抱えるもの
迷宮からイーファ平原まで馬に乗って戻った。青空が眩しく目を痛めた。そんな中、馬に乗るローゼが前で手綱を引くカインの肩を叩いた。
「そろそろ下ろしてよ」
「ダメだ。お前足の骨折れてるぞ。医者まで我慢してくれ」
「そういうわけにはいかないわよ!」
ローゼが半ば強引に馬から降りようとするので、カインは渋々馬を止めた。アベルも呆れながらそれに続く。
「助けてくれたのは、ありがとう。でもお節介は不要よ。誰にも恩を売る気はないの」
「ああそうかい」
ローゼの足はやはり折れていたが、痛みを我慢しながらローゼは馬から降りた。足首辺りをさすりながらカインを見上げる。
「それよりお宝、見つけてきたんでしょ。少し見せてよ」
明らかに話を逸らされたが、カインは特に気にせずに台座に乗っていた白い花を取り出して見せた。
「はぁ? こんな花が、お宝?」
「ああ」
「……いえ、ちょっと待って。この花、もしかして────」
────暫しローゼと話してからイーファ平原で別れを告げた。ローゼは近くに知り合いの家があるらしく、安全だという。カインとアベルは、ローゼから花に関する情報をもらってから、急ぎグラントに戻った。
アベルが焦った様子ですぐさま学校へと向かおうとしたが、カインは寄るところがあると言ってその場を離れた。
しばらくして学校にて合流したが、生徒達は既に下校し始めており、アベルは苛立ちを隠せなかった。
「カイン、一体どこに行っていたんです!」
「あー悪い悪い。ほら行くぞ」
二人は教室へ訪問すると、ニータとホープが何か会話していたが、こちらに気付くと目を見開きながら駆け寄ってくる。
「ちょうどニータさんと、カインさんとアベルさんの話をしていたんです! よく、ご無事で!」
「悪い、心配かけた」
ホープは若干涙目になりながらカインの手を両手で握り、それを何度も上下させた。一方で、ニータは両親の安否が気になっているようだった。
アベルは何か言いたげにしていたが、カインが落ち着いた様子でしゃがみこみ、ニータと視線を合わせた。だが、何も言わずに、羽根の入った金色のペンダントを手渡す。ニータは何も言わず、ただ寂しげにそれを受け取った。
カインは想像通りだったのだろうと悟る。親への疑念、失望、そして死にゆく自身への絶望。小さな体でそれら全てを悟られないようにして、抱え込もうとしている。
カインは、ニータへ瓶に入った白い花を手渡した。それは予想外だったようで、訝しげに受け取ると確認するようにカインを見つめた。
「きっと辛いだろうが、お前には聞かなきゃいけない話がある。お前はそれを背負ってこれからを生きていかなきゃならない」
「話……?」
「お前、死ぬ病気にかかってるんだろ? そんな娘を放っておいてどんな親なんだと思ってた。勘違いしてたんだ」




