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冒険者 カイン・リヴァー  作者: 足立韋護
第四章 【失礼冒険者と失われた海域】
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奇策のカイン

 クリス一派の戦力は、他の冒険者を圧倒するほどに大きかった。個々の戦闘スキルはもちろん、連携、状況判断、どれを取っても文句のつけようがない。当然ながら、マーマンらもなすすべなく片付けられていった。

 相変わらずクリスは笑みを含んだ表情で皆を見つめている。不意に、クリスは短剣を持つ腕を振り上げた。海からマーマンが急襲をかけてきていたが、クリスは目にも留まらない速度でそれを切り伏せて見せた。マーマンは首を真っ二つに切断されていたが、クリスは足を一切動かしている様子はなかった。


「なんつう剣さばきだよ」


「褒めてくれるのかい。光栄だね」


 クリスは顔だけをこちらに向けた。


「……いちいち不気味なんだよそれ」


 やがてマーマンとの戦闘が終わったが、活躍していた冒険者の大半がクリスの仲間達であった。しかし高波が鎮まることはなく、むしろその激しさを増し、渦潮までもが現れ始めた。気づけば空は暗いやぼったい雲に包まれおり、しまいには雨が降り始めた。


「雨が降ってきましたね、状況は悪化するばかりですか」


「そうでもねえぞアベル」


 カインが指差した方向には、大きな島が見え始めていた。


「あれが……」


「ルーダ島だろうな」


 船は荒波に揉まれながらもルーダ島へと近づいていた。そんな矢先、船は大きく左右に揺れた。


「今度はなんなんだ!」


 カインが悪態をつくと船の底から甲板にかけて、長い何かが突き破って飛び出してきた。歴戦の冒険者らもさすがに驚きを隠せていない様子であった。よく見てみると、それは烏賊(いか)の足に似たものであった。足先の平たい部分には吸盤がいくつかついていた。その足は振りかぶるようにしなってから、猛烈な勢いでマストを叩き折った。

 カインはちらとルーダ島への距離を確認した。島の姿ははっきり見える程度

 船底から浸水しているのか、甲板は徐々に海面へと近づきつつあった。


 もう二本の足が甲板を突き破って飛び出してきた。船は大きく揺れ、完全に冒険者らは混乱状態に陥っていた。一方でクリスは仲間内の一人に何かをぼそりと呟いたところで、荒波の中、海へと潜っていった。

 カインは甲板にあったタルの上に乗った。


「冒険者に船員に船長、よく聞け! この船はいずれにしろ沈む! 俺に考えがある」


────カインは分厚く長い木板を手に持ち、甲板の端に立っていた。その横にアベルが杖を構えた状態で立っている。


 冒険者らは各々浮きになりそうなものを手に携え、カインの周りに集まっていた。


「あんなチビの言うこと信じていいのか」


「バカ言え、大斧のカインだぞ。怪力で有名だろうが」


 好き勝手に噂話をする冒険者をよそに、カインは手招きをした。大柄の男、竜殺しのストガと呼ばれていた男がいの一番に前に出てきた。


「小僧、信じるぞ」


「任せろい」


 カインは木板を両手で持ち直し、アベルへと目配せをすると思い切り木板を振り上げた。それと同時か、少し前にアベルが詠唱を始める。


「風の気、その流体を顕現せよ」


 アベルが杖を振りかざすと突風とも言うべき風が、ストガを下からさらに押し上げていった。ストガは長距離を飛翔してから、島近くの海へと落下した。少ししてから、海面からストガが手を振っていた。

 それを見た皆はカインへと殺到した。カインはそれを律義に一人ずつ投げ飛ばしていった。

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