地方大会
武闘大会までの2ヶ月間は大忙しだった。
各地で開催される地方大会に出場する人間は老若男女を問わず多く存在しており、トウキの最新式日用品を持っていないと話にならなかった。
そのため、王国中から買いに来る人が殺到し、プチバブルとなっていた。
雑貨屋や服屋、カフェのおっちゃんたちも、泣いて喜んでいた。
「げへへへ。」
「ぐふふふ。」
「トウキよ。お主も悪よのぅ。」
「いやいや。エリカ様ほどではございませんよ。」
「「がはははは!」」
鍛冶屋夫婦はここのところずっとこんな感じである。
ここまで有頂天になっているのは、もちろん、莫大な売上が発生したこともある。
だが、それ以上に免税を勝ち取るべく秘策を引っさげていたのも大きかった。
―――――――
そして迎えた、地方大会当日。
会場に現れたエルス家を見て、大会の参加者は心をひとつに叫ぶ。
「ずるいだろおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
手にはショートソード、ビキニアーマーを装備し、左手の薬指にはキラキラと輝く指輪をした女が現れたのである。
そう。何のことはない。
他人に売りつけた日用品を上回る、ガチ装備で全身を固めてエリカが出場してきたのである。
「な、なあエリカ、トウキ君。周りの目に耐え切れないのだが…。」
「お父さん、何を言ってるのよ。こっちはお家の運命が掛かっているのよ。形振りなんて構ってられないわ。」
「その、辛かったらおやじさんは帰宅してくれていいですよ。俺達はこういう視線には慣れているので…。」
「すまない。トウキ君。お言葉に甘えさせてもらうよ…。」
「さあ、行くわよトウキ。」
「ああ、必ず我が家で免税を勝ち取ってやるぜ。」
「え、えーと。ルールを説明します。」
北部地方大会の司会を任されたリセさんがエリカを見ながら、震える声で説明を始める。
「まず、身体への攻撃は良いですが、殺傷は禁止です。勝利条件は相手の戦意を削ぐ、相手の武器を使用不能にする、相手が降伏する、など審判が勝利と判定することです。」
「本日の審判を務めるフランクだ。よろしくたのむ。」
「それでは、始めます。」
もう早く終わってくれと言わんばかりのリセさんの態度であった。
ついに地方大会が始まった。
が、結果は火を見るより明らかであった。
装備の差を自身の技術やスキルで埋めることはできるが、如何せん装備の差が大きすぎた。
対戦相手の攻撃は全くエリカには通じない。
しかし、エリカの攻撃は軽々と相手の日用品を破壊していく。
決勝戦に至っては、戦っても勝てないと相手が降伏してエリカの不戦勝で終わった。
「なあジョゼ。」
「なにアベル君。」
「俺たち応援に来た意味あったのかな。」
「そ、そうだね…。」
「むしろ、あれって応援していいのか。」
「せめて敵にはならないであげようよ。トウキさん達も必死なんだよ。」
「そうだな。」
「ほ、ほら、私たちお世話になってるんだから。」
「確かに、お世話になってるしな。」
「帰ろうか。」
「帰るか。」
アベルがチラッと見ると、観戦に来ていたルクレスも頭を抱えていた。
―――――――
帰宅した俺たちは家族3人で祝賀会を開いていた。
ジョゼ達も誘ったのだが、断られた。
「やったわね。」
「ああ、本大会もこの調子で頼むぞエリカ。」
「もちろんよ。必ず免税を勝ち取ってやるわ。」
「よし。残り1か月。今日の戦いを踏まえて装備の調整だ!」
「了解であります!」
エリカはビシッと敬礼してみせる。
たくましくなった娘の姿に、嬉しいやら悲しいやら、よくわからない涙を流す、道具屋の店主であった。




