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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第1章 鍛冶屋大暴れ編
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勇者の街

 シュレック侯爵、出陣の報はトウキが槍を持ってきて、わずか2時間後に知らされた。

 ワーガルの領主はホセ・カフンという伯爵であったが、ワーガルの街は領地の端っこであること、主たる産業もないことから、それよりも後方に陣取り防衛しようとはしなかった。


 この国での領主同士の争いはどれだけ領地を占領しようとも、最終的に全土を占領するか講和条項を締結して所属を決めなくては自領地とはならない。

 99%の戦いは講和条項を締結して終わる。

 これに反して占領地から徴税を行えば、王国軍が出陣してくる。


 そのためカフン伯爵の作戦はまっとうなものであった。

 ワーガルの街がいくら占拠されようとも、戦に勝利すればよいであるから。

 シュレック侯爵もまたワーガルの街は通過点に過ぎず、その先のカフン伯爵主力との戦が主戦であると考えていた。


 シュレック侯爵率いる4000人の軍勢は一路ワーガルの街を目指して進軍していた。

 そのようすを物見やぐらの上からフランクは見つめていた。

 フランクは若いころは王国軍に所属していたこともある凄腕の戦士であった。

 35歳となった今でも衰えるどころか、むしろより凄みを増していた。

 ワーガル自警団300人の人心を完全に掌握している人望の厚さも持ち合わせていた。

「ふむ。4000人の行軍とは上から見ると、かくも壮大なものなのか。1人あたま10人を倒して負けか。」

 こちらに向かってくる武装した集団を見て思わず感嘆してしまう。


 その様子を見て「さすがフランクさんだ、堂々としている。」「フランクさんが居れば何とかなりそう。」と周囲の自警団員は口々に話している。

「さてみんなそろそろ出るとしようか。」

 フランクは300人を引き連れて街の外へと陣取った。


 シュレック侯爵軍とワーガル自警団の距離はグングン近くなる。

 やがて、ワーガル自警団の槍の穂先がシュレック侯爵軍から確認できるくらいの距離となる。

「ワーガルの者よ、悪いことは言わない!降伏したまえ!」

 シュレック侯爵軍の司令官らしき男がそう叫ぶ。

「こちら自警団長のフランクだ!悪いが降伏はできない!」

 フランクはきっぱりと断る。


 占領地で禁止されているのは徴税又はそれに類する行為のみである。

 つまりそれ以外の行為は禁止されていない。

 占領されれば何をされるかわかったものではない。

 フランクには美しいリセという妻がいた。

 彼女の事を考えれば、降伏などありえなかった。


「勝てると思っているのか!」

「やってみないとわかるまい!」

 実際は絶望的であった。

 彼らの本当の仕事は街の人たちが避難先の山へと移動するための時間を少しでも稼ぐことである。

 街の退避はまだ終わっていない。

 自警団の人間はみな同じ心であった。


「ふう。仕方のない奴らだ。お前ら!行くぞ!」

 司令官の号令の下、一斉に弓が放たれる。

 遂に戦いが始まった。


「おい!お前ら生きてるか!」

 フランクは自警団員に対して叫ぶ。

「はい!奴らの弓へなちょこでっせ。全く俺たちの鎧を貫きませんぜ。」

 周りを見ると誰一人として弓によって、倒れているものはいない。

 それもそのはずである。

 自警団の構えている【ロングソード】や【ロングスピア】にはとんでもない数値の防御力が付与されているのだから。

 通常の【革の鎧】の防御力が20、【鉄の鎧】で防御力80といったところだ。

 それが【ロングソード】で防御力200、【ロングスピア】で防御力150なのである。

 領主軍の弓など効くはずもなかった。


「ほう。やるではないか。皆の者、行くぞ!」

 司令官が再び号令をかけると、騎馬を先頭に自警団へと殺到していく。

「槍兵!構えろ!騎馬が来るぞ!」

 フランクは騎馬の疾走する足音にかき消されないように大声で指示を出す。

 自警団は300本の槍を構えて、騎馬を待ち構えた。

「騎馬が近づいたら一斉に突き出すぞ!」

「「「「おう!」」」」

 自警団は士気高く返事をする。


 徐々に騎馬が迫ってくる。

 蹄で地面を蹴る音が一層大きくなる。

 そしてタイミングはやってきた。

「突けええぇぇぇぇ!!!!」

 フランクの号令の下、一斉に槍が突き出される。


 ブオオオオォォォォォンンンンン!!!!


 ものすごい風切り音が辺り一帯に響き渡る。

 そして、文字通りシュレック侯爵自慢の騎馬隊は消え去った。

 両軍ともに何が起きたのか全く理解できず、戦場に沈黙がただよう。


 その様子を遠くから見ていたトウキとエリカはもはや悟ったように低い声で会話していた。

「すごいわね。」

「ああ、消えちゃったね騎兵。」

「ええ、消えたわ。」

「ほら、自警団が反撃にでたよ。」

「私には反撃じゃなくて虐殺に見えるんだけど。」

「ははは。エリカは疲れているんだよ。」

「そうよね。けど、自警団の人だれも死んでないのに、侯爵軍はバターのように溶けているんだけど。」

「あ、エリカ。司令官らしき人が捕えられてるよ。」

「ほんとうね。」

「俺たちの勝ちだよ。」

「ほんとうね。」

「街に帰ろうか。」

「うん。」

 俺たちは何も考えないようにして街へと帰っていた。


 街の人たちは帰還した自警団を最大の賛辞をもってもてなした。

 4000人の侯爵軍を死人どころか怪我人すら出さずに、まさに完封したのであるから当然である。

 フランクは英雄のように扱われていた。

『ワーガル自警団、わずか300人で4000人のシュレック侯爵軍を撃退!』

 この報は瞬く間に王国中に広がった。

 結局、シュレック侯爵はカフン伯爵に賠償金を支払うことで講和した。

 王国中では『勇者の街は実在していた!』『ワーガルの人はみんな勇者なのでは?』とささやかれていた。


 ただ2人、真実を知る者以外は。


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