港町アビシア
第四章 【失礼冒険者と失われた海域】
カインとアベルはグラントから離れ、その北西に位置する港町アビシアへ来ていた。いくつもの商業船や漁船が停留する港町として栄えている。王都であるグラントより亜人と呼ばれる、獣の耳が生えた種族やドワーフ、エルフなどが多い印象を受ける。人によってはグラントよりこちらのほうが住み心地がよいと話す者も多い。
「潮風のいい匂いですね」
「いいねえ。美味いもんいっぱい食えるぞ!」
「今回はギルドのクエストで来たことを忘れないでください。しかし、魚介たっぷりの名物、海賊盛りは食べたいところです」
二人揃って舌なめずりをしていると、中央に位置する広場で大道芸人らしき風体の男女が客寄せをしながら、ナイフを投げまわし、自由自在に操っていた。
「へぇ。大したもんだ」
「おや、こちらに近づいてきましたよ」
大道芸人の女がカインに近づいてくるなり、「ちょっと遊んでいかない坊や」と誘ってきた。カインは眉をしかめるが、やがて挑戦的に口角を上げて頷いた。女に連れられたカインは、広場の椅子に座らされた。カインの頭部にそっと果実を置くと「そのままね」と女は笑みを浮かべて離れていった。
やがて大道芸人の男が手に持つナイフを巧みに弄んでから、カインへと投てきした。
観衆の悲鳴が上がった。微動だにしないカインの頭上でナイフの刺さる音が聞こえた。悲鳴は歓声へと変わり、拍手が巻き起こった。しかし、果汁がカインの顔に滴り、不服そうに頭の果実と、そこに命中しているナイフを取った。
「お返ししなきゃなぁ」
カインは果実を天高く放り投げ、そこにナイフを投てきした。素早く回転したナイフは、家々の屋根の上まで高く飛び、空中で果実に命中した。唖然としている大道芸人らに手を差し出すよう合図し、差し出した大道芸人達の手のひらに、空中で真っ二つに切られた果実が落下してきた。ナイフが二人のちょうど真ん中に落下し、地面に突き刺さった。
呆然としている観衆と大道芸人らをその場に置き去り、観衆に混ざっていたアベルを連れて、港へと向かった。
「カ、カイン! やり返してはダメじゃないですか」
「これ見ろ! 果汁が滴って頭が果実臭くなっちまった! 坊や呼ばわりされたうえこんな仕打ち受けりゃやり返したくもなるだろ!」
カインは瑞々しい果汁滴る髪の毛を見せつけた。アベルは顔に手を当てながら呆れた。
港までやってくると、そこには数十人は格納できるであろう巨大な船があった。金属で補強されている船体はまるで巨大な何かとの戦いに備えているかに見えた。その船の前には、黄色い旗を持った冒険者ギルドの案内人が立っていた。
「あれですね」
「他のも結構いるな」
近づいていくと同じクエストに挑むであろう様々な冒険者が集まっていた。数人は王都でも見たことのある冒険者であった。案内人から手渡された名簿にアベルが二人分サインした。
「もう暫くしたら案内があります。少々お待ちください」
案内人の言葉に頷いたカインは冒険者らを見回すと、見覚えのある冒険者を見つけた。アベルもその姿を見つけると意外そうに目を見開いた。歩み寄っていき声をかけた。
「よっ、ローゼ!」




