小さな魔女とブリキの人形
小さな森に、小さな魔女が住んでいた。
黒いとんがり帽子に、黒いローブの少女である。
「……時代だねえ」
昔はもっと大きな森だったが文明が進み、今や蒸気の時代。
森は拓かれ、次第に小さくなっていった。
「昔はよかった、なんて言わないけど、少々寂しいねえ」
魔女はぼやき、小さな森を散策する。
ほんの十数年前なら、時々魔女の秘薬や簡単な呪いを求めに来る者もいたのだ。
今は、自分から街に出なければ、人と触れ合うこともない。
今日も今日とて、薬草とキノコの採取……のはずだったが。
「おや、まあ。ここはゴミ捨て場じゃないんだけどねえ」
もっと時が進めば『不法投棄』という言葉で表現されるだろう、森の端っこの方に歯車とネジと針金のガラクタの山ができていた。
「こういうのは、困るねえ」
ちょい、と魔女が呪いを掛ければ、ガラクタの山はゆっくりと蠢き、そのまま森を去って行った。
捨てた者のところ(多分、どこかの工場)に戻っていったのだ。
しかし。
「んん?」
小さな人形が残った。
ネジを巻いて動く、ブリキの人形だ。
高い帽子を被った青の衛兵。
右肩が少し、外れ掛かっている。
「ふむ……魂が、残っているねえ」
持ち主が大事にし、時を経れば、物にも魂が宿るのだ。
「…………」
それは、ちょっとした思いつきだった。
「時代だからねえ……使い魔が欲しいと思っていたんだよ」
魔女は人形を抱え、小さな家に帰った。
さてそこからは悪戦苦闘の日々が続く。
歯車とネジと針金をこねくり回し、こりゃどうにもならんとまずは設計図を書くところからやり直した。
試行錯誤を繰り返し、人形は少しずつ形を変えていく。
魔女には時間だけは大量にあったので、最初こそぶきっちょだった彼女の手際も、次第に手慣れたモノへと変わっていった。
――百五十年ほど後のお話。
高層ビルの最上階付近で、社員達は大わらわだった。
「会長、かいちょー!」
「この『義体』には、いない! また、抜け出された。今日は我が社の創業百周年記念式典だというのに!」
「探せ! 会長の『義体』の中で足りないモノが、抜け出した会長だ! リストを取り寄せろ! 何、ブリキの人形がない!? いくら何でもそんな姿で出れば、気付くわ阿呆!」
ドタバタドタバタと足音を響かせ、社員達は走り回る。
やがて騒動は下にも届き、黒服サングラスの男達がスマートフォンを手に、あちこちへと駆け出した。
超高層のビルディングは元は小さな時計屋から始まり、今や世界的なコンピュータ企業へと上り詰めた大企業のモノである。
敷地は広大で、公園と呼んだ方が相応しい中庭には――小さな森が存在する。
その小さな森の中心には、小さな家が存在する。
「……呼んでるよ、『会長』?」
小さな魔女は、腰掛けているロッキングチェアをぶらつかせた。
「放っておけばいいのですよ、母上。大体、経営権なんてとっくの大昔に譲っているんです。いい加減、子離れしてもらわないと」
キッチンの方から、若い返事がした。
「それを、あんたが言うかねえ……」
「母上の誕生日の方が、重要です」
キッチンから現れた、青いエプロンを着けた金髪の青年が、テーブルに湯気の立ったパイを置く。
中心には高いケーキがそびえ立っている。
棚の上には、青い衛兵のブリキ人形が置かれていた。
「そもそも、創業式典というのなら創業者である母上を祝うべきではないでしょうか」
「そういうのは、苦手だねえ」
「僕もですよ。さ、始めましょうか」
小さな森に、小さな魔女と、彼女が育てた人形が住んでいる。
黒いとんがり帽子に、黒いローブの少女。
そして元はブリキの人形、今は魔術と科学の混合種で構築された、意思ある自動人形の青年である。
制作時間、一時間。
何か、思ってたのと微妙に違うようで、まあでもいいかって感じの作品に仕上がりました。
おっかしーなー、恋愛タグ入れるような作品のつもりが、普通のほのぼのですよ。
書き始めた動機は、や、ほらツイッターでちょっと流行ってる魔女集会のやつです。
よければ、評価よろしくお願いします。