謎の男だけは許さない
第1回ルクレス杯は結局、謎の男の出現により、中止となってしまった。
ホルストと謎の男以外はエリカが倒していたから、俺とエリカは必死に抗議した。
もちろんそんな抗議が認められるわけもなく、この2,3日は王城の部屋で2人仲良く抜け殻のようになっていた。
「ねえ、トウキ。」
「うん?」
「呼んでみただけ。」
「そうか。」
「なあ、エリカ。」
「なあに?」
「いや、特には。」
「あらそう。」
もはや壊れた機械の様にこのやり取りを何度も繰り返していた。
形振り構わず、ガチ装備で出場した結果がこれである。
これも全部あのわけのわからないマントの男のせいである。
そう考えると、ふつふつと怒りが湧いてきた。
「なあ、エリカ。」
「なあに?」
「今回はちゃんと用事あるんだけど。」
「なによ?」
「もうさ、恐れるものは何もないんだからさ。」
「うん。」
「何とかして、あの野郎に鉄槌を食らわせてやらないか。」
俺の提案を聞いたエリカの目には闘志が宿っていた。
「いいわねそれ。あの野郎の○○を引きちぎって、中身を取り出して、お手玉でもしてやりましょう。」
「いや、さすがにそこまでは言ってないから。」
俺の股間が縮み上がる。
「そうと決まればこんなところに居る場合ではない。」
「その通りであります。トウキ隊長!」
「王城を出るぞ。」
「はい!」
俺たちは置手紙をすると、王城を後にした。
―――――――
「トウキ殿、エリカ殿、朗報だ!」
ルクレスは勢いよく、トウキ達が居る部屋の扉を開ける。
しかし、そこにトウキ達の姿はなかった。
「なっ、どこにいったのだ!まさか…。早まったことをしたのではないか!」
ルクレスは慌てて部屋の窓を開けて下を見る。
もちろんそこに鍛冶屋夫婦の死体などない。
「どこに行ったのだ…。」
ふと、机を見ると置手紙がされている。
「ルクレスへ
この度は武闘大会へのお誘いや、部屋の貸与など大変お世話になりました。
ちゃんとお礼もせずに居なくなる無礼をお許しください。
私たち夫婦は新しい目標を得ました。
あの謎の男を私たち夫婦の手で始末したいと思います。
なので早速ですが、行動することにしました。
なにか手がかりが有れば教えて下さい。
トウキ エリカ
P.S. 何度かヒヤッとする場面が有ったので、夫婦の部屋に入るときはノックをしてください。」
「ふむ。これはなんというか。ともかく、2人を追うか。」
日頃の仕返しにタイミングを見計らって部屋に突撃していたことがバレていたのだなと知って顔を赤らめる姫様であった。
―――――――
ここにも1人、抜け殻のようになっている男が居た。
そう、筆頭宮廷鍛冶師のホルストである。
「なんと無様なのだ…。形振り構わずトウキの作品を使い、自分用の防具まで作ったというのに、姫様にお助けいただくなど…。」
武闘大会までの数日は、気恥ずかしさで、ルクレスの顔を見ることができなかったホルストであったが、今は情けなさでルクレスの顔を見ることができなくなっていた。
「クソ、何なのだあの男は。」
そうだ、すべてはあの男が悪いのだ。
勝手に今回の聖剣を作ったのを私だと勘違いしおってからに。
それどころか、聖剣を作り出せなかった悔しさまで思い出してしまったではないか。
ただではすまさんぞ!
「あの男は必ず俺が始末してやる!」
ここにもう1人復讐鬼が誕生した。




