伝説のはじまり
役人が来てからというもの、調査隊に付き合わされたりしてまともな作業をすることができなかった。
俺が作業に戻れたのは、エクスカリバーを拾ってから1か月を過ぎていた。
「さて、じゃんじゃんつくらないとな。うちの家計火の車だし…。」
1か月作業ができないせいで収入がなかったのに加えて、エリカへの臨時出費があったせいで、かなりやばかった。
「だが、こういうときでもなんとかなるように人生ってなってるんだな。」
なんでも街の自警団が武器を一新するとのことで、エリカのおやじさん経由でロングソードの注文が大量に入っていた。
「よし。始めるか。」
俺は早速ロングソードの作成に取り掛かった。
…どういうことだ?
俺はロングソード1本を僅か10分で作り上げてしまった。
この世界の鍛冶師は鍛冶屋ランクに応じて鍛冶スキルが成長し作成時間や付与できる能力に補正が掛かる。
例えば鍛冶屋は作成するものを念じながら素材を加工するが、ランクが高いと念じた形にすばやく加工ができる。
俺の実力ならロングソード1本はどう頑張っても2時間は掛かっていた。
それがわずか10分である。
「こりゃとんだ粗悪品を作ってしまったな…ってわけでもなさそうだなぁ…。」
出来上がったロングソードは見事な輝きを放つ、業物であった。
「…。まあ、深く考えてる場合じゃないか。早くできるならそれに越したことはない。じゃないとマジで飯が食えなしな。」
俺は黙々と作業を続けた。結局俺は頼まれていた300本を僅か数日で作成してしまった。
俺は意気揚々とエリカの店へと納品しに行く。
「こんにちは。」
「あらトウキ、いらっしゃい。どうしたの?」
「おやじさんは?」
「お父さんなら今は配達中。」
「そうか。いやな、頼まれていたロングソードを納品しようと思って。」
「ヴぇ!」
驚きのあまりエリカが若い女性の出してはいけない声をだしていた。
「ち、ちょっとまって。あれって300本だったよね?もうできたの?うそでしょ?」
「これがうそじゃないんだなあ。」
「証拠見せなさいよ!」
「急に叫ぶなよ。」
俺はエリカを工房に連れて行く。
そこには制作したロングソードが300本、きっちりと置いてあった。
「しんじられない…。」
エリカは空いた口が塞がらないといった感じであった。
「あ、あんた粗悪品作ったんじゃないでしょうね!いくらトウキでもそんなもの買い取らないからね!」
「なら鑑定してみろよ。」
実際俺自身もエリカにロングソードを鑑定してほしかった。
なんせ今まで作ったどの剣より輝きを放っているのだから。
「ええ、いいわ。」
そういうとエリカはロングソードに手をかざす。
【ロングソード極】
攻撃力600
防御力200
切れ味保持(大)
「…は?なにこれ?」
エリカは自身の理解の範疇を超えているのかそういうと固まってしまった。
「うわ…、すげえなこれは。ギルドで討伐依頼が出てるA級モンスターくらいなら一撃じゃね?」
「……。」
「おーい、エリカさーん。」
俺はエリカの目の前で手を振ってみる。
「はっ!あまりのことに気を失っていたわ。」
「とりあえず、これなら買い取ってくれるよね?」
俺にとって今最重要な用事はそれであった。
「当たり前じゃない!トウキあなたいつの間にこんな才能を!やったわ!これで私たち大金持ちよ!こんなの1本1億Eはくだらないわ!トウキ、ありがとう!」
エリカは大喜びで俺に抱き着いてくる。
やわらかなふくらみを堪能できるのはありがたいのだが、エリカに伝えるべきことがある。
「エリカ、それは無理だよ。」
「なんで?」
「だってこのロングソードは契約でもう売値決まってるから。300本で50万E。これでもよしみで高く買ってもらってるんだ。」
「いやあああああああぁぁぁぁ!!!!!」
絶叫したあと、エリカは再び意識を失った。
しばらくしてエリカが目を覚ますと、落ち着きを取り戻していた。
「うう…。悔しいけどしかたないわね。けど、なんで突然こんなもの作れるようになったのよ?」
「それがさっぱりわからないんだ。今日久しぶりに制作したらこれさ。」
「あんたちょっと鍛冶屋ランク見て見なさいよ。」
そう言われて俺は左手首に触れる。
この世界の人間は念じながら左手首を触ると自分の状態を見ることができる。
氏名:トウキ
職業:鍛冶師(ランク20)
スキル:鍛冶
「なあエリカ、俺にはランク20って書いてあるように見えるんだけど。」
「奇遇ね。私もそう見えるわ。」
「じゃあ、見間違いじゃないな。」
「そうね。」
しばし沈黙してしまう。
「どどどどどど、どいうゆうことだよ!?」
「わわわわわわ、私が知るわけないでしょ!」
完全に2人とも混乱していた。
なにせつい数日前まで俺の鍛冶屋ランクは3であった。
職業ランクは経験を積めば上昇するが、ランクが上がるほど上昇しにくくなる。
王都の学校に通っていたときに出会った、王都にいる一流の職人ですらランク7が最高であった。
それがランク20である。意味が分からない。
「まあ、たしかに街の自警団用の粗悪な鉄を使って10分で作ったのにこの性能はランク20ならうなずけるな。」
「あんたなにしたのよ…。」
「別になにも…。あっ!」
「なによ?」
「あれだ、聖剣エクスカリバーだ。きっとあれをいじくってるうちに経験を積んだんだ。」
それしか考えられなかった。
良く考えたらあれを研究していたときはやけに体力を使ったのを思い出した。
「ああ…、確かにそれしかなさそうねぇ…。」
エリカは半分呆れたように言う。
「てことはあれか。ランク20だからこそだませるレベルの【聖剣エクスカリバー】ができたわけか。」
「危なかったわね。私たち。」
「ああ、ヤバかった。」
しかし鍛冶ランク20でこれなら、本物の【聖剣エクスカリバー】を作ったやつのランクはどれほどだったのか。
考えただけで恐ろしい。
結局ロングソードは普通に買い取ってもらった。
いくつかエリカと口裏を合わせておいた。
まず、ロングソードは作り置きがあったことにした。
次に、性能については敢えて伏せることにした。
だって、そこからばれると怖いし。
だが俺たちのそんな努力は一瞬で無駄になる。
1E=1円の感覚です