貧乏
色々お騒がせしました
楽しんでいただけたらと思います
ルクレス達が魔王を討伐してから3年が経過していた。
王国はとても平和で特に大きな問題が起きることもなく、日々楽しくどんちゃん騒ぎして暮らしていた。
…が、ここのところは重大な問題が我がエルス伯爵家を襲っていた。
「ねえ、トウキ。」
「なんだい。」
「あんた最後に炉に火を入れたのいつよ。」
「ルクレスがお情けで大して摩耗してない雷虎のメンテナンスを頼んできたときだから、1か月前かな。」
「次はいつなのよ。」
「多分そろそろ、ローテーションでフランクさんがメンテナンスに来てくれるはず。」
「なにか新作はないの。」
「発明してくれよ。そしたら作るからさ。」
「「はぁーっ。」」
魔王討伐後も俺の作る日用品は飛ぶように売れ、エリカの実家も大儲けであった。
ワーガルへの観光客も増加して、町全体がまさに勇者バブル状態であった。
それも今は昔の話である。
異変に気が付いたのは、魔王討伐から半年くらい経過したときである。
それまで並べば売れていたエリカの店で、少しずつ在庫が発生し始めたのだ。
山のようにあった各地の商店からの注文も減って行った。
理由は至って簡単であった。
そう、俺の作る日用品は耐久性がとんでもないことになっているから、買い替える必要がないのだ。
つまり、一度買ってしまえば再度買い直す必要がなく、ある程度行き届いてしまえば、客は来なくなるのだ。
これに気が付いてからは、一心不乱に新製品を作りまくった。
不本意ながら、香辛料の入れ物だって作った。
作れば売れ、作れば売れ、そして、鍛冶屋として作れる新製品のストックが尽きたのが、1年ほど前である。
それらを売り切った結果、連鎖的に俺の仕事もなくなっていた。
今では隣の道具屋に行くのは消耗品を買いに来る人ぐらいとなっていた。
普通の商店なら消耗品を売るので収入としては十分である。
むしろギルドのおかげで消耗品を売るだけでもそれなりの儲けはあった。
ところが、エルス家は伯爵家としてワーガルを治めており、行政の費用や王都への上納など、お金が必要である。
普通の貴族は広大な領地に複数の都市があり、収入は安定している。
ところが、エルス家はワーガルしか領地がない。
太っ腹に3分の1にした税金も多少の増額をしたが、それでも窮地に立っていた。
勇者熱もそのころにはすでに冷めており、ワーガルの人々に高額の税金を請求することなんてできなかった。
そもそもそれでは、元のカフン伯爵と同じである。
あれだけあった貯えもどこへやらである。
エリカのおやじさんはしょっちゅう王城に嘆願書を書いて、ルクレスの口添えで税金を猶予あるいは減税してもらっていたが、それにも限界がある。
「トウキ。」
「なんだい。」
「このままじゃ、エルス家はお取り潰しで、ワーガルはまたカフン伯爵領に戻ってしまうわ。そしたら、あのボンボンに今度こそ私は襲われるのよ。ああ、なんということなの…。」
「おい。悲劇のヒロインはいいけどな、何か考えようぜ。俺だってお前をあのクソ野郎に渡すつもりはないんだ。」
「トウキ…。」
「エリカ…。」
「やはり、2人はいつみ見ても仲が良いな。うんうん。良いことだ。」
「何当然の権利の様に人の家に入っているんだよルクレス。」
「細かいことは気にするなトウキ殿。」
「いい雰囲気だったのに…。」
「ははは。それはすまなかったなエリカ殿。」
「で、今日はなんの用事なんだ。雷虎のメンテナンスはこの前しただろ。」
「ふふふ。2人にとっておきの話を持ってきたのだ。」
「「とっておきの話?」」
「とりあえず、ギルドへ移動しよう。」
俺たちはルクレスに促されるまま、ギルドへと向かった。




