経営方針
ワーガル防衛戦から1週間が経っていた。
当面の生活費はあったのと、単に仕事の依頼もなかったので、ここ数日は腕を磨くことに専念していた。
自警団の活躍に埋もれて武器のことなんて誰も気にしてなかったから、人が工房に殺到することもなかった。
鍛冶屋ランクは20になったものの、俺は本物の聖剣の輝きが忘れられないでいた。
いつかは俺もあれほどの剣を作ってみたいと思っていた。
だが、ここまでランクが上昇すると手ごたえはなかった。
「ふむ。やっぱりこれ以上はこの街で採れる素材ではどうしようもないな。もっと上級の素材で制作をしないと。」
「こんにちは。トウキ、お昼作りに来たわよ。」
「ああ、エリカ、ちょうど良かった。君にプレゼントがあるんだ。」
「え!なになに!」
「これさ。」
俺は鍛錬の課程で作ったフライパンを渡した。
「はあ…。あんたに期待した私がバカだったわ。」
そう言いつつも、エリカはフライパンを受け取る。
そして、いつものように鑑定をする。
ここのところ、俺の作るトンデモ作品を鑑定するのが楽しいらしい。
【フライパン】
攻撃力300
熱伝導(大)
焦げ付き防止(大)
「何よこれ。私に森でモンスターでも料理しろっていうの?」
「ははは。いやね、これには理由があるんだ。」
「理由って?」
「まずさ、そのフライパンはワーガルの街でお嫁さんにしたいランキング7位のエリカから見てどう思う?」
「ちょっと、何よそのランキング。」
お嫁さんにしたいランキングとは15歳以上の女性を対象に、街の男たちが毎年投票で決めているランキングである。
「気にするなよ。ちなみにエリカは4年連続で7位だぞ。」
「は?全然嬉しくないんだけど?」
「俺は毎年エリカに入れてるぞ。」
「ふへ?」
途端にエリカの顔が赤くなって恥ずかしそうにクネクネしだす。
チョロいぜ。そんなんで大丈夫かエリカさんや。
「え、えっと!フライパンについてよね!うん、焦げ付きにくくて熱伝導が良くて、主婦の人からは大絶賛されるわ、絶対。って主婦だなんて、私ったら…きゃっ。」
あ、なんか1人の世界に入ってしまった。
「こほん。それは良かった。実はな、エリカの店には武器を卸さないことにしようと思うんだ。その代わりに日用品を卸そうと思ってね。」
「ち、ちょっと!なんでよ!私に稼がせてくれるって言ったじゃない!」
「いや、そうなんだけどさ。この前の戦いを見て思ったんだ。あんなもの量産したらどうなるよ。」
「あ…。」
「とんでもない大戦争だ。それに俺は領主様に捕えられて、機械の様に武器を作ることを強要されるだろうな。」
「確かに…。トウキがそんなことになるの私、いやだよ?」
「ああ、だから、量産するのは日用品だけ。武器はオーダーメイド品のみ取り扱うことにするよ。俺だってこの腕を試したいから武器を作りたいしね。オーダーメイドだからこその品質ということにすればいい。」
「そう。なら仕方ないわね。うん、お父さんには私から話しておくわ。」
「ありがとう。さすがは俺のエリカだ。」
「ほへ?」
「さあ、腹減ったぞ。給料分は働いてくれよ。」
その後、「もう一度言って!」とうるさいエリカを無理やり台所に押し込んで昼飯を食べるのにかなりの時間が必要だった。
ちょっとからかい過ぎたかな?