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思い付きで書いた短編集

ドブ沼の女神

作者: 鮭ライス


 あるところに二人の男たちがいた。二人は年こそ離れていたが、馬が合うようで仲は良好であった。

 一人は薄毛を気にするおっさん。もう一人は自分が毛深くなってきていることに悩む思春期の青年だった。


 ある日、おっさんが少し遠出してハイキングに行くと、近くにたまたまやって来ていた青年にばったりと出会った。


「おお、奇遇だな」

「そうですね。僕は友達とそこの河原でバーベキューです」

「ほぉ、そうか。俺はすぐそこの山にハイキングに来たんだ。お前はバーベキューだってのに、何でこっちの方に来てるんだ?」


 おっさんが近くにある山を指差しながら言うと、すぐにその手を引っ込めて頭にかぶった帽子の上にあてた。


「罰ゲームでそこの公園の自販機まで飲み物を買いに来たんですよ」

「そうか、なるほどな」


 青年の差した自動販売機のある公園は登山口にあるので、二人は必然的に同じ方向へと並んで歩いた。


 そうして、いつものように話をしながら小さな屋根のついた自動販売機のまとまっている場所に近づくと、青年が何かに気が付いて鼻をすんすんと鳴らし出した。

 おっさんは同じように匂いを嗅いでみても何もわからなかったので、青年に尋ねる。


「何か臭うのか?」

「いえ……なんとなくドブのような腐ったようなにおいがする気がして……」


 もう二、三歩歩くとさっきまでは気付けていなかったおっさんにも、その匂いがはっきりと分かった。


「ああ、なるほど。ドブくせぇや」


 しかし、どこが発生源かもわからなかったので、さっさと自動販売機へと向かう。飲み物を買おうと青年が財布から五百円玉を取り出した。

 その時、不意に青年は手を滑らせてしまい、取り落とした五百円玉は地面を転がりだす。それは自動販売機の横をすり抜け、後ろ側へと転がっていく。その先に壁は無く、自動販売機の裏のさらに奥へと転がり続けた。


「やっべ。あーでも後ろに何もないからセ――」


――ポチャン


「――ぇええ……」

「……今、水に落ちる音がしたな」


 おっさんは冷静に判断した状況を報告する。


「……嫌な予感がする」


 青年は冷や汗をかきつつ自動販売機の裏手に回ると、そこにあったのは大きな水たまり、小さな沼だった。そして、近付くほどに異臭が高まっている。

 ……彼の予感は的中した。


「やらかしたぁ」

「いや、臭いけど洗えばどうとでもなるだろ」

「うぅ、でも、あそこに手を突っ込むのは生理的に無理です……」


 取ってやろうとは言わないおっさん。


「ああ、ただでさえおごらされていたのに……」


 青年は肩を落とす。


――その瞬間、その濁った水たまりはピカッと光り二人は思わず目を閉じた。


 次に目を開けた時、彼らの前には長い髪で顔の隠れた、しかし綺麗な布を纏った女性がドブの水たまりの中に立っていた。


 先にそれに気が付いていた青年が声を上げる前に、女性は声を出した。


「水たまりではなく『泉』の女神です。よろしいですか? 確かに腐ってはいますけど……コホンっ。

えー、あなたたちが落としたのはこの強力育毛剤ですか?

それとも、この肌に優しい強力脱毛剤ですか?」


「えー、うん。え?」


 青年は思わず変な声を上げた。

 おっさんは少し考えてから勝手に答えようとしたのだが、

「ごひゃ……育毛剤だ」

「ちょっ、悪乗りしないでくださいよ。落したのは脱毛剤ですから」


 その答えを聞いた女性はフフフと不敵に笑って、

「あなたたちは嘘つきだ。それに、とても仲が悪い・・ようですね。本来ならば五百円は没収ですが、代わりに二本の飲み物と四百円を差し上げます。……では」


 女性はそう言い切ると、再び目を開けていられないほどに光り、次の瞬間には消えた。

 異臭と水たまりは消え去り、残ったのは百円玉が四枚と「二人で飲んでね」と書かれた付箋の付いた二本の缶ジュースだけだった。


「なんだったんだ? 今のは」

「あー! ホントに四百円しか返してくれないのか。まぁ百円じゃジュース買えないし、一応得したのかもしれないか……」


 そう言って、青年は大手メーカーのジュースのラベルが付いた二本の缶を手に取り、片方をおっさんに渡そうとした。


「いや、俺はいいよ。一本俺がおごったんだと思ってくれればいいさ」

「何もしてないのにおごってもらうなんて出来ませんよ。それに、さっきの頭のおかしい人のメモで二人で飲んでねって書いてありますし、あれでも好意のつもりなのかもしれませんから、受け取っておいてください」

「そう言われてもな……。まいいや。持ってっても邪魔になるし、今飲むか」


 おっさんはそう言って、缶を受け取り一気に飲み干した。


「っはー。あんがとよ」


 そう言っておっさんが飲み終わった感を青年に返すと、青年は笑顔でそれを受け取った。


「毒見あざっす」

「あっ、てめぇこの」


 おっさんの振り下ろした手を避けて、青年は言う。


「ほら、さっさと行ったらどうですか?」

「お前、今度会ったときはぶん殴るから覚悟しとけよ?」


 そして、二人はひとしきり笑い合ってから分かれた。




 数日後、二人の趣味に新しく穴掘り・・・が追加され、おっさんは見事復讐を果たせましたとさ。


……伝わった?

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