ばれなきゃ大丈夫
連絡をしてから数日後、王都から役人がやってきた。
私は、役人を案内するため村の入り口で待っていた。
「そなたが連絡をくれたエリカ殿か?」
「はい。」
「では早速、勇者ゆかりの物を見せてもらおう。」
「こちらです。」
私は役人をトウキのところへと案内する。
「ふむ。勇者の物を見つけたと連絡してくる者は良くいるが多くは偽物である。今回は勇者生誕の地、ワーガルということで少し期待しておるのだ。」
「そ、そうですか。」
冷や汗が止まらない。
しばらく歩いてトウキの工房の前に着く。
「貴殿が勇者の物を見つけたというトウキ殿か?」
「はい。そうです。」
「ふむ。では早速見せていただこう。」
「こちらです。」
トウキはすっかり輝きを失った聖剣を手渡す。
「では早速鑑定をしてみよう。」
そういうと役人は剣に手をかざす。
【聖剣エクスカリバー】
攻撃力1000
「こ、これは!」
役人はおどろきのあまりしばらく固まる。
まさか、バレたの!?
私の心臓が飛び跳ねそうになる。
「ま、間違いない!勇者が魔王討伐に使ったと言われる失われた聖剣エクスカリバーだ!!!」
役人は興奮のあまり大声で叫ぶ。
「トウキ殿!いったいどこでこれを見つけたのだ!」
「はい。この街の外れにあります森の中で見つけました。」
「そうか!その森とやら調査してみる必要があるな。しかし、さすが勇者生誕の地と呼ばれる街ワーガルだ。」
「はい。私も最初に見つけたときは、びっくりいたしました。」
トウキが白々しく答える。
「しかし妙だ。」
突然役人が首をかしげる。
「たしかに攻撃力1000というのはすごい。だが、伝承にある聖剣の力はこんなものではなかったはずだ。光の様に輝き、持つ者の能力を大きく上昇させ、如何なる状態異常も弾き飛ばし、どんな怪我でも瞬時に治したというが…。」
「そ、それはですね!」
私はあせって声が上ずりながら答える。
「それは?」
「そ、それは…、えっ、えーと…。」
まさか役人がこんなにも聖剣について詳しいなんて。
予想外の出来事にどうしていいのか分からなくなる。
「よろしいですか?」
トウキが静かに話し出す。
「なんだね?」
役人は鋭い視線をトウキに浴びせる。
「はい。一介の街の鍛冶師の目線ではありますが、考えられる理由は3つです。」
「ほう。」
「1つ目は伝承自体が間違っている可能性です。こういう話はえてして盛られているものです。2つ目は伝承にはないが聖剣は力を失ってしまったということ。3つ目は聖剣は森の中に打ち捨てられるようにして見つかりましたので経年劣化した。この3つが考えられます。」
「なるほど。トウキ殿の言うことは筋が通っているな。」
「ありがとうございます。」
「ともかく、これは王都へと持って行く。そなたには発見の報酬がいずれ支払われるだろう。」
「わかりました。」
そういうと役人は聖剣を持って去って行った。
私とトウキは村の入り口で役人を見送っていた。
役人の姿が見えなくなった途端、トウキが突然しゃべりだす。
「だはー!こわかったー!」
「怖かったじゃないわよ!役人の人が気付きそうになったときにはびっくりしたわよ!」
トウキの作戦とは、「見つけたときからその状態でしたよ」作戦であった。
トウキが「エリカの鑑定で作り直した剣の名称が【聖剣エクスカリバー】のままだったからいける。」と豪語してこの作戦を決行した。
「全く…、ほんとに怖かったんだからね。」
私は緊張の糸が解けて泣き出してしまった。
「お、おい。悪かったって。ほら、お詫びになんでもおごってやるから。」
「ほんとう?」
「ほんとほんと。」
私は街で一番高いレストランに連れて行ってもらいました。
トウキはワインだけ頼んで終始白目だったけど、自業自得よ。
それから数日後に大規模な調査隊が街に来たけど、何も見つからなかったそう。