いっそのこと
俺の作ったロングソードは「以前のものより良く切れる」となかなか評判がいいらしい。
そりゃそうだ。
自警団の奴らは攻撃力80前後だと思っているが、実際は攻撃力600なのだから。
そのせいか、腕を認められた俺は自警団からの依頼で槍を作っている。
いや、正確にはもう作り終えたのだが、さすがに「槍も作り置きがありました。」は変なので、以前のランクで作ったら掛かる時間まで出荷を待っているところである。
完成した槍をエリカに鑑定してもらったところ
【ロングスピア極】
攻撃力750
防御力150
重量削減(大)
というすさまじいものが出来上がった。
「ねえ、これさ。ドラゴンすら殺せそうなのに、食事のスプーンくらいしか重さないんだけど。あんた一体うちの自警団をどうするつもり?」
エリカはもはや達観したような目をしながらそう言ってきた。
ちなみに今回も300本50万Eで請け負っている。
エリカは泣いていたが。
そんなある日、工房にエリカが駆け込んでくる。
「た、大変よ!」
「なにが?もう俺は並大抵のことでは驚かないぞ!」
「隣の領主ラウル・シュレック侯爵が宣戦布告して来たのよ!軍隊がもうすぐしたらやって来るわ!」
「なんだって!!!」
俺は大声を出してしまう。
それはシュレック侯爵の侵攻に対してではない。
オークレア王国では領主どうしが土地を争って戦争をすることは珍しくなかった。
それ以上に、戦争となれば自警団が俺の武器を使うことになる。
そうなれば今まで隠してきたものが明るみに出てしまう。
「どうするのよトウキ!」
「待て待て待て!今考えているから!」
街の人たちが戦争におびえる中、俺たち2人は全くことなることでおびえていた。
だって、俺の武器があれば自警団が負けるわけないもん!
どうすればいいんだ…。
俺は悩んだ、悩んで、悩んで、そして答えを出した。
「エリカ。」
「なになに?いい考えが浮かんだの?」
「もうさ、あきらめよう。これからは凄腕鍛冶師としてできる限り生きてみるよ。」
俺はそういうと儚くエリカに微笑みかけた。
「はああああ!!!ふざけないでよ!?ええい!そんな顔をするな!」
「けどこれしかないだろ?それにこれからは堂々をあの武器を売れるし、お前の所に専属で卸すから。な?」
「え?ほんと?」
「うん。」
「トウキ。私たち一心同体よね。」
このやろう。金儲けができるとなれば態度変えやがって。
さすが商人だ。
エリカと俺は荷台に完成した槍を乗せて自警団の詰所へと行った。
ここまでくれば、いっそ派手に商品の宣伝をしてもらおうということになったからだ。
「すいませぇん!!!」
俺は詰所の扉を叩きながら大きな声で呼ぶ。
すでに慌ただしくなっており、これくらいしなくては声が聞こえないのだ。
「うん?だれだ?」
扉が開いて中から男の声がする。
「鍛冶屋のトウキです。頼まれていた槍300本をお持ちしました。」
それを聞くと扉を開けていた男は満面の笑みになる。
「おお!トウキ、それは本当か!」
「街の危機と知り、死ぬ気で作りました。」
死ぬ気なのは事実である。ただ、その相手はシュレック侯爵ではなく王家だけどな!
「ふむ、助かったよ。今は少しでも武器が必要だったんだ。」
そういうと自警団のリーダーであるフランクは握手を求めてきた。
俺はそれに応じつつ、「フランクさん(宣伝)頑張ってくさいと。」と言ってそそくさと退散した。