とっておきの話
ワーガルのギルドは今やリセさんの宿屋と共に、この街の経済の中心となっていた。
と言うのも、昇格基準の厳しい王国において、3人しかいないSランク冒険者が全員所属しており、彼らを筆頭に、依頼に来る人間は後を絶たない。
そして、冒険者や依頼者が宿泊するのがリセさんの宿屋である。
気が付けば、この3年間でギルドと宿屋が合体した王都のホテルみたいな外見の建物に改築されていた。
「いつ見てもすごいなぁ。」
「ほんとうね。一応うちの店にも拡張計画はあったのよ。」
「「……。」」
「エリカ。とっておきの話って、冒険者になれってことかな。」
「かもしれないわね。もうこの際私たちは貴族身分捨てて、冒険者しましょうか。」
「そうだなぁ。そうすれば俺たちは生きていけるな。」
「「あはははは…。」」
「2人ともなにを勘違いしているのだ。まあいいか。入るぞ。」
俺たちは久しぶりにギルドへと足を踏み入れた。
いつぞやの閑散として、俺がシャイアの街の探索をお願いした頃とは比べ物にならない光景がそこにはあった。
受付のフロアに併設された食堂では、多くの冒険者が机を囲んで談笑をしている。
いつだったか、所属が100人を超えて大変だとフランクさんが嬉しそうに嘆いていた。
「あら、いらっしゃいトウキ君、エリカちゃん。」
ギルドの受付嬢であり、ギルド長の妻にして、齢30歳にして妖艶さを増し、ますますファンを増やしている、例のあの人が話しかけてくれる。
「リセさん、お久しぶりです。すいません、貧乏人はすぐ出て行きます。」
「ごめんなさいリセさん、お店には迷惑かけませんから。足を踏み入れた夫と私を許してください。」
「な、なんでそんなに卑屈なのよ2人とも。」
「リセ殿、このままでは埒が明かない。例の発表をしてくれ。」
「ええ、わかったわ。」
そう言うと、リセさんは一枚の巻物を手に、受付の横にある一段高くなった、舞台のようなところに登る。
「えーと、ギルドの皆さん聞いて下さい。」
リセさんがそう告げるもなかなかギルドの喧騒は収まらない。
「みなさーん、お静かにお願いします。」
それでも静かにならない。
リセさんが俯いてしまう。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチ!
突然鳴り響く金属音を聞いた途端、ギルドの喧騒はピタリと止んだ。
冒険者はみんな顔が青ざめていた。
うん。あの人だね。
「では、改めてお知らせです。この度、王都で武闘大会が開かれることとなりました!なんと優勝賞金は5000万Eです!」
そういってリセさんは持っていた巻物を拡げる。
どうやら武闘大会のポスターだったようだ。
「「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」
ギルド中が大騒ぎになる。
「今から2か月後に地方大会が開かれて、3か月後に王都で決勝大会が開催されます。参加条件は公務員でないことですので、冒険者の皆さんは是非参加してくださいね!しかも、Sランク3人は決勝大会の警護任務に就きますので、不参加です!」
「「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」
再び冒険者たちが雄叫びを上げる。
それからしばらくはすごい熱気だった。
あちらこちらで「今から鍛錬をするぞぉ!」「5000万Eでなにしようかしら。」「この大会で優勝したらあの子にプロポーズしよう。」などなど、興奮気味に話す者が後を絶たなかった。
「なあルクレス。もしかして、とっておきの話ってこれか?」
「ああ、そうだ。」
「ありがとうねルクレス。けど、一時金で5000万Eを貰っても、どうしようもないのよ。あなたのやさしさだけ、ありがたくもらっておくわね。」
「ええい!エリカ殿、手を握りながら、そんな慈愛に満ちた目で私を見るな!リセ殿、副賞を告げるのだ!」
「あら、私ったら忘れていたわ。皆さん!副賞は、王家が実行可能な範囲での願い事1つですよ!」
それ副賞なのか?




