商機
副賞の発表が有ってからはもう、ギルドはお祭り騒ぎであった。
結局、ルクレス達と落ち着いて話ができるようになったのは、深夜になってからだった。
「トウキさん、どうぞ。エリカさんも。」
「ジョゼ、ありがとう。」
最近は花嫁修業のためといって、ジョゼは暇なときは宿屋で働いている。
リセさんと2枚看板娘になっているそうだ。
「トウキ、少し痩せたんじゃないか?」
40歳になっても衰えることを知らない肉体をしているフランクさんが心配してくれる。
「ははは。そういえばアベルはどうしたんですか。」
「アベルは今は依頼でな。」
「そうなんですか。」
ふむ。最近工房の前をやたらと行ったり来たりしていたから何事かと聞こうと思っていたのだが、居ないなら仕方ない。
「それでルクレス。武闘大会ってなんだ?」
「うむ。3年前に貴族同士の戦争を禁止してから、貴族の間での揉め事は決闘で決めることが主流となってな。そのうち、武を競う者が現れたのだ。貴族の中には一般人も巻き込んで私的な大会を開く者まで現れたのだ。」
「なるほど。それでこのほど、王国主催で開催する訳か。」
俺は改めてポスターを見る。
「ん?この大会、『ルクレス杯』というのか。」
「…めて…れぇ。」
「どうした、プルプル震えて?」
「恥ずかしいから、やめてくれと言っているのだ!」
顔を真っ赤にして涙目である。
「よいか!これからの会話でも『武闘大会』と呼ぶぞ!いいな!」
そういえば、王族的なことが苦手なんだった。
「で、武闘大会では副賞があると。」
「その通りだ。」
「なるほど。こいつで未来永劫エルス家を免税してくれと頼めばいいんだな。」
「そういうことになるな。」
―――――――
俺たちは久しぶりの明るいニュースにホクホクしながら工房へ帰った。
「エリカ、俺は良いことを思いついたぞ。」
「え、なになに。」
「ごにょごにょごにょ。」
「トウキ!あなたさすがだわ!」
「早速、なけなしの金をかき集めて新聞広告を出すぞ!」
「了解です!トウキ隊長!」
数日後の昼過ぎからは、エリカの店に在りし日の賑わいが戻っていた。
「ぐふふふ。トウキ。」
「おい。さすがに夫の俺でもその顔は引くぞ。」
「だって久しぶりの大繁盛なんだもん!」
「はいはい。俺は制作作業に戻るからな。」
「わかったわ。私は店番を頑張るからね!」
今朝の新聞に載せた公告の効果はばっちりだったようだ。
『武闘大会に向けて日用品をアップグレードしよう!』
「皆さん、ついに始まる武闘大会!
ライバルに差を付けたくないですか?
そんなあなたに朗報です!
今ならなんと!!!
旧式の日用品を持ってきていただければ、
最新式の日用品をお得な値段で販売致します!!!!
こんなチャンス2度とありません!
この機会に当代一の鍛冶師トウキの作る逸品を手にしてはいかがですか?」




