二人の出会い
「ねえリセ、あなたもせっかく王都の学校に来たのだから、もっと遊びなさいよ。」
「私は遠慮しておくわ。遊ぶために王都に来たのではないのだから。」
「硬いなぁ。勉強ばっかりじゃ疲れるでしょ?勉強の息抜きにも遊ぶことも必要よ。」
「そうかもね。考えておくわ。それじゃあ。」
「あ、ちょっとリセ!」
私は父の勧めで、15歳になると王都の学校で学んでいた。
今後旅館を継ぐにしろ別の仕事をするにしろ、経営や会計について勉強しておくことは有意義なことだと思った私も二つ返事で王都の学校に進学した。
王都の学校では非常に高度な教育を受けられたし、王都の図書館には膨大な量の書籍があり、私の知的好奇心を満たしてくれるとても素晴らしい場所であった。
一方で、王都はこの国で一番の都会であり、学友たちは多かれ少なかれ、遊びにも熱心だった。
遊びにばっかり熱心な人も多かったが。
「さて、今度提出しないといけない課題でもするかな。」
そう呟いて私は王都の図書館へと向かう。
「ちょっと、そこのお姉さん。」
図書館への途中で3人組の男性に突然声を掛けられる。
「なにか用事でしょうか?」
「なにか用事もなにも、男がねえちゃんみたいな若くて綺麗な人に声を掛ける理由なんて1つしかねえだろぅ?」
男の1人が酒臭い匂いをさせながら話しかけてくる。
「すいません。私急いでますので。」
そう言って通り過ぎようとする。
「おいおいおい。待った待った。」
別の男が腕を掴んでくる。
ただの女学生の私には振りほどくことなど到底できない。
「お願いします。離してください。」
周りの人間は関わりたくないという顔で通りすがる。
これがワーガルなら、鍛冶屋の親父さんや道具屋の親父さんが駆け付けてタコ殴りにしたあと、身ぐるみを剥いで雑貨屋の親父さんがそれを売り飛ばして、服屋の親父さんがボロ切れを着せた後、反省するまでカフェの親父さんのところで働かされるはずだ。
「まあ、まあ。落ち着いて、とりあえずあそこの飲み屋で話そうよ。」
最初に声を掛けてきた男がそう言って一軒の飲み屋を指差す。
「い、いやです!だ、誰か助けてください!」
私は腹の底から声を出す。
衛兵でもなんでも来てお願い!
「おい。止めてやれ。」
突然男性の声が聞こえる。
声の方を見ると1人の壮年の男性が立っていた。
「なんだおっさん?」
酒臭い男が話しかける。
「いや、俺はまだ25歳なのだが…。」
あ、ごめんなさい。私もそれぐらいの人だと思ってました。
訂正して、声の方には1人の青年が立っていた。
「ともかく、このお姉さんは俺たちと遊ぶんだから邪魔しないでくれないかな?」
「俺は非番だが王国軍の兵士だぞ。お前たちこそ止めておいた方がいい。」
「ははは。そりゃ装備があるならビビるけど。今のあんたにビビるかよ。」
酒の入った男はそういうと、突然殴りかかる。
バシッ!
「な、なんだ!?」
王国軍兵士の青年は酔っ払いの拳を受け止める。
「忠告はしたからな。」
そういうと酔っ払いを殴り返し、一撃でノックアウトしてしまった。
「こ、このやろう!」
もう1人の男が殴りかかる。
が、それも軽々と倒す。
「おい!」
私を掴んでいた男はそう叫ぶと、私の首筋にナイフを突き付けてくる。
「この女がどうなってもいいのか!」
うーん。別に私この人の恋人でもなんでもないから、そのセリフはどうなんだろう。
などと、なぜか冷静になっていた。
「おい。」
突然王国軍の青年が私に呼びかける。
「は、はい!」
「動くなよ。」
「へっ?」
それだけ言うと、王国軍の青年はポケットから何かを取り出して、私を掴んでいた男の頭に思いっ切り投げつけた。
「げふっ!」
男はそれだけ言うと倒れてしまった。
倒れた男の横には香辛料の入った瓶が落ちていた。
「大丈夫ですか。」
「私と結婚してください。」
「はい?」
―――――――
「っていう情熱的な出会いだったのよ。まあ、私ったら興奮して話し過ぎたわ。」
俺たちはギルドでその話を聞かされていた。
うっかりジョゼが「リセさんとフランクさんはどうやって知り合ったんですか?」なんて聞くからだ。
既にこの話を何回も聞かされたエリカは上の空である。
「そうだトウキ君!香辛料入れの瓶とか作る予定は…。」
「ないです。」
「えー、ひどいわ。」
「あの…、フランクさんはなんで香辛料の入った瓶なんて持っていたんですか?」
ジョゼが尋ねる。
ああ、やめろジョゼ。それを聞いてはいけない。
「リセを助ける前に、王都の商店街の福引で偶々当たったんだ。」
「へ、へぇ…。人生何があるか分かりませんね…。」
「そう!まさに運命よね!」
再びリセさんに火がついてしまった。
エリカは空のコップを何度も口に運んでいた。
―――――――
「ほら、トウキ君。うちの娘のエリカだ。」
「ははは。道具屋、娘の成長が嬉しいからって、ちょくちょく見せに来なくてもいいじゃないか。」
「いやいや、これから先ずっと、近所同士お世話になるんだから。なあトウキ君。」
「おいおい。トウキはまだ2歳だぞ。」
「トウキ君も、エリカのこと好きだよな?」
「てちゅ。」
「ん?」
「てちゅがすき。」
道具屋の顔面は蒼白だった。




