ルクレ・・・武闘大会
『いよいよ初の武闘大会、第1回ルクレス杯始まる!』
「王国内で高まる、武を競う風潮を受けて開催が決定した武闘大会がいよいよ開催される。
武を競う大会である今大会は、魔王を打倒した今代の英雄ルクレス姫の名前にちなんでいる。
1か月前から各地では熱戦が繰り広げられていたが、いよいよ明日、王都郊外に建設された、ルクレス記念競技場において決勝大会が開催される。
優勝して賞金5000万Eを勝ち取り、王家へのお願いをする権利を手にするのは誰なのか。
弊社のある王都はすでに熱狂に包まれ、お祭り騒ぎである。」
エリカを含む東西南北中央の地方大会を勝ち抜いた5人の出場者が決定し、いよいよ明日、決勝大会が開かれることとなり、俺達は王都に来ていた。
「いや、ルクレス。助かったよ。宿泊場所がどこも一杯だったから。」
初めての武闘大会ということもあって、観光客も多く来ており、王都の宿泊施設はどこも一杯となっていた。
事前に予約をしていなかった俺たちは途方に暮れていたが、ルクレスが王城の空き部屋に泊めると言ってくれた。
泊めてくれると言ったルクレスはどこか嬉しそうであった。
「ふふふ。トウキ殿とエリカ殿も少しは私のことを敬うがいい。」
俺は土下座スタイルになる。
「ははあ。ルクレス様の慈悲深さに、エルス家一同は心から感服しており、姫様のような方と誼を通ずることができ、臣下として…」
「ええい、やめんか!」
「うん。ルクレスの芸のキレは健在だね。私安心したわ。」
「エリカ殿、私は芸人ではないのだが。一応王族なのだが、なあ。」
そう言いつつも、久しぶりにトウキ達と遊べて満更でもない姫様であった。
「あ、そうそう。」
「うん?なんだ?」
「これにサインくれよ。」
俺は最近王国で発売され爆発的大ヒットを記録しているルクレスの似顔絵集を差し出す。
中には妄想力豊かな紳士が描いた架空の水着絵画まで存在している。
国王もよくこんなの許可したなぁ。
おかげで王家への忠誠はさらに上がったそうだが。
「な、な、なんでこれを買っているのだ!」
俺から似顔絵集を取り上げると、破り捨ててしまった。
「なんてことを!」
「目の前に本物が居るだろう!なぜ必要なのだ!」
「ねえ、ルクレス。」
「なんだエリカ殿。」
「私もいいかな?」
ルクレスの美しさから意外にも女性の購入者も多いそうだ。
「こんなもの!こうしてやる!」
ルクレスは雷虎と聖剣を二刀流にすると、エリカから取り上げた似顔絵集をみじん切りにしてしまった。
その後もワアギャア騒ぎながら前日を過ごした。
そういえば、こういうときに出てくるあいつに出くわさなかったな。
―――――――
「さてみなさん!ついに第1回ルクレス杯が開催されます!今日の為に地方大会を勝ち抜いた猛者の皆さんには熱い戦いを期待しましょう!」
「ワアアァァァァァァァ!!!!」
司会のお姉さんが拡声魔法で競技場全体に開催を宣言すると地鳴りのような大きな歓声が沸き起こる。
今日の為に建設した王都の外れにある競技場はとんでもない熱気に包まれていた。
みな顔を紅潮させながら、声を上げている。
司会が「ルクレス杯」と言うたびに、俯いて顔を紅潮させている王族が貴賓席にも1人居るが一般席にいる俺にはどうしようもない。
貴賓席にはアベルとジョゼのSランクコンビが護衛として居た。
「それでは、決勝大会の出場者には紹介と共に入場してもらいましょう!」
「ワアアァァァァァァァ!!!!」
「まずは東部代表のムナカタさんです。」
司会の紹介に合わせて出場者が競技場の中央へと歩いて行く。
競技場の端ではトングを持った中年の男性が睨みを効かせている。
「続きましては、北部代表エリカ・エルス伯爵令嬢です!エリカ氏はなんと、決勝大会唯一の女性出場者です!一説にはルクレス様と共に戦ったこともあると言われていますが、果たして実力の程は!」
紹介されながらエリカが競技場の中央へと歩いて行く。
「おいおい。あのねえちゃん、普通のソードじゃねぇか。」
「北部の奴は貧乏でトウキさんの日用品買ってないのか?」
「おい!馬鹿野郎!あの人はトウキさんの嫁さんだぞ!」
「「ほえぇぇぇ!!!」」
なんて会話が聞こえてくる。
「それとさ、あの東部代表のやつ。」
「ああ。全身をマントで隠しているから武器が何かわからねぇな。」
「もう戦いは始まっているのか。」
「ここまで来る人間てのはすげえなぁ。」
「では最後の出場者を紹介します!中央代表、ホルスト・シュミット侯爵です!筆頭宮廷鍛冶師を務めるホルスト氏がなんと強豪ひしめく中央を勝ち抜いて、この決勝大会に出場してきました。自ら作成した防具を身に纏っています。しかし!注目すべきはなんといっても、手にしている武器です!トウキ製品を握っています!」
あー、ホルスト。お前の副賞の使い道はなんとなく分かるわ。
うん。ルクレスは23歳にして未だ独身だしな。
愛の前にはプライドを捨てられるお前のこと、俺は嫌いじゃないよ。うん。
あと、シュミット家ってめっちゃ偉かったんだな。
「全員出そろったところで、ルールを説明します。基本的には地方大会と同様ですが、5人で一斉に戦ってもらいます。いわゆるバトルロワイヤル形式です。皆さん、よろしいですか。」
5人の出場者は頷く。
「それでは、開始します!皆様、ご一緒に!」
「5!!!!」
「4!!!!」
「3!!!!」
「2!!!!」
「1!!!!」
「スタート!!!!!!」
開始の合図と共に、マントで全身を包んだ東部代表が一直線にホルストに向けて突撃する。
それを見て、エリカは残りの2人を始末しに行く。
「おいおい。マントの男を見ろよ。どんな武器かと思ったら、剣じゃないか。」
「なんだ。トウキ製品がないから恥ずかしくて隠してただけか。」
「こりゃシュミット侯爵が勝つな。」
周りはそんな会話をしている。
が、一部の人間の見解は違った。
マントの男の武器は刀であった。
あれは、文献から俺が作成した雷虎しかない筈だ。
それを持っているなんて、奴は何者なんだ。
ホルストもそれに気が付いたのか、反撃はせず、防禦態勢を取る。
「憎きシュミット家の人間よ!覚悟!」
マントの男はそう叫びながら、刀を振り抜く。
紫のオーラを纏ったように見えるそれは、雷虎や聖剣とは正反対の存在に見えた。
「ぐっ!」
ホルストが苦悶の声を上げる。
なんとか一撃を止めたものの、装備に損傷が出ていた。
「私の負けだ。降参だ。」
ホルストは震えながら宣言する。
よほど悔しいのだろう。
「降参など認めんぞ!1度ならず2度も聖剣を作って再び魔王様を討伐させたお前を許すわけにはいかぬ!」
そういって、降参したホルストに対してマントの男は切りかかる。
あー、なんかあの男、勘違いしてるな。
聖剣作ったの俺なんだけどな。
ガキィン!
金属のぶつかり合う音が響く。
「そこまでだ。既にホルスト殿は降伏している。」
止めに入ったのはフランクさんではなく、雷虎を構えたルクレスだった。
「ぐっ、勇者ルクレス!」
そういうと、男は空高く飛び上がり、東の方へ飛び去った。
なんだったんだ…。




