積年の恨み
私とホルスト殿はトウキ殿の工房を訪ねたが、留守であった。
ホルスト殿は、「肝心なときに武器がないではないか!」と怒っていたが。
指定された日時まで時間がないため、ワーガルのギルドでジョゼ殿を雇ってホルスト殿と3人で行くこととした。
ホルスト殿と2人で居るのはなんとなく嫌だった。
いや、ホルスト殿は悪い人ではないし嫌いではないのだが、時々視線を感じて辛い。
「すまないなジョゼ殿。急な依頼に応えてもらって感謝している。」
「いえいえ!とんでもないです!私もトウキさん達のお役に立ちたいと思っていたので!」
「そう言ってもらえると助かるよ。」
「は、はい!」
ジョゼはほんのり頬を赤らめる。
初めてピナクル山で一緒に冒険してから、ジョゼはルクレスの大ファンであった。
似顔絵集も観賞用、保管用、配布・布教用に数十部買っていた。
正直、トウキの役に立つというのも建前で、ルクレスと冒険がしたいだけであった。
「ジョゼ殿。」
ホルストが静かに呼びかける。
「なんですかホルストさん。」
「(愛しの)姫様は渡さんぞ。」
「え、えっと。よくわからないですけど、(ファンとして)負けません!」
ひっそりと全くかみ合っていない戦いが始まった。
―――――――
ルクレス達は指定された森に到着する。
そこには既にムナカタが佇んでいた。
「これはこれは、御足労いただきありがとうございます。そちらの女性は…。」
「ジョセといいます。ルクレスさんに雇われまして。」
「ああ、そうでしたか。初めまして。」
「いえいえ。こちらこそ。」
ムナカタとジョゼはお互いにペコペコと頭を下げ合う。
これが武闘大会で暴れた男と同一人物なのかとホルストは疑いたくなる。
「すまないがムナカタ殿。ホルスト殿、いやシュミット家に対する恨みというのは何なのか教えてもらえないだろうか。」
「ああ!今のシュミット家の方は知らないのですね。これはこれは失礼しました。これでは復讐する意味もなくなってしまいます。」
ムナカタは頭を下げて謝罪しながら、対応する。
「いや、頭をさげられても困るのだが…。ともかく、私の先祖とはどういう関係なのだ。」
「これは今から数百年前のことでございます。魔王様と魔王様率いる魔王軍が人間界を支配しようとしていたころのお話です。私はその頃、魔王軍の鍛冶師をしておりました。」
しみじみと空を見上げながらムナカタは話し出す。
―――――――
「ムナカタよ。お主の作り出す武器は素晴らしいな。この刀という武器は特に素晴らしい。」
「もったいなきお言葉です。」
「ふむ。東方で迫害されていたそなたを魔族として魔王軍に引き入れたことは正解であったな。」
「今の私がいるのは、魔王様のおかげでございます。」
「うむ。これからも頼むぞ。」
私は自分の腕を認めて下さる魔王様のために更なる武器を作ろうと努力しました。
そして、研究に研究を重ね、鍛錬に鍛錬を重ねた結果、私は究極の剣を作る方法を発見したのです。
私はすぐに設計図を書き、制作に取り掛かりました。
ただ、制作は難航し、思うように作ることができませんでした。
そんなある日です。
部下の1人が血相を変えて私の下へ飛び込んできます。
「な、なんだと…。魔王様が勇者に倒されただと…。」
天地がひっくり返るかと思いました。
「そんなバカな!人間側に魔王様を倒せる武器など存在しない筈では!」
「そ、それが、聖剣エクスカリバーと呼ばれる武器を作り上げたそうです!」
「なんだって!」
私は部下に、聖剣について詳しく尋ねました。
「嘘だ…。私の設計に近いだと…。」
そういえば、最近部下の1人を見ません。
「あいつはどうしたのだ?」
「えっと…、その。勇者側に寝返ったとのことです。」
私は確信しました。
その部下が情報を持って寝返ったのだと。
―――――――
「それから私は調べに調べたのですよ。そしたらやはり、私の部下が情報をシュミット家にリークしていました。シュミット家の人間が設計を対魔王様に変更した結果生まれたのが、ルクレス様が腰に差している聖剣です。」
「な、なんと!」
「具体的には、魔界で採れる宝石を人間界で採れる宝石に変更したのです。」
「なるほど。それで我がシュミット家に恨みを持っているのだな。」
半分八つ当たりの様な気もするが、自分の設計が盗まれたうえに、それを利用して敬愛する人物が殺されたとなると、誰かを恨まずにはいられないのだろう。
「あ、あの。」
「なんですかジョゼ様。」
「どうしてムナカタさんは今頃復讐を。」
「復讐をしたくともできなかったのですよ。」
「というのは?」
「人間側には聖剣があり、私には対抗する手段がありませんでした。」
「なるほど。」
「ところが、ついに行幸が訪れます。そう!聖剣の力が弱まったのです!」
「そ、それがどうかしたんですか?」
「聖剣の力でこの世界と魔界は断絶されていました。ところが、聖剣の力が弱くなったことで、当時ほどではないですが、魔界との行き来が可能となりました。」
「そ、そんな秘密が!」
「実際モンスターが凶暴化したり、普段は居ない強力なモンスターが出現していたと思います。あれは魔界とのつながりが原因なのですよ。」
後にこのことを聞いたトウキは、服が吸収できない量の汗をかいて、白目をむいていた。
「聖剣の力の弱まったその隙に私は試作に必要な宝石をかき集めました。」
「な、なるほど。」
「そんなとき、さらなる行幸が訪れます!なんと魔王様が復活なさったのです!私はついに数百年ぶりに使命を果たすことができる喜びに震えていました。震えているうちに魔王様は再び聖剣で討伐されました。」
「あ、あー。」
その場に居たジョゼとしてはどう応えていいのか分からなかった。
「私は先日ようやく【妖刀・村正】を完成させましたが、時すでに遅しでした。もうこうなった以上、1度ならずも2度までも私の設計図を利用したシュミット家に復讐を果たすしかない!」
「そのことなのだがな。」
「なんですか。」
「今回聖剣を作ったのは私ではないのだ。」
「へ?」




