、ストガが顔を真っ赤にして立ち上がった。青筋が目に見えて現れている。血走った眼でカインの胸倉を掴み上げた。


「小僧、あんまり人を馬鹿にすんじゃねえぞ。あの内乱には俺が十代の頃傭兵として行ってたからよく知ってる。ひでぇ戦いだったんだ。テメェみたいな小童が、行けるはずもねえ。もう三十年は前の話だ! あんまり適当言ってるとぶっ飛ばしちまうぞ」




「だから言ってんだ。小僧じゃねえ────俺は今年で五十だ」



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